エネルギー貧困の真相

パキスタン農村部のほとんどの家庭がいまだにエネルギー貧困にあえでいる。彼らは電気や天然ガスなど従来のエネルギー資源が利用できないことから、世界各地で見られるような方法として、灯油や伝統的バイオマス(薪や動物性及び植物性廃棄物など)といった多様な非従来型のエネルギー資源を利用している。

現在の農村部におけるエネルギー利用状況の研究から、これらの家庭はいわゆるエネルギー貧困であることが既に分かっている。彼らが頼るエネルギー資源は継続不可能であり、安定した量を確保できないからだ。

しかし、今までのエネルギー貧困に関する研究は、そのほとんどが農村部の各家庭のエネルギー費用に焦点をあて、世帯収支に占めるエネルギーコストの割合と生活への影響を分析するものであった。これらの論文はこの複雑な現象を理解するうえでは大変役立つものの、各家庭によって大きく異なるエネルギー資源の利用方法や必要とするエネルギー量の物理的、社会的、そして経済的要素を見落としているのではないかと私たちは考えた。

そこで、エネルギー貧困の測定方法を一歩前進させるために私たちはエネルギー貧困調査(Energy Poverty Survey)を開発した。このEPSでは、農村家庭がエネルギー資源およびエネルギーの組み合わせ(エネルギーミックス)を選択する際に決定的な影響を与える要素について調査する。この新しい方法論により、開発途上国にまん延するエネルギー貧困をより深く理解することができると期待している。

方法と結果

私たちはこの調査を27の農村地域で実施した。調査方法には層別抽出法を用い、第1段階では設定基準に合う地域として、電気の有無に関わらず天然ガスが利用できない農村地域を対象とした(なぜなら家庭では天然ガスが利用できない時にのみ伝統的なエネルギー資源を使用するため、このような要件を設定した)。

第2段階の抽出方法として、基準を満たしている地域を選定した後、様々な経済状況の家庭が選ばれるように無作為抽出を行った。

伝統的エネルギー資源を利用する農村家庭には、電気やガスなど現代エネルギー資源にはない不便性が必ず伴う。

私たちのサンプル調査は、パキスタンで最も人口の多いパンジャーブ州の主要11地区を網羅した。1998年の人口調査によれば、パキスタンの農村人口8900万人のうち、5100万人(57%)はパンジャーブ州に居住しているのだ。そして、パンジャーブ州の人口の7割が農村部に住み農業に携わっている。

Photo: © Bilal Mirza.

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今回の研究方法により、エネルギー貧困は2つの要素から決定づけられると考えている。農村家庭で使うエネルギーミックスから生じる不便性と、必要最低限のエネルギー量が足りていないことが問題なのだ(要するにエネルギー不足である)。両要素は閾値に対し測定されている。私たちの指標の斬新さは、キロワット時(kwh)で表わすエネルギー不足に関する既存の測定値に、伝統的エネルギー資源の利用で生じる不便性の測定値を組み合わせている点にある。これらの指標がついにエネルギー貧困の新しい総合指数に含まれることになったのだ。

伝統的エネルギー資源を利用する農村家庭には、電気やガスなど現代エネルギー資源にはない不便性が必ず伴う。薪の収集から液化石油ガス(LPG)の購入まで、農村家庭はエネルギーの確保に並外れた労力を強いられているのだ。

通常、キロワット時で表わすエネルギーの利用状況が高い家庭ほど多くの不便に耐えているのだ。これを踏まえ、家庭のエネルギー不便度は、各世帯の必要エネルギーの確保と使用の際に生じる労力と不便さの度合いで決まると考えている。

Photo: © Bilal Mirza.

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エネルギー不便度を測るために、農村家庭のエネルギー利用方法に関連する指標を以下のように設定した。

1.    エネルギーの購入や収集の頻度
2.    家からの移動距離
3.    移動手段
4.    家庭内でエネルギー確保に関わる人数
5.    エネルギー収集に毎週掛ける時間
6.    家庭の健康状態
7.    子供がエネルギー収集に参加する度合

全6種類のエネルギー資源につき、私たちは7種の不便要素を識別した。このうちの5つ(上記の2、3、4、5と7番)は全てのエネルギー源に共通する。伝統的バイオマス(収集及び購入した薪や動物性、植物性廃棄物など)の場合、上記の指標すべてがあてはまる。灯油の場合、五つの共通指標と6番(家庭の健康状態)の合計6つの指標が使われ、対してLPGには全ての共通指標が使用される。

結果として、農村家庭の23.1%が高いエネルギー不便度を被っており、エネルギー資源の収集と購入に多くの時間と労力を費やしていることが分かった。

次に、標準的な換算値を使って様々なエネルギー資源をキロワット時に換算したところ、96.6%の農村家庭が重度のエネルギー不足に直面していると結論づけた。

この新しいエネルギー貧困の総合測定により、パキスタンのパンジャーブ州の全農村家庭の91.7%が重度のエネルギー貧困の状態にあることが明らかになったのである。

新しい指標

私たちの研究の大きな目的の一つは、開発途上国で蔓延するエネルギー貧困を測定する普遍的利用価値のある指標を作ることであった。各エネルギー資源に伴う不便度(特に伝統的バイオマス)を指標の中に統合することは、複雑な現象であるエネルギー貧困を理解するうえで非常に重要かつ関連性が高いと私たちは信じている。

結果として、農村家庭の23.1%が高いエネルギー不便度を被っており、エネルギー資源の収集と購入に多くの時間と労力を費やしていることが分かった。

この指標の統合はエネルギー貧困の真意を社会的視点から解明するだけでなく、さらなる経済分析も可能とする。不便度の数値が高ければ、エネルギー資源や異なるエネルギーミックスに伴う機会費用も高いことを意味する。このようにエネルギー貧困は将来的な家庭の収入増加の可能性をも左右するのだ。

多大な肉体的、経済的努力を費やしてはいるものの、電気の有無に関わらず天然ガスが利用できない農村家庭では経済状況に関係なく重度のエネルギー不足に直面していることを今回の方法論で明らかにした。

この研究方法は今後のさらなる研究や分析に役立つであろう有意義な指標を提供しているのだ。

翻訳:越智さき

Creative Commons License
エネルギー貧困の真相 by アダム・ シルマイ and ビラル・ ミルザ is licensed under a Creative Commons Attribution-NoDerivs 3.0 Unported License.

著者

アダム・シルマイ氏はUNU-MERITの特別研究員でありマーストリヒト大学の開発経済学の教授でもある。彼の研究は発展途上国の製造業の発達と生産力の国際的関係と製造業界の組織の世界的変化に焦点を当てている。彼の研究の2つめの着目点は発展途上国にての革新、技術変化と経済成長の関連性だ。3つめの関心分野は発展途上世界の長期成長と低迷の確定要素である。

ビラル・ミルザ氏は2006年よりUNU-MERITの博士研究員であり、農村家庭のエネルギー貧困とその社会経済的影響の測定を行っている。スイス連邦工科大学(EPFL)の卒業生であり、UNU-MERITではルネ・ケンプ博士とアダム・シルマイ博士と共にこのプロジェクトに携わってきた。彼は農村地域の貧困の測定と軽減、貧困層のための技術や発展途上国の革新対策などの研究に興味を持っている。