科学者を口封じ:右派ポピュリズムの台頭

先月アリゾナ州でガブリエル・ギフォーズ下院議員の暗殺未遂とその場に居合わせた6人の命が奪われた事件に、アメリカは衝撃を受けた。地元の群保安官、クラレンス・ダップニク氏は多くの人々の事件直後の評価を認識し、この暗殺未遂事件と暴力的で反政府的なレトリックやイメージの台頭を結びつけ、「怒り、憎しみ、そしてこの国に蔓延している偏狭な考えは手に負えなくなりつつある」と評した。

ギフォーズ下院議員の父親は、議員に敵はいなかったかとの質問にこう答えた。「いましたよ。ティーパーティー(保守派の草の根運動)全体です」急進的な右翼活動家たちの扇動的な言葉遣いは遅かれ早かれ実際の行動を引き起こすだろうと、ギフォーズ議員本人も含む多くの人々が予測していた。

ガブリエル・ギフォーズ氏が銃弾に倒れる状況を生んだ、憎しみに満ちたレトリックは、アメリカの気候科学者や環境論者にも恐ろしい勢いで襲いかかっている。気候科学の化けの皮をはぐという姿勢は、ルパート・マードック氏のFOXニュースにおける正式な方針だ。なぜなら同社幹部から流出したメモはレポーターたちに地球の気温上昇を示すデータには必ず懐疑的になるように指示しているからだ。

気候科学者への最も辛らつな攻撃の一部はFOXニュースが雇ったコメンテーターによるものだ。FOXの番組で暴言を吐くビル・オライリー氏やショーン・ハニティ氏は、気候科学をたびたび笑いものにする。地球温暖化を「史上最大の詐欺」と呼ぶグレン・ベック氏は自身の番組にクリストファー・モンクトン氏を登場させた。モンクトン氏は自分に都合よく混ぜ合わせた統計の寄せ集めを使って、気候科学者の研究を詐欺だと攻撃し、「事実」や途方もない陰謀説を作り上げた。同ネットワークは、The Advancement of Sound Science Coalition(健全な科学の進歩を目指す連合)を運営していたエネルギー関連のロビイスト、スティーヴ・ミロイ氏を時々登場させている。その連合は元々、喫煙とガンの関連性を否定する活動の急先鋒グループだった。ジェームス・ホガン氏は自著『Climate Cover-Up』(気候問題の隠蔽)の中でミロイ氏を「ジャンク・サイエンス」、すなわち気候科学のプロとして紹介している。

マーク・モラノ氏もFOXニュースの常連である。彼は共和党のジェームズ・インホフ上院議員の元側近で、最も悪意に満ちた反科学ブログの創設者であり、気候科学者たちは公開むち打ち刑に値すると発言した人物だ。昨年の4月、FOXニュースでモラノ氏は、ペンシルベニア州立大学のマイケル・マン教授に対して憎しみに満ちた攻撃を開始した。マン教授は「ペテン師」であり、「政治がでっち上げることができる最高の科学」の責任者だと訴えた。モラノ氏は自身のウェブサイトで攻撃すべき気候科学者の1人を名指しで挙げ、その人物のEメールアドレスまで掲載し、自分の支持者たちに「彼にメールを送ろう」と誘いかけている。そして多くの者が誘いに乗った。

ネットいじめ

昨年私はいくつもの記事の中で、オーストラリアで最も権威ある気候科学者たちが新たな形態のネットいじめのターゲットになっている状況を詳細に報告した。このいじめの目的は科学者たちを活動の場から追い出すことだ。気候科学者が新聞記事やラジオのインタビューを通して公開議論の場に参加すると、すぐに攻撃的で口汚く、時には脅迫的な電子メールが大量に送りつけられる。私が話したオーストラリアの気候科学者たちの中には、気候問題の否定論者たちから受ける脅迫のせいで自宅のセキュリティーを強化した人もいた。

ネットいじめの問題は、その現象がさらに深刻なアメリカにおいて即座に取り上げられた。『サイエンティフィック・アメリカン』誌は特集記事を組み、英国でも『ネイチャー』誌が問題を取り上げ、さらに多くの脅迫の事例も明るみになった。数人の科学者は、クライメイトゲート事件が報道された2009年11月以降の数カ月間が脅迫メールの数が最も多かったと認めている。

