性と性差の暴力に苦しむロヒンギャの難民・移民女性たち

難民・移民女性は性と性差に基づく暴力を受けるリスクが高いということが知られている。国外へ脱出するために危険なルートを移動している間や、十分な照明や女性専用の空間がない過密状態のキャンプなど、基本的な治安が確保されていない場所に滞在している時に受ける恐れのある暴力によって、女性としての彼女たちの脆弱性は増大する。

ロヒンギャの難民・移民女性たちも例外ではない。実際のところ、女性であり、無国籍者であり、民族宗教的マイノリティーであるという立場から、ロヒンギャの女性(および少女)たちは、さまざまな性と性差に基づく暴力をとくに受けやすい。こうした暴力は、彼女たちの身体と心の発達に影響を及ぼすだけでなく、ミャンマー国内と新たな居住国の両方において彼女たちの社会経済的機会を制限する可能性がある。

ロヒンギャは、仏教徒が国民の大多数を占めるミャンマーに居住するイスラム教少数民族である。同国の軍部が起草した1982年市民権法により、ロヒンギャはミャンマーの135の認定民族集団から除外され、実質的に無国籍者となった。その後数十年にわたり差別と公民権はく奪を受けた末に、2012年になって宗派間の暴力衝突が頂点に達し、約14万人のロヒンギャがラカイン州北西部の住処を追われた。その大多数は、州都シットウェの近くにある政府指定の国内避難民キャンプにたどり着いた(ここでは今も多くの人々が劣悪な状況の中で暮らしている)。その後も暴力衝突は続き、何千人ものロヒンギャが海路でタイ、マレーシア、インドネシアを目指して脱出し、2015年の初めには悲劇的な「ボートピープル」の人道危機として世界中で大きく報道されることとなった。

不安定な政治情勢

ロヒンギャの難民・移民女性たちの置かれた窮状をより深く把握するためには、性と性差に基づく暴力の横行がミャンマーの政治情勢といかにリンクしているかを理解する必要がある。不安定な政治情勢下で女性や少女たちは虐待と差別をより受けやすい環境で生きることを強いられている。

50年にわたって続いた軍事独裁が2011年に正式に終焉を迎え、昨年11月初めの選挙では、ノーベル賞を受賞した元野党指導者のアウン・サン・スー・チー氏率いる国民民主連盟が「圧倒的な」勝利を収めたにもかかわらず、軍部が起草したミャンマーの憲法によって、官僚組織内の決定権は依然として軍部の支配下にあると、ニューヨーク・タイムズ紙は伝えている

こうした情勢の中、国連ミャンマー人権状況特別報告者は昨年3月、「極端な宗教的民族主義の動きが、政治プロセスにおける影響力を強めている」と指摘した。さらに同特別報告者は、「少数民族に対する憎しみをあおるような宗教指導者や政党メンバーの不穏な公式発言に対する措置が明らかに欠けている」とも述べた。

crying Rohingya woman

Photo: United to End Genocide. Creative Commons BY-NC-ND.

人種と宗教を守るためと称して新たに制定された法案は、この国がいかに民族宗教的マイノリティーや女性に対する差別を組織的に行っているかということを示す一例である。この法案は、家族計画、改宗、結婚における選択に関する個人の権利を制限する4つの法律で構成されている(この国では、仏教徒の女性と非仏教徒の男性との結婚が規制されている一方で、非仏教徒による複婚は犯罪とみなされる)。これら4つの法律のうち、「Population Control Healthcare Bill(人口抑制保健法)」が昨年5月に最初に成立した。

人権擁護団体フォーティファイ・ライツは2014年、ミャンマーで暮らすロヒンギャの人々が、州レベルの地域指令(その起草と実施には中央政府が関与する)を通じて厳しい監視と統制を受けている状況を調査した。この地域指令は何十年にもわたって、移動、結婚、家族計画に関する彼らの自由に虐待的な制限を加えてきた。彼らはすでに生計手段・医療・教育へのアクセスを奪われているため、これらの制限はロヒンギャコミュニティの女性や少女たちの生活にとくに深刻な影響を及ぼす。

