技術の再考:GPUがAIトレーニングの未来ではない理由

人工知能(AI)を取り巻く環境は、画像処理装置(GPU)への依存から脱却しつつあり、大きな変革期を迎えている。当初は画像をレンダリング(処理もしくは演算)するために設計されたこの強力な半導体は、10年以上にわたってAIの進歩を支え、ディープ・ラーニング、自然言語処理、自動運転車などの飛躍的な進歩を可能にしてきた。しかし、AIシステムがますます複雑化し、要求が多くなるにつれ、GPUの限界がより明白になってきた。

GPUは元来、大量のエネルギーを要するものであり、AIトレーニングを支える複雑な計算を行うために膨大な電力と水を必要とする。これは運用コストの上昇の一因となるとともに、エネルギーと水の消費に伴う二酸化炭素排出により、環境への重大な懸念を引き起こしている。さらに、並列処理に長けているとはいえ、GPUアーキテクチャは、現代のAIワークロードの特徴である膨大なデータセットと複雑なアルゴリズムの処理を支えることを求められている。その結果、ボトルネックや非効率性が生じ、高度なAIアプリケーションの開発と展開の妨げとなっている。

このような技術的な限界だけではなく、GPUに頼ることは、持続可能性と世界的な公平性に関する重大な問題を浮き彫りにしている。GPUの生産はレアアースに大きく依存しており、アフリカはこの不可欠な資源の主要な供給源となっている。アフリカ大陸にはコバルト、ニッケル、その他の重要な鉱物が豊富に埋蔵されているが、その採掘と加工にはしばしば多くの犠牲が伴う。多くの採掘地域では児童労働や搾取的な労働条件、環境悪化が蔓延しており、業界内で倫理的で持続可能な慣行を急ぎ確立する必要性を物語っている。

さらに、現在の資源採掘体制は、世界的な不平等の仕組みを永続させている。アフリカ諸国は天然資源に恵まれているにもかかわらず、その採掘から得られる経済的利益はごくわずかであることが多い。原材料は加工と製造のために他国に輸出され、アフリカ経済には付加価値がほとんどなく、技術進歩の機会も限られている。この格差は、AI産業が生み出す利益をより公平に分配する必要性を強調している。

幸いなことに、AIの状況は進化しており、こうした課題に対処し、より持続可能で包摂的な道を切り開く機会を提示している。業界は、GPUよりも大きな利点を提供するテンソル処理ユニット(TPU)やニューロモルフィック・チップなどの特殊なハードウェアへと徐々にシフトしている。これらの選択肢は、まさにAIワークロード向けに設計されており、優れたパフォーマンス、エネルギー効率、スケーラビリティ(拡張可能性)を提供することができる。

こうした移行は、アフリカがAIエコシステムにおける役割を再定義するまたとない機会をもたらす。アフリカ大陸は、原材料供給国としての現在の立場を超えてイノベーションを取り入れることで、次世代AIハードウェアの開発・製造におけるリーダーとなりうる。そうすれば、経済発展が促進され、ハイスキルの仕事が創出され、アフリカの研究者や起業家がAIの世界的発展に貢献できるようになるだろう。

このビジョンを実現するためには、戦略的な投資と協調的な取り組みが不可欠である。アフリカの各国政府、研究機関、民間企業は、盛況なAIエコシステムを育成するために協力しなければならない。これには、現地の新興企業の支援、AIハードウェアの研究開発の促進、製造施設への投資の誘致などが含まれ、アフリカが技術移転と知識の共有から利益を得られるようにすることが極めて重要である。

この移行を促進する上で、国連の存在は不可欠だ。国連では、責任ある調達と公平な利益配分の重要性を認識し、「エネルギー移行のための重要鉱物に関するパネル」を設立した。この取り組みは、政府、国際機関、産業界、市民社会から利害関係者を集め、鉱物のバリューチェーン全体を通じて環境および社会的基準を守るための世界原則を策定するものである。

国連は、協力と透明性を促進することで、持続可能なAI技術への移行が既存の不平等を悪化させることなく、すべての国がAI革命に参加し、その恩恵を受ける機会を創出することを目指している。こうした取り組みには、フェアトレード(公正な貿易)の促進、発展途上国における能力開発の支援、原材料への依存を減らし環境への影響を最小限に抑える循環型経済モデルの採用の奨励などが含まれる。アフリカは、AIの未来において重要な役割を担おうとしている。豊富な鉱物資源、成長するテクノロジー・ハブ、そして若くダイナミックな人口を擁するアフリカ大陸は、アフリカのみならず世界全体に利益をもたらす形でイノベーションを推進し、 AIの発展を形作る可能性を秘めている。この機会を積極的に受け入れることで、すべての国に力を与え、人類のより良い未来に貢献する、より包摂的で持続可能なAIエコシステムを構築することができるだろう。

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この記事は最初に Forbes Africa のウェブサイトに掲載されたものです。Forbes Africaウェブサイトに掲載された記事はこちらからご覧ください。

著者

チリツィ・マルワラ教授は国連大学の第7代学長であり、国連事務次長を務めている。人工知能(AI)の専門家であり、前職はヨハネスブルグ大学(南ア)の副学長である。マルワラ教授はケンブリッジ大学(英国)で博士号を、プレトリア大学(南アフリカ)で機械工学の修士号を、ケース・ウェスタン・リザーブ大学(米国)で機械工学の理学士号(優等位)を取得。