コロラド州の国立大気圏研究所で分析主任を務めるケヴィン・トレンバース博士は、クライメイトゲート事件の発覚以降の4カ月間に届いた電子メールを大学の警備部に提出した。それは19ページの「非常に卑劣で、下品、(かつ)脅迫的な」電子メールだった。また、他の著名な気候科学者は自宅の玄関に死んだ動物を置かれたことがあり、今ではボディーガードと共に外出するという。

気候科学の化けの皮をはぐという姿勢は、ルパート・マードック氏のFOXニュースにおける正式な方針だ。なぜなら同社幹部から流出したメモはレポーターたちに地球の気温上昇を示すデータには必ず懐疑的になるように指示しているからだ。

気候科学の化けの皮をはぐという姿勢は、ルパート・マードック氏のFOXニュースにおける正式な方針だ。なぜなら同社幹部から流出したメモはレポーターたちに地球の気温上昇を示すデータには必ず懐疑的になるように指示しているからだ

数カ月前に亡くなったスタンフォード大学の著名な気候学者であるスティーヴン・シュナイダー氏は、数百通に及ぶ脅迫メールを受け取ったと昨年語った。彼は怒りと共に次のように問いかけた。「私はどうしたらいいんでしょうか?マグナム銃の撃ち方を覚えればいい?防弾ジャケットを着るべきですか?」彼はいつか科学者が殺されると考えて、次のように言った。「この国では中絶を行う医者が銃で撃たれるんです」女性下院議員も標的となるのだ。シュナイダー氏の名前や、明らかにユダヤ系だと分かる他の気候科学者たちの名前がネオナチの「死者リスト」で見つかったのを機に、警察が動き始めた。シュナイダー氏は、アメリカ右派の著名な評論家が気候科学者を攻撃するたびに、電子メールの数が「すぐさま、明らかに増える」のに気づいたと語った。

ネイチャー』誌にはポール・アーリック氏の次の発言が引用された。「誰もが死ぬほど怖がっているのに、どうしたらいいのか分からないのです」同誌の記事では、ラッシュ・リンボー氏、グレン・ベック氏、マーク・モラノ氏、スティーヴ・ミロイ氏のような人たちが気候科学に反対する暴言を吐いた後に、いじめや脅迫が激化すると指摘している。リンボー氏以外は全員、FOXニュースに雇われているか、同ネットワークによく登場する人物である。

「ホッケー・スティック論争」で有名なマイケル・マン氏も、自身が受け取った嫌がらせメールについて同様の発言をしている。「詳細はあまり話せないんです。特にメールの一部は今でも警察が捜査中だからです。私に言えるのは、大量の電子メールが一気に送られてくるということで、そのタイミングはラジオのトーク番組や過激なメディアで人目を引く攻撃的な言動があった時と合っているようです」

科学者たちを中傷し、最も影響力の大きい「過激なメディア」がルパート・マードック氏のFOXニュースだ。研究内容を理由にマン氏を罰しているのは、ネットいじめとFOXのデマゴーグだけではない。バージニア州のケン・クチネリ司法長官は、マン氏がバージニア大学で働いていた時の不正行為を示そうとして、詐欺罪に関する州法を利用しバージニア大学に大量の書類と通信文書を公開させた(マン氏は現在ペンシルバニア州立大学に勤務)。彼はマン氏が研究費を得るために納税者たちをだましたと主張したが、裁判所が召喚状の発行を認めるだけの証拠は全く得られなかった。全米大学教授協会の弁護士は、クチネリ氏の訴えは「マッカーシズムの名残」であり、他の研究者が気候研究を行うのを躊躇する原因になるだろうと語った。

政治家絡みの嫌がらせ

昨年オクラホマ州の共和党上院議員であるジェームズ・インホフ氏は世界で最も権威のある気候科学者たちの犯罪行為に関する捜査を要求したのを機に、科学者に対する嫌がらせキャンペーンは不吉な方向に転じた。環境・公共事業上院委員会においてインホフ氏のスタッフが用意した文書は、イーストアングリア大学の気候研究ユニット(CRU)から流出した電子メールで言及された科学者たちはデータの操作およびデータ開示の妨害という点で有罪だと主張している。さらに同文書は科学者たちが違反した可能性のある連邦法を列挙し、インホフ氏が刑事告訴のために捜査の必要があると主張する17人の気候科学者を名指しで発表している。

