ニディ・ナガブハトゥラは国連大学地域統合比較研究所(UNU-CRIS)のシニア・リサーチ・フェロー。
本稿は、移住、気候変動、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の相関性と深刻な課題を探究する国連大学移住ネットワーク・シリーズの記事です。本シリーズの記事を通じてこれらのつながりを地域および地球レベルで検証し、移住者への影響を明らかにしながら、エビデンスに基づく洞察を国連加盟国や政府、政策立案者に提供します。
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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大という未曾有の事態に直面し、さまざまな問題に対応しながら、パンデミック(世界的流行)後の計画を立てるのは、世界中の国、指導者、コミュニティにとって難題となっている。パンデミック中に起きている危機、もしくはパンデミックを原因として起きる危機は多様であるため、包摂的で配慮のある、参加型の計画立案・支援・プログラムが必要である。中央アフリカ地域では、COVID-19が移民をはじめ人々やコミュニティにもたらす直接的・間接的影響によっていくつか不安な事実が明らかになっており、メディアや開発機関はCOVID-19に苦しむ現地の人々の厳しい状況を報告している。
麻疹や結核のほか、エボラ出血熱など命に関わる感染症に必要な高度な衛生対策は、この地域の保健医療制度に影響を与えてきた。2020年5月に国境なき医師団は、中央アフリカで流行した複数の疾病により、予防接種キャンペーンと疾病予防対策が遅れてしまったことを報告した。しかしコンゴ民主共和国では、状況はとくに深刻である。紛争のほか、水危機や気候危機、疾病の流行などによって、多くの難民(50万人超)と国内避難民(500万人)を抱えているからだ。
こうした状況に拍車をかけるように、COVID-19はアフリカに大きな影響をもたらしている。2020年12月現在、アフリカ疾病管理予防センターによると、約 230万人が感染し、5万5,000人近くが死亡したと報告している。こうした状況は「危機の中の危機」であり、特にこの地域の最も脆弱で開発が遅れた国に関して、保健医療制度の不備、水へのアクセスの問題、および衛生設備の不足の複雑かつ重要なつながりが映し出されている。
COVID-19が発生する前から、コンゴ民主共和国の水と衛生(WASH:Water, Sanitation, and Hygiene)の状況はすでに深刻であり、飲料水と衛生設備を利用できるのは一般人口の4人に1人だけであった。国内避難民と難民の居住地の状況はさらに不安定で、世間の関心が低い上に資源が乏しく、またアクセスと権利の側面から考えても厳しい。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、「この地域には、約63万500人のコンゴ人難民がいて、さらに449万人の国内避難民を抱えるコンゴ民主共和国の状況は、世界で最も複雑かつ厳しく、長期化し、忘れ去られた危機のうちの1つになっている」と述べている。さらに、コンゴ人難民の78パーセントが女性と子どもであるという重要な事実を明らかにしている。こうした脆弱な環境で暮らす人々の水のニーズは、COVID-19危機の中では特に、早急に注意を払うべき問題である。
課題は多面的である。例えば、監視と保護を担当する国連平和維持軍によると、パンデミックは治安の安定化対策に直接影響を及ぼしているという。治安対策の変更によって紛争と暴力が拡大する恐れがあり、さらに多くの人が移動せざるをえなくなることで、移住や避難をする人々の割合が増えると考えられる。そうしたことから、重層的な解決策、協力、協調行動の必要性がこれまでになく差し迫ったものになっている。
COVID-19は気候・環境関連の移住を含め、世界各地で移住のパターンを作り変えている。短期的、中期的、長期的に見ても、コミュニティの関与、人権アプローチ、および賢明なリーダーシップは、COVID-19対応戦略で大きな役割を果たす。国連はそれを支持し、COVID-19に「世界を席巻」させないための大規模な人道支援計画を発表した。国連経済社会局(UNDESA)はCOVID-19の社会的影響について解説し、「パンデミックやその後の影響による移動の制限、雇用機会の減少、外国人嫌悪の悪化など、水道水を利用できない人々、難民、移民、避難民は、圧倒的に大きな被害を受けることになる」と繰り返し述べている。20億米ドルのCOVID-19グローバル人道支援計画の発表に際し、アントニオ・グテーレス国連事務総長は、自分を守ることが最も困難な人々を支援するために、このウイルスとの闘いには基本的な人間同士の連帯が不可欠であると強調した。
弱い立場の人々とコミュニティ、特にさまざまな危機(COVID-19を含むが、それに限定されない)に直面する強制移民や難民にとっての新しい水の未来の可能性を理解することは重要である。なぜか?無為の代償の方が行動を起こすよりも上回るからである。簡単な説明や答えはないが、現場の実情を理解することが不可欠である。
