地域組織と食の安全:南アメリカの経験

World Food Clock(ワールド・フード・クロック)によると、世界では1分間に1,100万ポンドの食料が消費されている。理論的には、私たちは食料を消費することで、生きるために必要な栄養を摂取している。従って、食料の問題は私たち全員にとっての関心事である。そして今年の世界保健デー(4月7日)のテーマが「食品安全」であったことはまさに時宜を得ていた。食品の安全(十分な食料を入手できることを意味する食料の安全保障とは別のものである)は、食品由来疾患を防ぐための食品の安全な取り扱い、調理、そして保存と関連している。

食料は、農作物の作付けや家畜の飼育から始まり、調理といった最終の準備段階で締めくくられる複雑なプロセスを経て、私たちの食卓にたどり着く。このプロセスには、農業従事者や販売者、物流業者に加え、政策立案者といった舞台裏で関与する人など、さまざまな人が関わっている。食品の取り扱いはとくに、世界中で重大な問題である。その理由は、不適切な調理の仕方が健康に影響を及ぼすからだけではない。食品由来疾患が(予防および治療が容易であるにもかかわらず)貧困層に偏った影響を及ぼすからだ。世界では毎年、汚染された食品や飲料水のために200万人が命を落としていると推定される。

最も深刻な食品由来疾患の1つが、下痢性疾患である。世界保健機関(WHO)によると、下痢性疾患は5歳未満の子供の死亡原因の第2位であり、毎年およそ76万人の子供がこの疾患が原因で亡くなっている。下痢はほとんどの場合、さまざまな細菌性、ウイルス性および寄生生物によって生じる腸管内の感染症状であり、その一部は顧みられない熱帯病(NTDs)に分類されている。感染は汚染された食品や飲料水を通して、あるいは不衛生によって人から人へと広がる。

NTDsは世界の最貧困層に影響を及ぼし、身体的・知的発達を妨げるため、そうした人々にとって生計を立てることが難しくなり、その結果、貧困および病気の連鎖が永続することとなる。米国疾病予防管理センター(CDC)の報告によると、世界では10億人以上がNTDsに感染しており、すべての低所得国において常時5種類以上のNTDsの感染が確認されているとのことである。NTDsの「顧みられない(neglected)」という側面は、それらに対応するための資金が不足していることで、いっそう悪化している。

地域支援の強化

こうした驚くような数字は、食品の安全という一見ありふれた問題が、貧困の削減においては世界的な脅威となりうるかもしれず、それどころか不平等を拡大するとともに、食品由来疾患の発生によって食品業界に多大なる損失をもたらす可能性があるという点を浮き彫りにしている。WHOは世界保健デーに向けたキャンペーンにおいて、医療セクターや商業セクター間、そして国家間のコミュニケーションを伴う、「フードチェーン全体における国境を超えた協調的な行動」の必要性を強調している。グローバルレベルでの貿易セクターの責任は明らかであるが、これらの疾患が社会にもたらす影響を考慮すると、協調してこの問題に取り組むことは、各国の利益にかなっている。

近年、社会問題への近隣国同士の対応を調整・サポートする重要なプレーヤーとして、地域組織が浮上している。その一例が、伝染病や移住、生活環境の悪さといった国境を超えた多くの問題に対処するための地域レベルでの取り組みである。

一方で、こうした動機や合意は、善意を超えて具体的な成果につながらなければならない。しかし地域レベルでの説得力のある言葉は、一体どの程度まで国の政策に姿を変えているのだろうか?複数の大学のリサーチャー(研究員)で構成されたPoverty Reduction and Regional Integration(PRARI:貧困削減と地域統合)プロジェクトでは、南部アフリカ開発共同体(SADC)および南米諸国連合(UNASUR)における地域的な保健政策および貧困削減政策の成功を検証するための監視ツールを開発することにより、この問いに答えようとしている。この監視システムは、リサーチプロセスの全段階において、地域および各国の専門家チームと協働する形で作り上げられている。このような参加型アプローチを用いることで、加盟国の現状に対応するより正確な結果を生み出すだけでなく、最も重要な点として、プロジェクトの存続期間を超えて監視ツールに対する当事者意識を促進することが期待されている。

実際、南米12カ国で構成される地域組織であるUNASURが2008年に設立されて以降、不平等の削減と健康の促進は同組織の推進力となってきた。世界でも最悪水準の経済的不平等に苦しんでいる国々が設立したUNASURの焦点の一部は、そのような不平等に立ち向かうことに置かれている。さらにUNASURは左翼系政府の集まりによって設立されたものであるため、健康問題を、人権と同程度の価値にまで持ち上げるべき社会問題として取り組んでいる。

こうした中、私たちが行っているPRARIの調査は、UNASURが先駆的な保健外交や、健康を通じた社会的一体性のための場所を生み出していることを示している。包括的な健康目標は、社会保障制度や医療サービスを誰もが利用できるようにすることである。この目標に向けて、UNASURは健康に重要な社会的決定因子の特定と、食品安全、健全な自然環境および気候変動などの分野に関するセクター間の政策やアクションの推進を目指している。これは主に、UNASURの活動の土台の1つと考えられているTechnical Group of the Health Surveillance and Response Network(健康監視の技術グループおよび対応ネットワーク)による健康監視活動を通じて実施されている。政策実施レベルでは、UNASURは、健康に悪い食品や慢性的非伝染性疾病、座りがちな生活習慣に関連する健康リスクに対処するために、国境を超えた新しいリスク軽減プロジェクトや、健康および食料の安全保障プログラムのための資金提供を取りまとめている。

UNASUR地域における保健面での進展は、励みになるとともに、食品の安全といった問題において、これらの組織が果たすことのできる役割を明らかにしている。年内に完成されるPRARIプロジェクトの監視ツールは、こういった地域的な取り組みがどのようにして、食品の安全やその他のさまざまな健康問題に関するすぐれた保健政策を促進することができるかを追跡する。こうしたプロセスを分析することで、UNASURがどのようにして加盟国をサポートしているか、また、民主的な説明責任を確保するためのツールをその他の当事者に提供しているかに関し、重要な教訓を明らかにすることができる。舞台裏の政策立案者が日の当たる場所に出てくるべき時が来ている。

翻訳:日本コンベンションサービス

著者

アナ・B・アマヤ氏は、貧困削減と地域的統合の関係に注目するPRARIプロジェクトの研究者で、ブリュージュの国連大学地域統合比較研究所(UNU-CRIS)で活動している。

M. Belen Herrero(M・ベレン・エレーロ)博士は、ブエノスアイレスにあるFLACSO-Argentina(ラテンアメリカ社会科学部、アルゼンチン)において、貧困削減と地域統合のつながりを検証する取り組みであるPRARIプロジェクトに従事している研究員です。