例えば、世帯構成員の記録管理をするために、法執行機関による侵害的な抜き打ち世帯調査を国が奨励している。フォーティファイ・ライツの報告によれば、こうした抜き打ち調査は、治安部隊がロヒンギャの女性や少女たちに性的暴力を働く口実として利用されている。なかには、集団強姦事件や、制服を着た警官や兵士たちの前で乳児への授乳を強制されたというような事例もある。国連安全保障理事会は、2014年1月~6月の期間だけで、こうした集団強姦や性的暴行未遂の報告を14件受けており、2015年の初めには、兵士が10歳の少女を強姦する事件が発生したと指摘している。女性や少女たちの強制結婚や、性的搾取を目的とする国境を越えた人身売買も報告されている。

さらにフォーティファイ・ライツの調査では、「二人っ子政策」の立案と実施に中央政府が関与していることも明らかになった。しかし表向きには、中央政府や州政府による関与は移民・人口大臣によって否定された(ただし、この政策への支持を表明する同大臣のコメントがメディアで大々的に取り上げられている)。この政策により、3人以上の子どもを持つロヒンギャ世帯は犯罪者として扱われることになったため、3人目の子どもを妊娠したロヒンギャ女性のなかには危険な中絶手術を受ける人もいる。さらにフォーティファイ・ライツの報告では、ロヒンギャによる避妊薬の使用を強化するようすべての地域診療所および病院に指示する2005年の地域指令「Population Control Activities(人口抑制活動)」についても言及されている。

ロヒンギャの結婚にも国は介入する。結婚を望むイスラム教徒のカップルは公的な認可を受ける必要があり、この認可の取得には場合によって最大2年の年月と多額の手数料がかかる。さらに刑法第188項により、ロヒンギャの女性は非嫡出子や3人目の子どもを持つことを禁じられている。この法律によると、そのような許可されていない子どもを持つロヒンギャ女性は起訴され、10年以下の懲役または罰金あるいはその両方を科せられる。したがって、そうした状況にあるロヒンギャの妊婦たちは、危険な中絶手術を受けるか、それを避けるために国外へ逃げることになる。

タイで暮らすロヒンギャの難民・移民女性たちを支援する組織に現場インタビューを行ったところ、同様の事実が確認された。移民の権利擁護団体によると、近年、危険な航海に参加する妊娠中の女性や少女が増えているとのことである。若い母親の中には、新生児を連れて渡航に臨む者もいる。密入国業者の船から救出された女性が、政府の女性シェルターで拘留されている間に出産したケースも数件あったとのことである。

ディアスポラの切実な窮状

歴史を振り返ると、ミャンマーにおけるロヒンギャの迫害は40年近く続いている。その結果、ディアスポラ・コミュニティは、主にアジアで長年にわたり拡大してきた。最も大きなコミュニティがあるのはバングラデシュとサウジアラビアだが、近年、マレーシアがサウジアラビアに代わり、避難先国として選ばれるようになってきている。

都市部の難民人口が世界で最も多いのはマレーシアである。2015年9月現在、約153,850人の難民と亡命希望者がUNHCRマレーシアに登録しており、そのうちの43%が女性で、女性難民の割合は2014年6月から13%増加した。UNHCRによると、マレーシアで正式に登録されているロヒンギャの難民や亡命希望者の数は50,030人である。

Burmese Rohingya Association of Thailand(タイ・ビルマロヒンギャ協会)の代表は、数世代にわたって非公式に住み着いた人々や正規の手続きを経ていない新規入国者を含めると、現在マレーシアで暮らしているロヒンギャの数は10万人に上るだろうと述べている。一方、タイで暮らすロヒンギャは15,000~25,000人と比較的少なく、その大部分はバンコクに集中している。

