マーク・トラン氏は国際ニュースのレポーターであり、ガーディアン紙の特派員記者としてワシントン(1984~1990年)およびニューヨーク(1990~1999年)で活動した経歴を持つ。
サヘル地域の各国政府と国際的な救援機関は迫り来る食料危機をいち早く認めた。
干ばつに見舞われたニジェール(不作の結果、およそ100万人が深刻な食料不足にあえいでいる)の政府は昨年10月、対応計画の草案をまとめた。同案は牧畜民と農民、家畜に焦点を当てたもので、今年の食料危機を予測したものだった。対応が迅速だった理由は、一部にはニジェール政府の変化にある。なお、ニジェールは人間開発指数のランキングで187カ国中186位である。
2010年の軍部クーデターの後、2011年3月に選出されたマハマドゥ・イスフ大統領は、サハラ砂漠の端に位置する広大な自国を襲った昨年の不作を受けて、国際的支援を求めた。ニジェールは長年にわたり、大規模な人口増加、蔓延する貧困や食料不安、そして政情不安に直面している。
「新政権は、国内の飢えに苦しむ人々の存在をもっと世界に広く知らせようとしています。前政権はより消極的でした」と国際的な作物研究機関であるイクリサットの西部アフリカ担当部長、ファリド・ワリヤー氏は語った。
国連世界食糧計画(WFP)のニジェール事務所長を務めるデニス・ブラウン氏もワリヤー氏と同意見だった。ブラウン氏は、昨年の雨期の到来が遅かったことは「緊急事態がゆっくりと接近していることを示すのに十分で、危機が直撃するまで待ってはいられませんでした」と語った。「ニジェール政府は早い時期に、国際組織やNGOと共に、支援の必要性を認めました。私の同僚たちは、その変化と情報の透明性に驚いています」
雨期の到来が遅いと、「端境期(収穫後から次の収穫までの時期)」の間に収穫した食料が底をつくという問題が生じる。今年の端境期は通常より3カ月も早い3月に始まる可能性が数カ国で生じる予想だ。ブラウン氏は昨年11月に警鐘を鳴らし、それ以降、サヘル地域に押し迫る危機の警告が相次いで出されている。
12月初旬、欧州連合(EU)の人道援助・危機対応担当委員のクリスタリナ・ゲオルギエヴァ氏は、多くの地域で食料生産が大幅に落ち込み、ニジェール、チャド、マリ、モーリタニア、ナイジェリア、ブルキナファソでは700万人の人々がすでに食料不足に直面していると語った。ゲオルギエヴァ氏によると、こうした数字は今年の食料供給に大きな問題が生じることを示しているという。彼女は危機に対して早急に対応できない国際社会への不満を表明し、サヘル地域への早急な投資は、ソマリアでの事例のように惨事が直撃するのを待つよりも少ないコストですむと指摘した。
国連児童基金(UNICEF)は657万ドルの支援を訴え、ニジェールを含む被災諸国で緊急救援物資を配っている。ニジェールでは、3万3600人にのぼる5歳以下の子供がリスクにあると推計されている。
一方、WFPはニジェールで、より多くの人々を対象に、労働の対価としての現金および食料支援プログラムを拡大しているほか、2歳以下の子供、妊婦、授乳中の母親の栄養改善を目的とした支援を行っている。WFPはすでに、月およそ50万人の苦しむ人々を支援している。
ブラウン氏によると、WFPは1人あたり1日1000CFAフラン(1ポンド29ペンスあるいは2USドルに相当)を支給している。その対象は主に女性で、例えば水利計画のような小規模プロジェクトでの労働に対して支払われるため、人々は都市へ出稼ぎに行くのではなく、同じ場所にとどまることができる。
ニジェールでは収穫後の時期に穀物価格が下がるはずだったが、不作だったために価格は急激に上昇した。WFPによると先月の時点で、キビの平均価格は前年の同時期と比べ37パーセント上昇したという。
ニジェール政府は、4地域に住む最高75万人が深刻な食料不足にあると認定した。WFPは今後1年間にわたり、ニジェールの約330万人に対し推計1億6300万ドルの食料支援を行う予定だ。