例えば、移住と水資源とCOVID-19のつながりを理解することが必要である。水と衛生(WASH)は、このつながりの重要な構成要素である。この相関関係は ハイレベルでのイベントや共同行動と合意を形成するための取り組みに関するステークホルダーの議論において、これまで協議されてきた。しかし、現在の不足とニーズに対処するための目標を定めた介入を通じて、パンデミックの状況を適切に取り入れなければならない。
その一つの例として、「Addressing Climate- and Water-driven Migration and Conflict Interlinkages to Build Community Resilience in the Congo Basin(コンゴ盆地におけるコミュニティのレジリエンス構築のために気候・水に起因する移住と紛争の相関関係に対処する)」というプロジェクトがある。このプロジェクトは、カナダの国際開発研究センターから資金提供を受けて、国連大学水・環境・保健研究所(UNU-INWEH)が調整を行い、気候関連の紛争と移住というテーマで、水危機と持続可能な開発目標(SDGs)との複数の相関関係を研究している。また、人々の生活を(とくに脆弱なコミュニティや弱い立場にある女性と少女に重点を置いて)改善し、水危機に起因する移住と移動についての理解を向上するために、新しい知識と実践的な解決策を生み出している。さらに、WASHに関連するものなど、水関連の危機と紛争の管理を改善するために、ステークホルダーの能力強化も重視している。
同様に、既存の能力を評価し、「目的に合わせた」解決策を設計するために、この地域における他のプロジェクトやイニシアチブの役割もやはり重要である。例えば、地球環境ファシリティ(GEF)第7次増資期間プログラムにより資金提供を受けたコンゴ盆地持続可能なランドスケーププログラムは、森林・土壌・水・気候・海洋の保全、環境に配慮した都市づくり、危機に瀕している生物多様性の保護、新たな環境上の脅威への対応に取り組んでいる。
私たちのプロジェクトや同様のイニシアチブを通じて、統合的な計画立案、啓蒙活動、「COVID予防のための水」制度の設計のためのロードマップに役立つ最新のデータとエビデンスを提供できるだろう。そのような課題設定において、計画立案者と対応チームは、インフォーマルな(法律や都市計画に基づかない)居住地、難民キャンプ、避難民の一時収容施設の居住者に特別な注意を払わなければならない。意思決定者は、水、パンデミック、移住の対応を再評価するための共同戦略と、行動計画立案に向けた重点的な投資を検討すべきである。
COVID-19や今後パンデミックが起こった場合の対応は、国やコミュニティが十分な対応策を備えているか否かにかかわらず、すべての人に大きな影響を与えるだろう。「ニューノーマル」に向けた開発議題、経済計画、社会規範の再編には、財政能力だけでなく技術的・人的能力の強化も必要である。今回のパンデミックの広範囲に及ぶ影響によって、移住への対応と脆弱性の管理における長年の進捗が危機に瀕している。人道上のニーズの拡大に対応するためのサービスが崩壊し、資源が限られていることから、コンゴ民主共和国で相次いでいる市民・政治・経済不安が悪化する恐れがある。
COVID-19の世界的なパンデミックによって、自然と人間の相関関係をきめ細かなアプローチで再検証する機会が訪れている。災害が移民に与える影響は、水・食料・健康危機のいずれに関係するかを問わず、依然として主流のコミュニティとは異なっている。COVID-19危機管理戦略では、移民と難民に特別な注意を払い、関与する機会を提供し、短期的、中期的、長期的ニーズに応える選択肢を共同で作成することが求められる。
例えば、長期的なCOVID-19対応戦略では、SDG 6の具体的なターゲットに沿って、WASHサービスの提供、進捗、有効性を監視できる。短期から中期の戦略では、予算配分を改善し、複数セクターの規制を統合することによって、飲料水と衛生設備のニーズに対応することも含めるとよいだろう。水と移住に対応するセクター関係者の不十分な制度的・技術的能力の強化も不可欠である。コンゴ民主共和国の全国の水と衛生枠組みプログラムなど、既存のツールに避難民、移民、難民のニーズを含めるとよいだろう。そうしたアプローチによって、国はCOVID-19の影響緩和とSDG 6の実施の両方に対応するWASH関連の介入を行うことができる。
また、手洗いなど簡単にできるWASHの実践へのアクセスと知識を拡大することは、正規およびインフォーマルな居住区、難民キャンプ、個人住宅、市場などの商業施設における費用効果の高い短期的な介入になるだろう。長期的な目標は、WASHの標準運用・アドボカシー手順(SOAP)とコミュニティアウトリーチ事業に重点を置くことができる。COVID-19管理戦略は、「誰一人取り残さない」というビジョンに根差すべきであることを忘れてはならない。そうした議論において、移住環境に着目することが重要なのは明らかである。