こうした背景のもと、ロヒンギャの難民・移民女性たちは、ミャンマーから脱出する際の途上や、タイおよびマレーシアなどの避難先国において、性と性差に基づく暴力をさらに受けている。ヒューマン・ライツ・ウォッチの報告によると、一部の女性たちは、2012年の大規模な暴力衝突の後に男性親族の多くが国を離れて住み着いたと思われているマレーシアへの船による渡航に誘い出されたり、強制的に参加させられたりしている。活動家やメディアは、船による渡航の途上やマレーシアとタイの国境にある簡易キャンプでの滞在中に若い女性や少女が強姦されるという事例を報告している。さらに証言によれば、密入国業者は、ロヒンギャの女性や少女に、彼女たちが船による渡航で背負った借金を進んで肩代わりする年上の男性との結婚を強制し、その苦境につけこんでいる。

私は、タイのロヒンギャコミュニティの指導者や女性と移民の権利擁護団体との話し合いから、ロヒンギャの家族生活とロヒンギャが避難先国で直面している課題について、いくつかの洞察を得た。ロヒンギャは伝統的に大家族で暮らしてきた。男性家長のリーダーシップのもと、助け合いと年長者への尊敬という伝統的な価値観が家族をひとつにまとめてきた。しかし避難先国では、そうした家族構成は崩れ、新婚夫婦は大家族からの祝福や支援なしに自分たちだけで生活していかなければならない。ロヒンギャの男性は通常、漁業、建設業、卸売業で肉体労働者として雇われるか、あるいはロティ売りなどの小規模な自営商人として働く。タイにおける彼らの立場は弱く、しばしば搾取的な労働条件を受け入れざるを得ない。

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バングラデシュのクトゥパロンにあるキャンプで暮らすロヒンギャの親子。Photo: Digital Democracy. Creative Commons BY-NC-SA (cropped).

マレーシアと同様に、タイの難民保護政策の枠組みも脆弱で、移民政策は一貫性に欠ける。移民の権利保護措置が場当たり的に実施されたために、ロヒンギャの人々は書類手続きを行った時期によって異なる法的身分を与えられているということが、Human Rights Sub-Committee on Ethnic Minorities, Stateless, Migrant Workers and Displaced Person of Thailand(タイ少数民族、無国籍者、移民労働者、避難民人権小委員会)の代表とのインタビューで明らかになった。タイ当局から(UNHCRに登録された難民/亡命希望者、一時滞在者/難民、または経済移民などの)いかなる身分を与えられていても、ロヒンギャはしばしば無差別的な逮捕や長期拘留の対象となる。したがって、政策的な観点から見ると、配偶者が拘留されている間、ロヒンギャの女性たちが家計を支えることができるような戦略を検討することは有益だろう。

女性たちが社会で活躍し、経済的な役割を積極的に果たしている受け入れ国においても、家の外で働くロヒンギャ女性の姿はほとんど見られない。時に、タイやマレーシアのディアスポラ・コミュニティで何十年も暮らしている女性たちの中には、地元の生鮮市場で作物を販売しながら家事をしている人もいる。しかし教育の機会や社会経験に恵まれないため、ロヒンギャの難民・移民女性たちは、男性の家族や親類に大きく依存して生活している場合が多い。ロヒンギャ女性に経済的な自立手段がないことは、家庭内における人間関係にも決定的な影響を及ぼしており、夫に掛け合う際、彼女たちの立場は弱い。貧困と、不安定な法的身分や家族による支援の欠如があいまって、女性たちの結婚生活は著しく困難なものとなっている。このような状況の中で若年結婚をするロヒンギャの少女たちは、とくに家庭内の虐待や暴力の対象となりやすく、こうした暴力は彼女たちのリプロダクティブヘルスにも深刻な影響を及ぼしている。