同文書に名前が挙がった科学者の1人で、マサチューセッツ大学アマースト校で気候科学研究のディレクターを務めるレイモンド・ブラッドリー氏は次のように答えた。「心配していると言わざるを得ません。お分かりのように、権力を持つ人物が議員の権限を利用して人々を威圧し、嫌がらせをしているのです。弁護士に相談すべきなのかもしれないと思っています。非常に威圧的なやり口で、だからこそ効果的なんです」

トップレベルの気候科学者たちに犯罪の疑いを掛けるというやり方は、嫌がらせや脅迫による否定論者たちのキャンペーンをさらに激化し、マッカーシズムのイメージを即座に抱かせるものだ。2009年11月、インホフ氏と同じく共和党でウィスコンシン州選出のジェームズ・センセンブレナー下院議員は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)に対し、CRUから流出した電子メールに名前がある科学者たちをブラックリストに載せ、今後IPCC関連のすべての仕事から追放するようにと文書で要求した。

『サイエンティフィック・アメリカン』誌によれば、否定論者である議員たちは自身の立場を利用して、気候変動の研究を行う科学者たちに悲惨な結末をちらつかせた「威圧的な手紙」を送っているという。そのような手紙を受け取った航空宇宙局(NASA)の科学者、ギャビン・シュミット氏は次のように語った。「各機関での科学的な研究は冷え込んできています。科学者が自身の研究について公の場で話したくても政治的な影響を被るのが怖いから、つい二の足を踏んでしまう状況です。議員を敵に回したい人などいませんからね」

『ネイチャー』誌は昨年3月、ネットいじめに関する論説でインホフ上院議員が気候科学者たちを犯罪者扱いしようとした件を取り上げ、次のように記している。「少数党派の一員であるインホフ氏には今のところ力はない。しかしそれも変わる日が来るかもしれない」その日が昨年11月にやって来た。共和党はティーパーティー運動に強力なサポートを得た結果、中間選挙において下院議席数の過半数を勝ち取ったのだ。選挙の前、Climate Progress(クライメート・プログレスという名前の気候変動に関するブログ)は「共和党(GOP)上院候補は今や1人残らず、気候科学を否定するか、温暖化ガス排出の削減を目指した最も穏健で、ビジネスへの影響が少なく、共和党が考案したアプローチにさえ反対するかのどちらかである」と記している。

選挙の結果、上院でも下院でも気候変動否定論を支持する新たな議員が大量に誕生した。「共和党の新人議員のうち……下院では85人中36人、上院では13人中11人が気候科学への疑念を公表している」マッカーシー主義者であるジェームズ・センセンブレナー下院議員は現在、下院科学委員会で副委員長を務めており、同委員会は気候科学の真実性を調査する予定だ。

「私個人としては、気候サイクルには人間のどんな活動の影響よりも太陽フレアの影響が大きいと考えています」とセンセンブレナー氏は語った。あたかも、太陽フレアの影響が彼個人の思いつきであり、気候科学者たちがその影響を徹底的に研究したことがないような口調であった。突如として、インホフ上院議員は孤立した狂信的人物ではなくなったようである。

一連の調査によって、流出した電子メールに名前があった科学者たちの嫌疑は晴れ、気候科学の信憑性を損なう証拠は皆無であったことが確認された。流出したメールを読めば分かることだが、UEAからハッキングされた電子メールで明らかになったのは、気候科学者が外部からの大きなプレッシャーの下で研究しているという状況だ。すなわち、科学者たちは常にペテン師やいかさま師だと非難され、彼らの研究内容は曲解されたり誤って伝えられたりしてきた。そして否定論者たちが画策した、嫌がらせめいた情報開示の要求攻めに遭ってきたのだ。

科学者が自身の研究について公の場で話したくても政治的な影響を被るのが怖いから、つい二の足を踏んでしまう状況です。(NASA科学者のギャビン・シュミット氏)

