太陽電池に古いバッテリーを利用

テクノロジーにあふれる今日の世界では、物事の進歩があまりに速いために、より新しい商品の登場とともに昨日の真新しい装置が厄介払いされるという悲しい事実がある。こうした状況が招く1つの影響が、Our Worldで過去に考察したように、増加の一途をたどる電子廃棄物(E-waste)の問題だ。私たちが毎年廃棄する4100万トンもの装置には、汚染物質だけではなく、回収できるリサイクル可能な部品や貴重な資源も含まれている。

幸いにも、国連大学が主催する電子廃棄物問題を解決するイニシアチブ(StEP)のような活動が、ライフサイクル・アプローチの観点からテクノロジー問題に取り組む必要性に光を当てている。ライフサイクル・アプローチとは、デザイン、原材料、生産から、製品の陳腐化、廃棄、リサイクルまでの問題を考える手法だ。StEPの発展に積極的に貢献し、共有された原則に従ってE-waste問題の解決のために他の加入組織と協力することを誓う組織であれば、どんな組織でもStEPに加入することができる。

うれしいことに、StEP加入組織の研究者たちが、廃棄された自動車のバッテリーから鉛を回収し、新型のソーラーパネルの生産に利用する方法を考案した。(共通の特有な構造を持つ結晶の一科である)ペロブスカイトを含む 物質の一族を使って製造されるこのソーラーパネルは、ほんの数年前に業界に登場した。この同族の複合物で作られた電池は、あっという間に太陽光発電(PV)研究における「新たな流行」(基礎要素)となり、PVの未来の姿だと予測する人々もいる。

しかしマサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームは、ある1つの物質から太陽光電池を生産することに注目した。その物質が有機鉛ハロゲン化物ペロブスカイトだ。安価に合成できる有機鉛ハロゲン化物ペロブスカイトを使ったソーラーパネルは、量産されているソーラーパネルに近い電力変換効率(太陽光を電力に変換する効率性)を瞬く間に達成した。

Angela M. Belcher(アンジェラ・M・ベルチャー)教授とPaula T. Hammond(ポーラ・T・ハモンド)教授が率いる研究チームは、このシステムを『Energy and Environmental Science(エネルギーと環境科学)』誌に掲載された新しい論文で説明している。

同チームは、鉛の利用は当初、欠点として捉えられていたと記している。しかし、古い自動車のバッテリーから回収された鉛を利用すれば、有毒物質が埋め立て地行きになるのを防ぎ、数十年にわたって電力を生産し続けられるPVパネルに再利用することができる。新しい資源を利用する必要性が低減するため、人間と生態系の健康にプラスの影響が及ぶと研究チームは指摘している。鉱石から鉛を抽出する工程は、封じ込めるのが困難な蒸気とほこりを排出する、環境を汚染する高温でのプロセスだと研究者らは説明する。

研究チームによると、古い自動車のバッテリーから鉛を再利用するもう1つの重要な理由は、電池の技術は急速に進化しており、リチウムイオン電池のような、より効率のよいタイプの電池が市場を席巻しつつある状況にある。「電池の技術が進化すれば、アメリカで2億個以上の鉛蓄電池が廃棄される可能性があります。そうなれば、多くの環境問題を引き起こしかねません」とベルチャー教授は語る。

ベルチャー教授によると、現在、古いバッテリーのリサイクルによって回収された鉛の90%は、新しいバッテリーの生産に利用されている。しかし、新しい鉛蓄電池の市場が廃れれば、古いバッテリーが蓄積し始め、有害廃棄物の問題を引き起こしたり、他の国に送られて非公式のリサイクル業者の手に渡ったりする。非公式のリサイクル業者は「一般的に標準以下の処理方法を利用し、人間の健康や環境を守るための適切な施設を持たない」とE-wasteに関するStEPの報告書に記載されている。「標準以下の非公式のリサイクル業務は……労働者の健康と地域の環境に直接的なリスクを生じる」

「この研究は刺激的です。電気電化製品が埋め立て地に廃棄されたり、安全ではない方法で処理されたりするのを防ぐStEPの活動と同様に、PV技術への鉛電池の利用は資源の再利用を高める方向に大いに役立つからです」と、国連大学サステイナビリティ高等研究所のE-wasteに関する活動を率いるルーディガー・キュール氏は語る。

大規模化が容易

驚くべきことに、ペロブスカイトを利用した太陽光電池の素材は、厚さわずか0.5マイクロメーターの薄膜であるため、1台の自動車のバッテリーから回収される鉛で、30件の住宅に電力を供給できるだけのソーラーパネルを生産できることが、チームの分析によって示されている。

さらに、有機鉛ハロゲン化物ペロブスカイト電池に利用するために古いバッテリーから鉛を回収するプロセスは、主に低温の環境で行われ、従来型の太陽光電池の生産と比べると比較的シンプルであると、ベルチャー教授は語る。研究チームはプロセスを撮影した映像を公開しており、それを見ると確かにかなり簡単なようだ。

こうした要因のおかげで「安価に大規模生産することが容易」だと、論文の共同筆者の1人、Po-Yen Chen(ポーイェン・チェン)氏は強調する。

鉛を含むペロブスカイトの薄膜で覆われた、比較的壊れやすいソーラーパネルを住宅や職場に設置するため、重金属との接触の危険を懸念する人もいるかもしれない。しかし論文の筆者らは、ソーラーパネルの完成品では鉛を含む層は別の素材で完封されると指摘する。

「完封する工程は、現在のポリマー電池と同じ工程になるでしょう」とチェン氏は語る。「この技術は簡単に転用できます」。さらに、パネルが最終的に廃棄される際には、鉛を新しいソーラーパネルの生産に簡単にリサイクルできる。

「大規模なエネルギーシステムの中で資源のライフサイクルを考えることが重要です」とハモンド教授は語る。「そして今回のアプローチがごく単純であることは、商用化の推進にとって好ましい条件だと私たちは考えています」

また、このシステムの登場はタイミングがよかった。いくつかの企業が商業生産に乗り出しているからだ。例えば、Oxford Photovoltaics(オックスフォード・フォトボルテイクス)社は、窓やその他の建築物外面のコーティング材として応用できる、低コストのペロブスカイト太陽光電池をまもなく商業生産し始めるところだ。

翻訳:髙﨑文子

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著者

キャロル・スミスは環境保護に強い関心を寄せるジャーナリスト。グローバル規模の問題に公平かつ持続可能なソリューションを探るうえでより多くの人たちに参加してもらうには、入手しやすい方法で前向きに情報を示すことがカギになると考えている。カナダ、モントリオール出身のキャロルは東京在住中の2008年に国連大学メディアセンターの一員となり、現在はカナダのバンクーバーから引き続き同センターの業務に協力している。