レジリエンスを実地で学ぶ若手研究者

ジョグジャカルタ市はインドネシアのジャワ島中央部にあり、南はインド洋、北はムラピ山にはさまれている。同市はインドネシアの文化および教育の中心で、20以上の大学や研究機関を擁している。地域のコミュニティにとってのレジリエンスの意味を学び、体験するために、さまざまな国から若い研究者がやってきたのはこの地である。

博士学生向け研修会として知られているこのプログラムは、アジア・太平洋環境大学院ネットワーク(ProSPER.Net)の活動の一環で、3年前から行われている。

国連大学高等研究所(UNU-IAS)が創設したProSPER.Netは、アジア・太平洋地域を代表する高等教育機関のコンソーシアムで、ビジネス、エンジニアリング、生物多様性などの分野における博士課程カリキュラムに持続可能な開発を取り込むことを目指している。
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2012年9月にはジョグジャカルタのガジャ・マダ大学が博士学生向け研修会を開催した。研究者が参加したレクチャーは実地見学も伴うものだった。目的は、文化も学問領域も多様なグループにおいて、リサーチコミュニケーションスキルを中心とするリサーチスキルを伸ばすことである。

研修会のテーマは開催大学の所在地によって毎年変わる。今回、若手研究者はレクチャーとジョグジャカルタ近辺の実地見学に臨むことによって、地域の人々は自然災害管理にどのように取り組んでいて、またなぜそうしているのか、そしてコミュニティはレジリエンスをどのように強化することができるかについて学んだ。

ジョグジャカルタは熱帯環境にあり、またジャワ島は環太平洋火山帯の一部であるため、地殻運動が非常に活発な地域だ。近年、その影響が最も顕著に表れたのは、2006年5月に大地震が発生し、150万人近くに被害が及んだ時だった。また2010年にはムラピ山が噴火し、35万人が自宅や村から避難した。

これらの災害後、まだその余波が残る中にありながらも、ジョグジャカルタ近辺のコミュニティは、国際組織、地方自治体、そして中でもガジャ・マダ大学の研究者の支援を受けて、基盤の転換も含めた生活再建に着手した。

今回の博士学生向け研修会の実地見学において、ProSPER.Netの参加者は、地震と火山噴火の影響で暮らしが大きく変化したコミュニティのいくつかを訪問した。これらのコミュニティは社会変革を経験し、より持続可能な生活様式を取り入れている。その基本として優先されるのは、廃棄物の管理、クリーンエネルギーの提供、代替収入源の確保である。

冒頭のスライドショーは、博士学生向け研修会で実施された3回の実地見学を記録するシリーズの第1部である。この中に収められている実地見学では、学生はムラピ山を訪れ、そこでカリアデム村の人々と交流を図った。カリアデム村とはムラピ山頂に最も近い村で、村人は前回の噴火の前に避難を余儀なくされた。

スライドショーには、カリアデム村の人々が、ゼロからコミュニティを再建するために奮闘する様子が映し出されている。噴火以前は、人々の生活は牧畜を中心に営まれていた。移住後は、仮設住宅や避難所の周囲には草原も牧草地もなかったため、牧畜を続けるのは実質的に不可能だった。現在、ほとんどの家族は砂採掘業あるいは菓子類の製造および販売に関わっている。しかし、学生の中でも話している人がいた通り、カリアデム村の人々は、生活の状況が劇的に変わっても、コミュニティの将来については引き続き共同で決定している。

村および避難所について:

2010年のムラピ山の噴火後、カリアデム村を含む、いくつかの村の住民は、一時避難所として設営された避難所の一つ、ゴンダン避難所に収容された。この避難所には他にジャンブー村、パガール村、ジュラン村、ペタン村の人々が収容された。かつて村人たちは牧畜を生活の糧としていた。この避難所に移ってきてから、いくつかの代替収入源が考え出された。その中にはイチゴやキノコの栽培、ナマズの養殖、キャッサバやサツマイモを使ったチップスやクラッカーの生産などがあり、いずれも村人たちにとっては初めて体験するものであった。各家族は牛の世話をしながら、野菜を育てて、最低限必要な食料を自ら賄っている。村人の中には砂採掘業に携わる人もいる。恒久的に住める場所に移るまでの過渡期にある村人たちにとっては、より安定した生活の基盤を築くことが最大の課題だ。この実地見学は、災害後管理において、レジリエンスの強固な社会を発展させるモデルの一つを紹介するものである。地域のコミュニティ、州政府、民間セクターが、災害後、相互に協力して地域のリソースを築く過程も見ることができる。さらに、地域のコミュニティが自らを奮い立たせて生活の転換に立ち向かう力についても、ここでは目を向ける価値がある。

— ガジャ・マダ大学提供

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ProSPER.Netについての詳細は、同ネットワークのホームページをご覧ください。

翻訳:ユニカルインターナショナル

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レジリエンスを実地で学ぶ若手研究者 by アウレア・クリスティン 田中 and シュテファン・シュミト is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

著者

シュテファン・シュミトは 来日前にはヨーロッパのデジタルエージェンシーネットワークのひとつでプロジェクトマネージャーとして働いていた。現在彼はハインツ・ニクスドルフ財団が主催する将来のドイツ人実業家養成のためのアジア太平洋プログラムに参加している。デジタル文化に興味があり、国連大学のOffice of Communicationsで知識を共有することを喜ばしく思っている。ドイツ ワイマールのバウハウス大学卒業。