しかしながら、Lawyers Council of Thailand(タイ弁護士会)によると、タイでは、ロヒンギャの難民・移民女性に対する性と性差に基づく暴力に関連した家庭内暴力の事件や苦情が申し立てられることはまれだという。その理由は主に、夫婦がミャンマーへの強制送還を恐れて、とにかく当局とのかかわりを避けようとするため、あるいは、司法当局全般に対する不信感によるものである。ロヒンギャの難民・移民女性の中には、貧困や不安定な生活、その他の困難のために結婚が長続きせず、生き延びるために何度も再婚を繰り返す人や、少しでも暮らし向きを良くするために地元のタイ人男性と結婚する人もいると、ロヒンギャコミュニティの指導者は言う。

今後の展望

ミャンマー政府は近年、女性に対する暴力の問題をめぐる政策課題にいくつかの面において真剣に取り組み始めた。制度面では、2014年6月にUN Declaration of Commitment to End Sexual Violence in Conflict(紛争下の性的暴力終焉のためのコミットメントの宣言)を承認し、紛争に関連した性的暴力に取り組むための法改正が開始された。さらに、Anti-Violence against Women legislation(女性に対する暴力防止法)の草案作成が進められている。この取り組みの狙いは、(19世紀の英国占領時代にさかのぼる)現行法を国際的な人権基準に合わせて改訂し、ミャンマー社会における女性を標的とした暴力の新たな傾向

や形態に適切に対処できるようにすることである。

政府の取り組みは、草の根レベルでの女性の実際のニーズを満たせるよう、さらに拡大されている。Creative Houseなど、主要な現地女性のNGOが小規模なシェルターを開設するという前途有望な計画を進めているものの、ミャンマーには性と性差に基づく暴力の被害者のための国営シェルターはない。ミャンマー政府は、そうした施設の面で進んでいるタイやシンガポールの地域女性団体と協力して、女性用シェルターの開設とシェルター運営に関する職員の能力構築を行うための準備を進めている。

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国内避難民キャンプの生活条件を改善するためのプロジェクトに参加するロヒンギャの女性たち。Photo: European Commission DG ECHO. Creative Commons BY-NC-ND.

こうした政府の取り組みは大いに歓迎すべきものではあるが、ミャンマーにおける女性への暴力の全般的状況についての基本データがなければ、効果的な政策措置は実現しない。そろそろ、ミャンマー政府が国際組織から専門知識の提供を受けて、全国規模の調査を実施するためにイニシアチブをとっても良い時期である。

さらに、ロヒンギャの難民・移民女性たちが渡航の途上や避難先国で受ける恐れのある、より広範な性と性差に基づく暴力への取り組みを始めるため、主要な政府機関の間、ならびに女性や移民の権利擁護団体と国際機関の間で、より改善された協調的な政策努力が求められるということも明らかである。

最後に、ロヒンギャ女性の権利を推進するプロセスに国際社会全体がより積極的に関与することも不可欠である。ロヒンギャ女性が直面している課題の大きさと深刻さを考えると、彼女たちに対する性と性差に基づく暴力の問題は、国際社会からこれまで以上に注目されてしかるべきである。性差に基づく暴力との闘いにおける最近の歴史を振り返ると、国際社会の無関心が暴力と虐待に対する女性の脆弱性を高めることは明らかである。そしてロヒンギャの女性たちは、現状を打破するために私たちの支援を間違いなく必要としているのである。

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性と性差の暴力に苦しむロヒンギャの難民・移民女性たち by 小島 優 is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 4.0 International License.

著者

小島氏は、スペインのバルセロナにある国連大学グローバリゼーション・文化・モビリティ研究所(UNU-GCM)のMigration Women and Mobility Asia(アジアの移住・女性・モビリティ)に関する専門家である。ジェンダーと移住と開発のスペシャリストである小島氏は、学術研究と政策研究の双方における経験の組み合わせから得られた専門知識を提供するとともに、UNDP、UNIFEM、ユニセフ・イノチェンティ研究所など、いくつかの国連機関で働きながら得た開発プログラムの運営と計画にかかわる経験を生かし、活躍している。また、ユニセフがアジアで主催するRegional Gender Specialist Group(地域ジェンダー専門家グループ)のメンバーでもある。