アジア太平洋地域における衛生の改善に向けて

異常気象が頻発する時代において、衛生の改善をどのように推し進めていくべきか。アジア太平洋地域における衛生の現状と課題、改善に向け日本が果たしうる役割について述べたい。

衛生の現状

図 全世界における劣悪な衛生状況がもたらす経済的損失(Lixil, Water Aid Japan, Oxford Economics, 2016を元に作成)

衛生とは、ある場所から汚染や感染、疾病を取り除く幅広い活動を指す。また、人間の排泄物を安全に処理するための施設やサービスの提供と定義されることもある(WHO, 2016)。国連は、持続可能な開発目標(SDGs)の目標6において、すべての人に十分かつ公平な衛生施設と衛生状態を提供し、2030年までに屋外排泄に終止符を打つというターゲットを設けている。現在も全世界で依然として約24億人が衛生状況の悪い施設を利用しており、その3分の2近くがアジア太平洋地域で暮らしている。全世界で屋外排泄という選択肢しかない人々は、8億9,200万人を数え、アジア太平洋地域は実に6億3,000万人近くを占めている(ESCAP, 2018)。

 

劣悪な衛生は、人間の尊厳を奪い、社会にさまざまな悪影響を及ぼしてきた。

水質汚染などによる死亡:水質汚染による下痢や、不十分な衛生状態を起因とする予防可能な病気により、全世界で毎日1,800人を超える子どもの命が失われている(ESCA, 2018)。

生産時間の喪失:アジア太平洋地域では、廃水の90%近くが適切な処理を受けないまま排出されている。これは深刻な水質悪化を生み出し、人々が良質な水を汲みに行くために、その他の生産活動を減らす要因となっている。

経済的損失:劣悪な衛生状態が生み出す経済的損失は2015年、全世界で2,229憶米ドルに上ったが、アジア太平洋地域はその75%を超える1,723億米ドルと、最も重い負担を強いられている(図)(Lixil, Water Aid Japan and Oxford Economics, 2016)。

アジア太平洋地域では、きれいな水と基礎的な衛生施設に1ドルを投資すれば、平均3.6米ドルの経済的価値をもたらすことを示す研究結果もあり、経済にとっての衛生施設の重要性は明確に証明されている(ESCAP, 2018)。

衛生改善への課題

(1)気候変動
頻発する大雨や洪水、干ばつなど、気候変動による異常気象の発生によって、既存の衛生システムが破たんするリスクも高めている。例えば、洪水が頻発すれば、衛生施設は正常に機能しなくなり、利用困難になる恐れがある。また排泄物の運搬に際し、人々に接触する恐れを増やし、公衆衛生に対するリスクを高めかねない。このような事案に関連した研究は限られており、今後気候変動の衛生への影響に関する明確な数字を推計できるようにする必要がある。

(2)都市化/移住
急速な人口増加と都市化により、多くの人々が整備不十分な居住区や川岸などに暮らしている。こうした地域は水害に見舞われやすく、衛生施設へのアクセスに欠く。アジア太平洋地域の開発途上国では、予測不可能な都市化の影響で増大する水と衛生の需要に対応できていない。

写真1 : バンガロール(インド)での腐敗槽汚泥管理。Photo: Seeing Sanitation Creative Commons BY-NC-ND 2.0

(3)糞尿汚泥管理
下水施設を設けず、さまざまな技術を用いて人間の排泄物を回収し、一次処理を行うシステムをオンサイト衛生システム(OSS)という。これにより貯蔵、処理された排泄物がFS(糞尿汚泥)だ。これまでの衛生計画には、適切な糞尿汚泥管理(FSM)が盛り込まれてこなかったため、トイレ普及率が改善しているにもかかわらず、劣悪な衛生による経済的損失は増大している。写真1のようにFSの不適切な取り扱いは、環境および公衆衛生のリスクにつながる。衛生計画における重要な要素の一つであるFSMを優先的に推し進めることが重要だ。

衛生改善への日本の役割

日本は水と衛生分野における世界最大の支援国であり、国際的な開発機関や銀行と連携しながら、グローバルな衛生課題に向けた本格的な取り組みを行っている(MoFA, Japan, 2019)。例えば、日本の浄化槽は処理能力が高く、他国でも適用できる可能性がある。伝統的な「下肥(しもごえ)」などの処理技術の提供も大きな貢献となるだろう。日本の財政支援と、持続可能な技術的支援は、今後一層の相乗効果が期待される。

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参考資料:  ※全て2019年1月31日時点

・Eawag/Sandec (2016), “SFD Report”, Hanoi, Vietnam,  https://www.eawag.ch/fileadmin/Domain1/Abteilungen/sandec/publikationen/EWM/SFD/SFD_Sandec_Hanoi.pdf
・ESCAP (2018), “Inequality of opportunity in Asia and the pacific: water and sanitation”, https://www.unescap.org/sites/default/files/Water_Sanitation_report_20181122.pdf
・Lixil, Water Aid Japan, Oxford Economics (2016), “The true cost of poor sanitation”, https://www.lixil.com/en/sustainability/pdf/the_true_cost_of_poor_sanitation_e.pdf
・Ministry of Foreign Affairs of Japan (MoFA) (2019), “Water and Sanitation”, https://www.mofa.go.jp/policy/oda/sector/water/action.html
・World Health Organization (WHO) (2016), “Sanitation”,  https://www.who.int/topics/sanitation/en/

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この記事は環境新聞で最初に公表されたものであり、許可を得て転載しています(一部編集しています)。

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