ジョン・ヴィダル氏は英紙「ガーディアン」の環境部門の編集者である。フランス通信社(AFP)、ノースウェールズ新聞社、カンバーランド・ニュース新聞社を経て、1995年にガーディアンに入社。「マック名誉毀損:バーガー文化体験 (1998)」の著者であり、湾岸戦争、新たなヨーロッパ、開発などをテーマとする書籍に寄稿している。
世界有数の過酷な環境の中、放牧地を求めて絶え間なく移動を続ける遊牧民はアフリカ経済の繁栄に不可欠である。しかし、彼らの生活様式が政府や自然保護論者、また大規模農家から圧迫を受けているという研究報告がある。
伝統的に遊牧民が使用してきたエチオピア、セネガル、マリ、チャド、ケニヤなどサハラ以南諸国の数百万ヘクタールの大地は、過去50年間、定住型農業や自然保護により奪われてきたと、国際環境開発研究所(IIED)出版のModern and Mobile(現代的移動性)の著者は述べている。
政府は牧畜の輸出や地元消費による生産高の増加を見込み、より欧米型の農業への移行を奨励しているが、間逆の結果が現実になろうとしているのだ。
著書にはこう報告されている。「大規模家族農業がゆっくりと、しかし容赦なく広大な土地を占領していっています。東アフリカでは、国立公園、動物保護区、狩猟区、自然保護地区に土地が奪われ、遊牧民の可動域が大幅に制限されているのです。彼らが伝統的に利用してきた土地は、もはやそこには無いのです」
著書によると、可動区域の制限により、遊牧民と農家との対立が起きているという。「移動に関する問題は深刻化しています。水源や市場の利用がますます困難になり、牧畜の収益性を著しく阻害しているのです。貧困、資源劣化、そして紛争が増加しているのです」
しかし、アフリカの5000万の遊牧民は、現代社会への適合を急速にすすめている。
著者の一人、セド・ヘッセ氏はこう述べる。「(彼らは)携帯電話で最新の畜牛の市場価格を調べ、安価な中国製のオートバイで遠く離れた群れや迷子のラクダを追い、徒歩やトラック、または船で数千キロを旅し、家畜の国際間取引を行っています」
「彼らは古典的で時代遅れの生活様式を実践しているように見えるが、世界の営みと広く一体化しているのです」
また、西アフリカやエチオピア、あるいはケニヤの遊牧民の畜牛からは、高品質の食肉がより多く生産され、オーストラリアやアメリカで見られるような家畜を1か所で飼育する”現代的な”牧畜より、1ヘクタールあたりの生産性が高いのだ。
「肥育牛の大規模放牧では、食肉の一品目のみを生産する傾向にありますが、遊牧型牧畜は食肉、牛乳、血、肥料、牽引力などを生産し、比べ物にならない価値を生むのです」
次第にその頻度を増す干ばつによって、壊滅的な打撃を受けているサハラ以南アフリカの農家と違い、遊牧民は気候変動にも強く、莫大な経済的利益を生んでいる。著書の一人、サベリオ・クラトゥリ氏は述べている。「ほとんどの農家にとって障害となる、厳しく乾燥し予測不可能な環境は、遊牧民には障害ではないのです」
さらに、新たな事実により、遊牧が他の土地利用法に比べ、生態学的に野生生物との共生に適していることも裏付けられようとしている。「なぜなら遊牧民は、栄養価の高い牧草が常にどこででもみつけられる環境ではない中で、牛乳や食肉を生産するため、家畜が可能なかぎり豊富な飼料を摂れるように導き、繁殖させ、調教することができるのですから」
著者たちは、政府や海外の支援者たちに対し、遊牧民を見直し保護するよう要請している。
ヘッセ氏は語る。「わずかな資金投入が、遊牧民と彼らのコミュニティーに利益をもたらすだけでなく、数百万人の生活を豊かにするのです。幅広い経済発展に貢献するアフリカの遊牧民を支援することが極めて重要なのです」
そして、政府間開発機構の理事、Mahboub Maalim氏はこう述べている。「アフリカの遊牧民たちは、国家開発の本流から外れ、危機に陥り衰退の一途をたどる生活様式を続行している民族という誤った見方をされてきました。実際には、彼らは他の土地利用システムには適さない土地から、莫大な経済的利益を生み出しているのです」
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この記事は2010年2月7日日曜日、22時36分グリニッジ標準時にguardian.co.ukで掲載されたものです。
翻訳:上杉 牧
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