サハラ以南アフリカの移住労働者がリビアなどから帰国し、送金が減少したため、食料不足と価格高騰により引き起こされる諸問題は悪化し、多くの家族は収入を失った。国際移住機関は、過去1年間に帰国したニジェール人を約9万人と推計している。
しかしながら、ニジェールからモーリタニアにいたる国々では、深刻な食料不安に直面する人々が過去数年は50万人だったのが、推計70万人にまで増加したため、各国政府は早々に予防的措置を講じている。
こうした迅速な対応は、2005年と2010年に大規模な干ばつが同地域を襲った際の遅々とした対応とは明らかに対照的だ。クリスチャン・エイド、ケア、オックスファムGB、その他のNGOで構成されるサヘル・ワーキング・グループが発表した報告書は、2010年の食料危機への国際社会の対応を「あまりにも少なく、あまりにも遅い」と表現している。
「早期の警告システムが情報を発信していたにもかかわらず、国際社会は過去の食料危機に際して過ちを繰り返した」と、昨年10月に発表された報告書は記している。「対応の遅れが状況を悪化させ、不必要な苦しみを生んだ。農村や牧畜地域の貧しい世帯が財産を失うことになり、支援の必要性は大きく高まり、支援費用が著しく増加した」
オックスファムで緊急食料安全保障に関する上級アドバイザーを務めるカミラ・ノックス=ピーブルズ氏は、教訓が生かされたのだと言う。「私たちは2010年の危機から学んでいます。人々は(アフリカの)角における危機の重大性を知っているので、より早急に行動を起こす準備ができているのです」
早期の対応は心強いことではあるが、サヘル地域での干ばつの頻度が増えている事実は隠しようがない。つまり、地域の人々は被害から立ち直る時間もないまま、危機から危機へとよろめきながら歩んでいる。そして状況が改善する見通しもない。
先月発表された国連の研究によれば、気候変動はサヘル地域と西アフリカに住む何百万もの人々の暮らしにすでに影響を与えている。気候変動は人口増加と不十分なガバナンスと相まって、少ない資源をめぐる競争を激化させただけでなく、移住パターンを変え、紛争のリスクを高めたと同報告書は記している。安全保障の分析家たちは、イスラム・マグレブ諸国のアル・カーイダ(AQIM)が同地域での食料不安を利用しようとするだろうと危惧している。
国連の同研究は、過去40年間にわたる気温の変化が深刻な洪水や干ばつを引き起こし、人々の暮らしを著しく変えた地域を「ホットスポット」として指定している。ホットスポットの多くはサヘル地域の中央部、すなわちニジェール、ブルキナファソ、ガーナの北部および沿岸部、トーゴ北部、ベナン、ナイジェリアにある。
国連環境計画(UNEP)のアッヘム・シュタイナー事務局長は、緊張関係の緩和やリスク管理、増加する紛争や移住(特に北部の牧畜民が、農民が利用している南部の土地に移住すること)の可能性の抑制には、地域的連携がカギとなると語った。
こうした暗い見通しとは対照的に、明るい展望もある。水の貯留技術や土壌保全を目的とした植樹によって、ニジェールでは小規模農業を行う人々が何千ヘクタールもの土地を再生することができた。問題は大規模農業の改善であり、それには費用がかかる。
ワリヤー氏が指摘したように、2003年のアフリカ連合によるマプト合意に基づきGDPの10パーセントを農業に投資できそうな国は、サヘル地域には1カ国もない。マプト合意は、気候条件が悪化していく中、サヘル地域がレジリアンス(変化に対する柔軟な強さ)という聖なる杯を手にするために掲げられた目標である。UNEPは、サヘル地域には長期的な経済的支援と、より良好な投資関係が必要であり、国連気候変動枠組条約の「グリーン資金基金」やクリーン開発メカニズムのような資金源を利用すべきだとしている。
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この記事は2012年1月9日月曜日、guardian.co.ukで公表したものです。
翻訳:髙﨑文子
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