暴走する気候変動から逃げ出す

2015年03月13日 ブレンダン・バレット ロイヤルメルボルン工科大学

2014年は、19世紀末に体系的な気温の記録が開始されて以来、地球の気温が最も高い年になったことを、私たちは知っている。NASAおよび米国海洋大気庁(NOAA)はつい先日、135年分の気温データの分析からこの事実を確認した

だがそれがトップニュースにならないのは明らかで、それは心配でもあり、異様でもある。一般の人々の多くは、この種の発表にすっかり慣れてしまったとさえいえるかもしれない。彼らにとって、この事実が行動を起こすきっかけにはならないことは確かである。なぜだろうか。

さて、オックスフォードに本拠地を置くClimate Outreach and Information Network(クライメート・アウトリーチ・アンド・インフォメーション・ネットワーク)のジョージ・マーシャル氏は、その答えはわかっていると考える。私は冬休みの自習課題として、彼の著書『Don’t Even Think About it — Why Our Brains are Wired to Ignore Climate Change(考えることさえしない―なぜ私たちの脳の回路は気候変動を無視するのか)』を読んだ。彼の基本前提は、私たちの脳には「何が真実かを知っているが、まるでそうではないかのように行動する」ことを許す心理的メカニズムがある、というものである。私たちは地球が徐々に暑くなっているのを知っているが、そうではないふりをすることに成功している。

Athabasca Glacier

カナディアンロッキー山脈にあるアサバスカ氷河は、毎年およそ10メートルずつ後退している。1844年に比べて約2キロメートル短くなり、1992年に比べると200メートル短くなった。 Photo: Jorsym. Creative Commons BY-NC-SA (cropped).

このような思い込みの傾向は、緊急対策を迫られているときに私たちが気候変動に対処できない理由を説明できるのかもしれない。ここで、私が休暇中に読んだ2冊目の本を登場させる。ナオミ・クライン氏の新著『This Changes Everything — Capitalism versus the Climate(これがすべてを変える―資本主義と気候の対決)』である。クライン氏の中心的な議論は、私たちは気候変動を実在する危機としてとらえ、それを用いて失敗に終わった現在の経済体制を転換させ、よりよい制度を構築する必要がある、というものである。ここで「私たち」とは、あなたと私、みんなのことである。

私はこの記事でこれらの本の書評を書くつもりはなく、著者たちが提起している考え方を伝えていきたいと思っている。

伝えたいメッセージ

私がマーシャル氏の著書を読んで気になった問題は、気候変動に効果的に対処しながら、今後の世界平均気温の上昇を、非常に重要な分岐点である摂氏2度以内に抑えられるかどうかに対して、気候科学者たちが実はますます悲観的になっているという指摘だった。

気候科学者と政策立案者は、平均気温の上昇が摂氏2度を超えれば危険で手に負えない状況になるという点で、意見の一致を見ている。そうなれば、私たちはさまざまな転換点を超える可能性がある。転換点を超えると、気候システムが人類にとってますます住みにくい状態になり、その程度が増していき、結果として実質的に「暴走」した、予測がつかない状態になる。非常に可能性の高い1つの例として、永久凍土や北極海および南極海の堆積物が融け、メタンが放出される事態があげられる。

Upsala

アルゼンチンのエル・カラファテにあるウプサラ氷河近くで起こる氷山の崩壊。NASAの計算 は、2001年1月から2013年10月までの期間にウプサラ氷河が約3キロメートル後退したと推測している。 Photo: Angela Sevin. Creative Commons BY-NC (cropped).

私自身も、国連大学でアジア太平洋地域から科学者を集めた「気候・エネルギー・食料安全保障」講座を実施する過程で、気候科学者たちのこうした悲観的な見方を感じてきた。毎年、彼らの講義は少しずつネガティブになり、少しずつ楽観的な部分が消えている。

実際、マーシャル氏の著書の最終章は「4度―なぜこの本が重要か」と題され、気候科学者たちは世界の平均気温が摂氏4度以上上昇するかもしれないと、大きな不安を抱いていると論じている。

オンライン上にすぐれた説明があるため、私はこれが何を意味するかについて、ここで詳しく述べるつもりはない。それよりも、ポツダム気候影響研究所(PIK)所長ジョン・シェルンフーバー教授の次の言葉が、その恐ろしい意味を端的にとらえていると思う。「2度か4度かの違いで、人間文明の存続にかかってくる」

