豪州ケープヨーク・コワンヤマの海面上昇

オーストラリアの熱帯地域、クイーンズランド州の海岸地域に居住するアボリジニ共同体「コワンヤマ」。「海面が上昇したら、我々はどこに行けばよいのか?」 ここに暮らすクンジェン族の長老、インヘルコウィンギナンバナ氏は、考え込んでいた。

先祖代々続く土地と文化を守るため、地元の長老たちと共に働くアボリジニのレンジャーは、「毎年、潮が満ちる度に海水が上昇している。海水が沼地に流れ込めば、植物は枯れ、水の流れも変わってしまうだろう」と懸念している。

このような潮の変化は、オーストラリアに限った現象ではない。今や気候変動が、世界中で海面上昇を引き起こしている。
歴史を振り返ってみても、これまで科学者たちは海面上昇の変化を記録し続けてきたが、20世紀に起きた海面上昇は、過去数千年前に比べ、大幅に高くなっている。地球温暖化との関連性も、科学者たちが同意するところだ。

「毎年、潮が満ちる度に海水が上昇している。海水が沼地に流れ込めば、植物は枯れ、水の流れも変わってしまうだろう。」

温暖化が海面上昇を引き起こす仕組み

様々な研究から、「海水の熱膨張」が海面変動の主な要因であることが明らかになっている。

気温が上昇し海水が温まると、水が膨張し海面が上昇する。これはペットボトルの水を暑いところに置いた時の現象と似ている。しかし、熱の膨張だけが海面上昇の理由ではない。

科学的な諸研究では、5-6インチ(13-15センチ)の海面上昇がすでに立証されており、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、次世紀には世界平均で0.6-2フィート(0.18‐0.59メートル)上昇すると予測している。(ビデオではオーストラリアのサンゴ礁と熱帯雨林リサーチセンターの報告に基づき、1990年比で0.49 ‐0.89メートルの上昇としている。)

また、海岸線に関しては、実際の海面上昇値の、実に100倍も後退するだろうと科学者たちは予測している。何も対策を講じなければ、次世紀には、18‐59メートルの浜辺が侵食されるのだ。

コワンヤマの人々

コワンヤマは「豊富な水」という意味で、何世紀にもわたり、ココムンジェナ族、クンジェン族、ココベラ族のコワンヤマ先住民族は、豊富な水の元に栄えてきた。雨期の間に何カ月も降り続ける雨や洪水、海水、淡水の河川や小川のおかげだ。

沿岸部に住む他の人々と同様、海岸平野に暮らすコワンヤマのアボリジニは、些細な海面変動にも影響を受けやすい。また、今後予測される熱帯の気候変動は、深刻な海面上昇が起こる以前に、勢力の強いモンスーンがこの地域を流れる大河の洪水をひき起こす可能性を示唆している。

これは実際にすでに起こっており、海から40キロのミッチェル川デルタ内に位置するコワンヤマへの影響が懸念されている。雨期には、洪水のため淡水が3キロにわたって海に流れ出る。

海水と淡水の微妙な均衡は、この乾燥地で生命を育んできた。この地域の人々は、飲料水の確保や狩猟採集の営みに、海水と淡水のそれぞれの生態体の恩恵を受けてきた。

しかし、海面が上昇すれば、海水が淡水に流れ込み、生態系に大きな影響を与え、「豊富な水」を誇るアボリジニも、予期せぬ環境変化の影響を受けることになる。

淡水を確保できず、淡水生態系の多様な生物を入手できなくなれば、コワンヤマのアボリジニは、これまでとは全く異なるライフスタイルを余儀なくされることになるだろう。

「潮がすべてをめちゃくちゃにするだろう。先住民も白人も、我々はみんなどこへ行けばいいのだろう?」

夢の伝説

コワンヤマに暮らす人々にとって、海水と淡水の均衡は、身体の成長に不可欠なだけでなく、精神や文化面での支えにもなっている。

この土地の神話、または「夢の伝説」によると、その昔、先祖のタカが、海水を堰き止めるため石壁を建てて、この土地と人々を洪水から守り、また、賢いオウムも海岸の砂丘を積み上げ、水を堰き止めた、と語り継がれている。

インヘルコウィンギナンバナ氏は膝まずき、砂の中に眠る文化的遺跡を分析しながら、これらの遺物が伝えるこの土地についての知識や、アボリジニにとってこれらの遺物や知識を尊び、守っていくことの大切さを説明してくれた。

しかし、海水が上昇するにつれ、これらの遺跡は少しずつ洗い流され、語り継がれてきた伝説やコワンヤマへの愛着が失われつつある。

こうした生物物理学的な変化は、アボリジニのアイデンティティにとって不可欠な精神的また概念的境界をも浸食している。

事実、「我々はどこに行けばいいのか?」というインヘルコウィンギナンバナ氏の問いは、今後、洪水防止策を講じることにより発生するであろう生態系の変化や、環境難民の問題を超越し、「我々は何者か?」という自らのアイデンティティを問うているのだ。
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本ビデオと記事は、「先住民の気候変動アセスメント」を補完するものであり、国連大学伝統的知識イニシアチブの一環である。このイニシアチブを支えるクリステンセン基金の支援に感謝する。

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リンク:

TKI-先住民の気候変動アセスメント
コワンヤマ共同体
気候変動に関する先住民のグローバルサミット
サンゴ礁と熱帯雨林リサーチセンターについて

Creative Commons License
豪州ケープヨーク・コワンヤマの海面上昇 by アメヤリ・ ラモス・カスティージョ is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

著者

国連大学高等研究所の伝統的知識イニシアチブ(TKI)にて、水管理と気候変動プログラムに携わる兼任リサーチフェロー。 地球環境問題と伝統的知恵の相互関係についての調査、地球環境問題の持続可能な解決策としての伝統的知識の役割に焦点をあてる。主な活動に、伝統的知識に基づく解決法の記録をはじめ、伝統的知識の認識を深め、国際政策へ適用させるなどが挙げられる。TKIに加わる前は、国連大学高等研究所にて、持続可能な開発のための科学政策プログラムに博士課程研究員、コンサルタントを務める。

オックスフォード大学環境研究所とオックスフォード大学ウォーター・リサーチセンターにて水管理の文化的再水和についての博士号を修得中。ラテンアメリカにおける水管理協定と先住民ガバナンスシステムの形成について研究している。