2009年3月10日から3月12日にかけて、”International Scientific Congress on Climate Change: Global Risks, Challenges and Decisions”が約80カ国から2500名以上の参加者を集め IARUの協力の下、コペンハーゲン大学のホストによりコペンハーゲンにて開催された。
本会議は、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が2007年に公表した第4次報告書以後、2年間の科学的知見の確認や、地球持続性を担保し得る科学・技術・政策の統合に関して議論し、その結果は12月に開催予定の「気候変動に関する国際連合枠組条約・第15回締約国会議(COP15)に先立ち政策立案者に提示することを目的としている。
また本会議中のセッション43において、科学と伝統的な知識という、一見、相異なる立場にあると思われる2つが協力することにより、地球持続性を担保するうえで今後重要な役割を果たしていく可能性が生まれた。
本会議では、IPCCの 第4次報告書 での予測を超える海面上昇を示すシミュレーション結果の提示など、新たな科学的知見や実現可能性を考慮した様々な政策や適応技術などが報告、議論され、もはや国際社会として温暖化対策を講じない理由はない、といった様相であった。
最終日のクロージングセッションにおいては2050年までの長期目標の候補の一つである、世界の温室効果ガス排出量50%削減の科学的妥当性に関する議論が行われた。具体的には、COP15では議長を務めることになるであろうデンマークのラスムッセン首相が科学者へこの目標の科学的な妥当性を、もっと端的に言ってしまえば、研究から得られた知見を政策に利用することができるのか、「Yes or No」で明確に答えるよう要求した。
当初は明確な答えは引き出せなかったが、再三に亘る問いかけに、「不確実性はあるものの政策的に大きくはずれることはない」との回答があった。IPCC第4次報告書以降、地球温暖化は人為起源であるとの認識が大勢となった。
国際社会としてそれに早急に対処しなければならない、というのが本会議の共通認識である、ということは先に述べたとおりである。
しかし対処するにあたって基礎となる科学者の側からの科学的知見には、常に不確実性が伴う。科学者の側は、できるだけ客観的な証左のみを述べたい。
そのため不確実性を反映し、ある程度幅のある結果を提示する傾向にある。しかしながら、政策立案に際しては、そうはいかない。
実際に政策を施行するには、指標となり得る具体的かつ明確な指標に基づかなければならないことが多い。クロージングセッションにおけるやりとりは、政策立案者と科学者の立場の違いを如実に顕したものであるが、これは今後、地球持続性のために国際社会として行動をとるにあたって、 科学者の側に求められているのは、政策立案者へ実行可能な政策に貢献する科学的知見の提供ということを示している。
地球持続性に関する議論は緊急性が高いが故に、科学者の側に求められる事柄も、それを意識した、より具体的なものとなるのである。
セッション43は、”Integrating Climate Change into Global Sustainability”のタイトルの下、地球持続性に大きく影響する気候変動への対応をテーマに、武内和彦国際連合大学副学長・東京大学サステイナビリティ学連携研究機構副機構長によりオーガナイズされた。本セッションには、小宮山宏・東大総長、アブドゥル・ハミド・ザクリ前国連大学高等研究所所長、 カール・フォルケ ストックホルム・レジリアンス・センター科学ディレクター等が報告者として参加した。
これら3人の報告が本セッションの地球持続性に関する科学的知見と、候補となる政策や技術に関する議論のベースとなっていた。小宮山・前東大総長によるプレゼンテーションでは、科学的知見に代表される「知識の構造化」とそれに続く「行動の構造化」の必要性が強調された。
ザクリ前所長は、ミレニアム生態系評価が地球温暖化に対応するための政策オプションの立案に貢献し得ることについて言及した。更に、これに関連し、カール・フォルケ・ディレクターは、社会—生態系に関するレジリアンス概念の地球持続性問題への適用と政策介入の可能性について報告した。
本セッションでは、これらに関連した方法論、すなわち様々なシミュレーション分析や構造化手法としてのオントロジー概念の適用やフィールド調査等についての報告がなされていた。
本セッションには、このような科学者の報告だけではなく、数人の先住民族が参加し、彼らによる報告および議論は大変興味深いものであった。
先住民族の参加者の主張は、地球持続性への挑戦にあたって必要なのは科学あるいは学術によるデータや知識の創出に限ったものではなく、それらの外側にある伝統的な知識等が重要である、ということである。先住民族は、地球持続性に関する戦略策定にあたって、自らが有する知識の有効性を十分認識しているのだ。
また、セッションの最後にもうけられた総合討論では、先住民族の参加者よりバイオ燃料導入に関するシミュレーションモデルの計測結果の報告に対して質問がなされた。シミュレーション結果は「EUあるいはアメリカのバイオ燃料導入政策が、途上国の森林面積を減少させる」というものであった。
これに対して先住民族の側から計測結果、特に減少する森林面積の値の信頼性について質問がされた。これはクロージングセッションでラスムッセン首相から提示された「Yes or No」の質問に通ずる。シミュレーションモデルの結果には必ず不確実性がある。
すなわち科学者には「不確実性はあるが傾向については妥当する」という、客観的な証左ではあるが、ある意味安全な答えを提供することしかできない。
しかしながら、こういった科学的知見は、不確実性はあるものの、先住民族にとっても有用なものであることは疑問の余地はなく、また科学者にとっても、伝統的な知識のみが有する知見を得ることで不確実性を減少させることも可能となるであろう。
すなわち伝統的な知識を有する先住民族と科学者とのコラボレーションが、地球持続性に関する議論において実現し、その結果が「知の構造化」さらには「行動の構造化」の拡張因子として組み込まれることで、より実行可能かつ有効な地球持続性に資する国際戦略の立案が可能となるのかもしれない。この先住民族の視点は、セッション43による”International Scientific Congress on Climate Change”あるいは地球持続性に関する議論への大きな貢献の一つである。
「今」求められている科学的 事実 by 武内 和彦 and 松田浩敬 is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.
Based on a work at http://ourworld.unu.edu/en/scientific-fact-no-time-for-fence-sitting/.