ダンカン・クラーク氏はガーディアン環境デスクの顧問エディターである。「BBC Worldwide」や「10:10」に寄稿すると共に、環境やテクノロジーの分野で数々の書籍の執筆・編修を行っている。
気候変動問題が解決しないのはなぜなのか。それを知るには金の動きを追えばよい。この場合は炭素だ。私は既に24時間もデータと格闘しているが、そのうち化石燃料埋蔵量と気候変動問題に対する各国の立場は見事に相関性があることがわかった(不思議なことに、この相関性は見落としがちである)。
まずは背景を説明しよう。昨年私は「カーボン・バブル」 という概念の出現と、投資家が化石燃料を保有する企業に投資する場合のリスクについて書いた。世界全体で、平均気温上昇2℃以内という目標を達成するには、化石燃料のほとんどは地中に眠らせたままにしておかなくてはならないのだ。
その数カ月後のダーバン会議中、私はこの燃やせないはずの燃料は世界各国にどのような配分で保有されているのか、それが会議にどう影響しているのかを考え始めた。実際に調べてみると、埋蔵化石燃料が今後どれだけのガス排出につながりうるのかを知るためのデータがないことに驚いた。それなら自分で作成するしかない。私は最新のBPエネルギー統計レポートから化石燃料のデータを取り出し、各国の原油、石炭、天然ガスの埋蔵量から、それが燃やされたときに排出される二酸化炭素の量に換算してみた。
そうやって私が作成したデータはここに示されている。断っておくが、これはあくまでも大ざっぱなものにすぎない。また手作業でデータを扱っているため、間違いがないとは言えない。さらに、基となっているBP社のデータは色々な意味で限られている。例えば、種類を分類せず「石炭」とひとくくりにされているし、タールサンド(カナダについてしか載っていない)の数値は驚くほど低い。将来的にはCarbon Tracker Initiative(カーボン・トラッカー・イニシアティブ) と共同でより信頼のおけるデータ資料を公開できればと思うが、今回はこの資料で十分要点は伝えられると思う。コメントや訂正は是非@theduncanclarkまでお寄せいただきたい。
次に私はこのデータを分析し、この1、2年の気候変動会議で動きが顕著な国や地域(肯定的にも否定的にも)を調べた。もちろん、これらは全て主観的なものである。国際的協定に署名すべきか否か、どの国も明確に「イエス」や「ノー」と主張しているわけではなく、彼らは皆、自分の立場は公平かつ建設的だと述べる。さらに複雑なのは、多くの国々は交渉ブロックのいくつかに重複して参加しており、それら各ブロックがそれぞれ異なる見解を持っているという点だ(複雑な関係や立場について詳しく解説してくれたUNFCCCのマーク・ライナス氏に感謝する)。
国際協定を強く推進している地域は地中の化石燃料から排出されうる二酸化炭素のわずか10分の1しか保有していない。
例えばダーバン会議では、野心的な協定を推進する動きは、非公式に提携を結んだEU、アフリカ、ASIS (小島嶼国連合)に見られた。これらの国々が保有する「二酸化炭素埋蔵量」は多くはない。下のグラフが示すとおり、国際協定を強く推進している地域は地中の化石燃料から排出されうる二酸化炭素のわずか10分の1しか保有していない。
もちろん様々な国が国際協定に向け前向きに活動しているため、現実の全体像はもう少し複雑だ。ダーバンの準備期間中に、これら前向きな姿勢の諸国はカルタヘナ・ダイアログと呼ばれる非公式の提携を結んでいる。私の知る限りカルタヘナグループへの公式な締約国リストはないが、EU、アフリカとASISの数カ国に加え、アジア(インドネシア、バングラデシュ、タイ)、中南米(コロンビア、ペルー、メキシコ)、オセアニア(オーストラリア、ニュージーランド、中東からは唯一アラブ首長国連邦が含まれる。
全ての国が立場を明確にしていたわけではない。例えばオーストラリアは、国内では炭素税を推し進めていたにもかかわらず、ダーバンでは目立った動きをせず、ある人物によるとアメリカの補佐に終始していたように見えたという。だが、そういった動きはこの際大目に見るとして、カルタヘナ・ダイアログに参加している国を全て「イエス」側に入れることとしよう。驚くべきことに、それでも、炭素埋蔵量の20%にしかならず、アフリカを除けば14%以下になる。
では逆に、交渉で非協力的とされている国々はどうだろう。繰り返すが、これは正確な科学とは言いがたいので、いくつかの目立つ国だけを取り上げてみよう。アメリカ、中国、インド、サウジアラビア、カナダ、ロシアである。私のデータが正しければ、これら6カ国は世界の埋蔵化石燃料の約60%を保有している。
ある意味、どのデータも驚くに値しない。誰もが知ってのとおり、カナダが「アンチ・グリーン」の立場を取るのはタール・サンドに関する項目についてであり、サウジアラビアが強情なのは油井のためだ。だが、より広く気候変動交渉について語るとき、埋蔵化石燃料のことは忘れて何もかもを現在と未来のガス排出に関してのみで解釈してしまいがちだ。
だが、埋蔵量についての考慮は不可欠だ。価値ある協定は、それが守られれば、永遠に、または少なくとも炭素捕捉システムが広く利用できるようになるまでの数十年間は、埋蔵されている原油、石炭、ガスを地中に眠らせたままにしておく拘束力を持つはずだ。埋蔵量の多い国の政府ほど、この問題の解決に向けた協定に署名するのを尻込みするのは当然だ。
もちろん、埋蔵量だけで全ての説明がつくわけではない。矛盾を含んだ優先事項や議論が絡み合って気候変動に対するその国の立場を決定する。また重要な注意点だが、国の傾向は1人当たりのベースを算出してみると、そう明快なものではない。「イエス組」の1人当たりの予想排出量は平均よりはるかに低く(EU、アフリカ、ASISは200トン、他のカルタヘナ諸国を合わせると265トン)、他の6つの大グループは平均をはるかに上回る(568トン)。ただし、中国とインドはそれぞれ212トンと131トンで全体の傾向とは異なる。
それでも埋蔵量というプリズムを通してこの話題を考えると、興味深い内情が見えてくると思う。それによってダーバン会議の終盤に起こった、あるエピソードの説明もつく。中南米の多数が条約の前進を望んだが、唯一ベネズエラだけが、ひと悶着起こしたのだ。最後の数時間、熱い議論が繰り広げられる中、この国の代表者がイスの上に立ち上がり、ネームプレートを叩きつけて激しく抗議した。そして途上国を「見殺しにする気か」と国連議長に詰め寄った。正論に思えなくもないが、ベネズエラは世界大2位の埋蔵量を誇る在来型石油とカナダのものより大きいと思われる未開発のタールサンドベルトの上に鎮座していることを意識せざるをえない。
ダーバン会議の最後の最後になって交渉を阻んだ国が世界最大の埋蔵二酸化炭素を保有しているかもしれないのはただの偶然だろうか。私はそう思わない。
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この記事は2012年2月16日(木曜日)にguardian.co.ukで公表されたものです。
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