基本的に、平均気温が摂氏4度上昇すれば私たちはあまりにも多くの困難に直面することになるため、安定した社会を維持する力は大幅に損なわれ、その結果として近代文明は崩壊するだろう。

私はマーシャル氏の著書に興味をそそられたが、著者の最大の目的は、なんとかこの問題を打開できる(言い換えれば、気候変動に対応するため、私たちみなが協力して取り組んでいける)という希望を胸に、気候変動に関してどう話し合っていくかを方向づけることにある。マーシャル氏は、私たちが気候変動の世界でどのように生きるべきかを説くのではなく、「化石燃料時代の終焉を悼む」ときが来ていることを示唆する。

これがすべてを変える

クライン氏の状況判断は、マーシャル氏の判断ととてもよく似ている。第1章では、将来の世界の平均気温上昇が摂氏4度を超える可能性が高いことを説明し、世界銀行および国際エネルギー機関(IEA)の報告書に言及してこの主張を裏付けている。それらの機関はそうした不測の事態にすでに備えてさえいるというのだ。

クライン氏は、ティンダル気候変動研究センター前所長ケヴィン・アンダーソン氏の次の言葉を引用する。「摂氏4度に適応できるという確かな見込みは……ない」

Kilamanjaro aerial

タンザニア連合共和国アルーシャ州にあるキリマンジャロ山の、縮小する山頂の氷帽の航空写真。 Photo: Ben Freeman. Creative Commons BY-NC (cropped).

クライン氏は、この脅威に対処する唯一の方法は資本主義体制を劇的に転換させることであり、これは人々の力と直接的行動によってのみ達成できると断言する。低炭素の未来への転換を率いる役割を、支配層のエリート、億万長者のビジネス・リーダー、政府と企業に任せておくことはもうできない。彼らはすでに何十年もリーダーシップをとってきたが、世界の二酸化炭素排出量の増加を食い止めるために、事実上何もしなかった。

多くの人々にとっては恐ろしい考え方であるにちがいない資本主義脱却の提案に加えて、クライン氏は地球工学による気候変動への対応は成功しそうもなく、実際には非常に危険であるとも論じている。なんとしてでも避けるべきだというのが、彼女の考え方である。

同様の趣旨でマーシャル氏は、気候変動に対処する技術的解決策の候補である炭素回収隔離(CCS)の実行可能性に疑問を投げかける。マーシャル氏は次のように論じる。

「現在8つの大規模なCCSプロジェクトがあり、さらに8つが建造中で、それらはまもなく年間3600万メートルトンの二酸化炭素を貯留することになる。この方法が有望に聞こえるのは、現在の排出量をまかなうにはさらに同規模の施設が16,000基必要になると考えつくまでの間だ。そのうえ炭素排出量はまだ急激に増加しているため、年間増加分に追いつくだけで、毎年新たに1000基の施設が必要になるだろう」

この文脈から若干不安を感じるのは、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書が極めて重要な緩和政策の1つとして、CCSを押し進めているように見える点である。

Serrano Glacier

チリのベルナルドオイギンス国立公園にあるセラーノ氷河は、南パタゴニア氷原の一部で、『その氷原にあるほとんどの氷河は、進行するいくつかの「壊滅的」後退によって崩壊しつつある』。 Photo: Terry Feuerborn. Creative Commons BY-NC (cropped).

クライン氏の著書に戻ると、著者の分析にはとても説得力があるものの、私たちの唯一の選択肢は「Blockadia(ブロケディア、阻止する空間という意味の造語)」だろうという彼女の主張には不安を感じながら読み終えた。外に出てデモを行い、闘って、気候に悪影響を及ぼすすべての行動を阻止するしかないという主張である。彼女が正しいかもしれないが、それでは資本主義者による気候破壊の世界から、資本主義以後の未来への変遷に大きな痛みを伴う可能性があり、結末がどうなるかがわからない。だが、私たちにはほんとうに選択肢があるのだろうか。

もしもマーシャル氏が正しいなら、この種の悪いニュースを避けて通る傾向のある一般市民に、このような変遷を(とくに痛みを伴うものであるなら)どうすれば受け入れてもらえるのだろう。実のところマーシャル氏は、社会の中で気候変動について話すのは、死について話すようなものだと警告する。死は、誰でもやがては自分の身に起こると知っていて、それでもあまり考えたくないと思っている、もう1つの例である。

