水田でマイクロ水力発電!

ピークオイル問題や気候変動問題は、私たちがどれくらい早く代替エネルギー源を開発できるかとの切実な問題を投げかけています。私たちには、まだ、決定的な答えがありませんが、私たちが既に持っている資源を考えるなら、多くのチャンスがあります。

電気を起こすためにはいくつかの非常に驚異的で革新的な方法が知られています。栃木県、日本の土地改良組合のひとつである那須野ヶ原土地改良区連合(NLIU)は、農業用水路に設置したマイクロ水力発電からの電気を利用しています。百村第一 (30キロワット)と百村第二(90キロワット)の設備は、2006年に水田の潅漑用水から電力を発生させるように設置されました。

那須百村マイクロ水力発電発電所

国際的な慣習として、水力エネルギーは発電量に基づき次のように分類します。
大規模水力(100メガワット以上の電力を生産する)、小水力(最大10MW)、ミニ水力(およそ1MW)、マイクロ水力(100kW未満)。

那須野ヶ原における百村のマイクロ水力は潅漑用水を使用して電気を起こす初めての事例の1つです。通常、潅漑用水は、米などの作物を作るためだけに使用されてきました。米を作るためには、水を大量に利用します。一般的にその水は地域の湖沼や河川から人工的に灌漑用水としてひかれてきます。

那須野ヶ原の場合では、灌漑用水の流れ(用水高さによる運動エネルギーも利用)を利用して、電力を得ています。その電力はNLIUの潅漑施設に電源を供給しています。(小水力発電がなければ潅漑施設は送電網からの電気を使用したかもしれません)

一般的に、自家用発電設備は系統電力よりも発送電に関わる損失が少なく、さらに、再生可能なエネルギー源を使用することによって、発電からの二酸化炭素排出は非常に少なくなるということがいえます。さらに、大規模な水力発電所と比べて、小水力発電は地域の生態系へおよぼす影響がより少ないことが予想されます。

さらに、長期の財政的な利益が期待できます。 NLIU場合では、4つの発電機に関して設備と設置にかかわる費用のために合計で約1200万ドル(1億円) がかかりました。 正確な費用対効果はまだ見積もられていませんが、NLIUは約10年後に投資を回収できるものと予想しています。それは自家発電を系統電気とを相殺することによるコスト削減を通じて達成されるでしょう。

予期せぬ協力者たち

日本の土地改良組合は、1949年に農業の「近代化」を促進するために日本の法令に基づき作成されました。 組合には、作物を作るために潅漑用水を使用する権利があります。農業関係の団体が自ら水力発電施設を有することは、それほど珍しくはありませんが、ほとんどの水力施設は数10年前に比較的大型の河川に開発されたものです。

しかしながら、ますます石油価格が不安定さを増すこの頃、いくつかの組合が今、水を発電に用いるというように発想を広げ始めています。 栃木では、NLIUが地方自治体から一定の支援を受けていますが、今回の小水力事業は主に連合独自の取り組みです。 その結果、那須の事例は新たな電気の供給の在り方に関心のある他の自治体・組合などから大きく注目されています。

予期していなかった支援はかつて日本の電力供給に関して支配的立場にあった電気事業者からも来ています。1990年代から行われた民営化にもかかわらず、日本の10の地方の電気事業者は90%以上の電力供給を占めていますが、東京発電(東京電力の関連コンサルタント会社)は、より多くのマイクロ水力発電所を発展させるようにNLIUと緊密に連携しています。これは巨大な事業者と小規模の発電機の間で協力関係が発展している新しい傾向です。

国の支援?

他方では、小水力発電は、現在、農業用水の発電利用上の規制など、政策立案上の認識上の問題のため、経済性に問題があるのが一般的現状です。

今月(2009年11月)から導入された太陽光発電買取制(FIT)は、水力と他の再生可能なエネルギー種は対象としておらず、その結果太陽光発電のペイバックタイムだけが、より短縮されることになります。

「適切な支援政策があれば、マイクロ水力発電(発電量100kW未満)装置が潅漑用水に置かれる那須のようなますます多くの事例が増えるでしょう」と、小水力協議会の中島氏(Water Energy Recovery(J-WatER) )は言います。

日本の潅漑用水は水力発電を考える上で莫大な将来性があります。1年あたり1.2テラワット(100万MW)の潜在利用量が見積もられています。 現在のところ、J-WatERのデータベースは約70件以上のマイクロ水力等を含む小規模な水力発電設備(2万2800kWの設備容量)をリストアップしています。

確かに日本のような国には大規模な化石資源はありません。しかし代替エネルギーの状況はどうでしょうか?特に地方レベルで、私たちが真剣に現在無駄になっているすべてのエネルギーに焦点を合わせるならますます多くの革新や開発が可能です。マイクロ水力発電のさらなる展開と再生可能エネルギーの開発のためには、適切な政策が重要であることは言うまでもありません。

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ご参考までに以下のサイトをご紹介します。

マイクロ水力発電の賛否に関する情報をもっとお知りになりたい方は代替エネルギーをご参照ください。

小水力発電の基本的な情報については水力発電をご参照ください。

富山で行われている小水力発電の試みについてはこちらをご参照ください。

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著者

諏訪亜紀氏は、国連大学高等研究所(UNU-IAS)のポストドクトラルーフェローである。ロンドン大学インペリアル・カレッジ理工医学系大学で理学修士を取得、ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジで都市エネルギー政策の博士号を取得した。再生可能エネルギーの政策分析に精通しており、主な研究分野は、再生可能エネルギー開発の社会的および経済的関係や、環境保全と再生可能エネルギー促進の相互作用である。