要するに科学者たちは、あまり理解もせず参加したくもなかったセンセーショナルな政治議論に巻き込まれてしまったのだ。しかも、抜け目がなく秘密主義的で情け容赦ない団体が科学者たちをターゲットにし、科学者が言ったり書いたりすることに食ってかかろうと待ち構えている。これがクライメイトゲート事件の真相である。一方、当事者だった科学者たちは自身のプロとしての評価が世界中のメディアにおいて不当に傷つけられるのを目撃した。メディアの猛攻撃と数々の死の脅迫の後、気候研究ユニット主任のフィル・ジョーンズ博士は自殺の瀬戸際にまで追い詰められた。

気候科学の普及を押さえ込む動きが進行中だ。昨年サウスダコタの議会では「サウスダコタの公立校で地球温暖化に関するバランスのとれた教育を行う」ことを求める決議案が採択された。これと同じような決議によって、すでに幾つかの州では進化論と共に天地創造説を教えることを義務づけている。決議草案では、気候は「様々な気候学的、気象学的、占星学的、熱学的、宇宙論的、生態学的な力学」に影響されると記されていた。「占星学的」および「熱学的」な影響を取り入れるとは、情けないほどお粗末な科学の理解である。

昨年の2月、ユタ州下院議会は気候科学を却下する決議案を採択した。この決議の支持者の1人は「環境論者たちは、アメリカの生活様式を破壊し、強制的な不妊手術と中絶によって世界の人口をコントロールしようとする巨大な陰謀の一部なのです」と語った。今年1月、Scientific Education and Academic Freedom Act(科学教育と学問の自由に関する州法)と呼ばれる法案がオクラホマ州議会に提出された。この法案は進化論、生命の起源に関する化学、地球温暖化を含む理論に教師が疑問を呈することを義務づけるものだ。

文化戦争

アメリカでは現在、地球温暖化に関する信条の違いによりリベラル派と保守派の間に深い溝がある。今では詳細に研究されていることだが、この大きな隔たりが誕生したのは、1990年代中旬から共和党活動家たちが化石燃料の利権団体や保守系シンクタンクと協働し、地球温暖化を扱う科学の受容と「リベラルな」見解をリンクさせることに成功したからだ。

地球温暖化がより広範な文化戦争の戦場となってしまったということは、公然と気候科学を退ける人たちの政治的および社会的見解を見れば一目瞭然である。気候科学を退ける人々のうち、76パーセントは自身を「保守派」と表現しており、「リベラル」と表現する人はわずか3パーセントしかいない(残りの人たちは「中道派」と表現した)。彼らは徹底して再分配政策や貧困対策やビジネス規制緩和政策に反対し、FOXニュースやラッシュ・リンボーのラジオ番組を好む。彼らが重きを置く意見を言う人々(あえて過激な発言をするディスクジョッキーやテレビのデマゴーグ)と同様に、気候問題の否定論者は圧倒的に年齢層が高く、白人男性の保守派が多い。彼らは自らの文化的アイデンティティーが気候変動の潜在的な影響に大いに脅かされていると感じる人々だ。気候変動の議論は表面的には科学に関するものだが、実際には文化的アイデンティティーという根深い感覚に関するものなのだ。だから否定論者たちは議論を受け付けない。そして彼らが歳をとって死んでいくにつれて、やっとその影響力が衰えるだろう。

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クライヴ・ハミルトン氏は『Requiem for a Species: Why we resist the truth about climate change』(種への鎮魂歌 なぜ温暖化の真実を拒絶するのか)(Earthscan社、2010年)の著者である。

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科学者を口封じ:右派ポピュリズムの台頭 by クライヴ・ハミルトン is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

著者

クライヴ・ハミルトン氏はオーストラリア国立大学とチャールズ・スタート大学のジョイントセンターであるCentre for Applied Philosophy and Public Ethics (応用哲学と公共倫理センター)の公共倫理学教授。イェール大学、ケンブリッジ大学、オックスフォード大学で客員講師を務めた経歴がある。ハミルトン教授は幅広いテーマについて発表しているが、著書によって最も知られており、著書の多くはベストセラーとなっている。『Requiem for a Species: Why we resist the truth about climate change(種への鎮魂歌:なぜ温暖化の真実を拒絶するのか)』は2010年、Earthscan社およびAllen & Unwin社から出版された。彼の新作『Earthmasters: The dawn of the age of climate engineering(地球の主たち:気候工学時代の夜明け)』は2013年2月、Yale University PressおよびAllen & Unwin社から出版された。