時間がない

ただし、私たちの最大の懸念は、もう時間がないという事実ではないだろうか。

私は大変幸運なことに、1997年の京都議定書をめぐる日本での交渉に向けたUNFCCC 事務局に加わっていた。参加者が議定書に同意した交渉最終日の高揚感は、今でも記憶に残っている。

あの日の京都の会議場では、よほどの皮肉家でもなければ、世界の二酸化炭素排出量がその後も勢いよく増え続けること、増加率がさらに加速することなど、想像さえできなかったにちがいない。この実態はGlobal Carbon Project(グローバル・カーボン・プロジェクト)のWebサイトにある排出量データに、はっきり記録されている。過去20年間で排出量の増加をわずかに衰えさせたのは、2008年の世界同時不況だけだった。

世界の平均気温の上昇は、温室効果ガス、とくに二酸化炭素の、大気中への長期的蓄積量に比例している。また実際には、気候科学者たちはあとどれだけの炭素を大気中に排出すれば世界の平均気温上昇が摂氏2度以上になるかを知っている。この量は、「世界全体のカーボン・バジェット」と呼ばれている。

許容されるバジェットの総量は、二酸化炭素換算で2,900 ギガトン(GtCO2)と計算されている。ただし、19世紀末から現在までの間にすでに1,900 GtCO2が排出されており、残りは1,000 GtCO2となる(IPCC 第5次評価報告書による)。

また、ポツダム研究所の研究者たちはさらに厳しいバジェットを計算しており、現在から2050年までの間に残されたカーボン・バジェットはおよそ565 GtCO2であると 提言している。

Aletsch glacier

23キロメートルの長さを誇るスイスアルプスのアレッチ氷河は欧州最大の氷河で、ユネスコ世界遺産の一部である。1850年から2005年までの間に、 氷河全体の表面積が40%、体積が60%縮小した。 Photo: Swissbert. Creative Commons BY-NC (cropped).

残念ながら、現実はさらに厳しいかもしれない。現在の速度で排出量が増え続ければ、2033年には世界全体のカーボン・バジェットに達する可能性がある。それは今からわずか18年後 のことだ(注: もう少し、おそらくあと10年ほど、時間に余裕のある 別の予測もある)。これはおおまかに見て、IPCCの最悪の場合のシナリオである代表濃度経路 (RCP)シナリオ8.5と一致している。

気が滅入る話かもしれないが、この最悪のシナリオの18年は、1997年の京都での交渉から今までの18年とぴったり一致する。これで、気候科学者たちが私たちの展望に悲観的になる理由が理解できる。私たちはこれまでの18年間で、気候変動との戦いにほとんど何もできていないからだ。

現在、平均気温の上昇を摂氏2度以内に抑えるためには、現在から2020年までに世界の排出量のピークを迎え、その後急激な減少を進める必要があると言われている。ピークが早ければ早いほど、そして減少の速度が速ければ速いほど、転換点を超えずにすむ可能性が高まるのは明らかである。

ただしマーシャル氏が示唆しているように、このようなニュースに対して私たちは集団として、逃げ、考えるのをやめ、愉快な娯楽に走るという反応を示してしまう。

だが、逃げ道などどこにもない。ほかに脱出する方法はない。

そこで、2015年は極めて重要な年になる。年末に各国がパリに集まって新たな国際気候協定を結ぼうとしているだけでなく、1997年の京都議定書から世界的なカーボン・バジェットを使い果たすとされる2033年までのちょうど中間地点にあたるからだ。

これに対処する唯一の方法は、私たち全員が事態をしっかり受け止め、低炭素の世界への転換を積極的に押し進めることである。それを私たちの暮らしの、そして私たちのグローバルな文明化の、責務としなければならない。

翻訳:日本コンベンションサービス

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著者

ブレンダン・バレット

ロイヤルメルボルン工科大学

ブレンダン・バレットは、東京にある国連大学サステイナビリティ高等研究所の客員研究員であり、ロイヤルメルボルン工科大学 (RMIT) の特別研究員である。民間部門、大学・研究機関、国際機関での職歴がある。ウェブと情報テクノロジーを駆使し、環境と人間安全保障の問題に関する情報伝達や講義、また研究をおこなっている。RMITに加わる前は、国連機関である国連環境計画と国連大学で、約20年にわたり勤務した。

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