小さな島の大きな食料問題

2012年10月26日 エイリフ ウルシン・リード Center for International Climate and Environmental Research

世界の熱帯地域にある島国の多くでは、輸入食料が人々の食習慣を変え、生活習慣病をもたらしている。その理由の1つが、現代経済への移行により食料の自給が採算を取れないばかりか不必要になったからだ。同時に、グローバリゼーションがもたらしたこの側面は、すでに飢餓を減らしており、気候変動の適応策に必要な一端を担うかもしれない。

「伝統的にベリーズの漁師たちは、漁業と農業を兼業し、概して自給自足できていました。今では、農業を営んでも非常にわずか(な金銭)しか得られず、魚の輸出と観光業が社会を潤している状況です」とCICERO(オスロにある気候環境研究センター)のマリアンヌ・カールソン氏は説明する。

カールソン氏とエリザベス・マクリーン氏(ロードアイランド大学)は、Many h2 Voices(多くの揺るぎない意見)のプログラムの一環として、ベリーズとドミニカ共和国の漁師が気候変動とその影響をどう見ているかについて面接調査を行った。同プログラムは、研究者と組織からなる組織であり、気候変動の複雑性を伝え、島に暮らす人々が知識に基づいた決断を下せるように情報を収集することを目指している。

両氏による調査の結果、漁業と農業をいまだに兼業している漁師はわずか数人で、捕獲した魚のほとんどは輸出されていることが明らかになった。高レベルの砂糖と脂肪を含む、鶏肉や輸入加工食品が、住民の食生活にますます普及している。カールソン氏がインタビューした人々の中には、自分でとった魚をもっと食べたいと話す者もいた。「私が話したある人物は鶏肉にはうんざりしていて、もっとバラエティーに富んだ食事を望んでいました」と彼女は語った。さらに、糖尿病と肥満がベリーズでまん延している点も問題だと話した。

輸入食品への高い依存によって、漁師たちは国際的な食料価格の変動に影響されやすくなり、商業漁業は天候と風の大きな変化に影響されやすくなる。変動しやすい食料価格変化し続ける天候条件は、気候変動の直接的な影響かもしれない。ところが、すべての漁師が気候変動を決定的な脅威と見ているわけではないのだ。

ベリーズの漁師たちは天候条件が変化していることを認めている。しかしカールソン氏によると、彼らは変化には今までも常に対処してきたと語ったという。そして、いずれにせよ多くの者が「天候をコントロールするのは神様だ」と信じている。漁師たちは燃料費の高騰と漁業規制の方が重要だと考えている。気候変動よりもすぐに彼らに影響を及ぼすからだ。

食料の輸入による適応

アイラン・ケルマン氏はCICEROの上級研究フェローとして、小島嶼開発諸国による気候変動の適応策などを調査している。彼の指摘によると、富裕諸国に住む人々と同様に島に暮らす人々も、グローバル化された世界の住人であり、店ではより多くの選択肢や幅の広い品ぞろえを求めているという。

「商業漁業は収入をもたらし、そのおかげで人々は魚以外の食料を買うことができるのです。魚以外の選択肢があるのに、年間を通して毎日、魚を食べたい人などいるでしょうか」とケルマン氏は問いかける。

輸入食品への高い依存によって、漁師たちは国際的な食料価格の変動に影響されやすくなり、商業漁業は天候と風の大きな変化に影響されやすくなる。

彼は、数世紀の間に熱帯地域の多くの島は、気候変動や変わりやすい天候に対し島民が柔軟に対処できるような文化と暮らしを発展させてきたと説明した。生活は厳しくても、島民はほぼ自給自足の生活を送れたのだ。

「飢餓は彼らの生活の一部でしたが、飢きんはまれだったのです」とケルマン氏は語る。

しかし他の社会と同じように、島民の暮らしは変化しつつある。国際貿易や新奇な食料、そして商業漁業が多くの島のコミュニティーで飢餓を減らし、従来どおり自給する必要がなくなった。

さらに、気候変動が現実的に島嶼諸国の自給性を困難にしているのかもしれない。海面レベルが上昇し、嵐がより頻繁にやってくるようになると、海水が地下水や土壌に浸透し、作物を育てるのが難しくなる。海水温度の上昇はサンゴ礁の白化や死滅、魚種資源の変化を引き起こす可能性があるため、漁業で生計を立てるのは今後さらに難しくなるだろう。そのため、離島のコミュニティーにとっては輸入食品が生き残るために不可欠になるかもしれない。

「食料の輸入は気候変動適応策の戦略において大きな要素になるかもしれません」とケルマン氏は語る。

島における肥満

しかし、食料の輸入は新たな問題をもたらす。太平洋諸島フォーラムによると、多くの太平洋の島嶼諸国が生活習慣病のまん延に直面している。生活習慣病の原因の1つが、高レベルの脂肪と砂糖を含む食生活だ。

ラン・マリー・グエン・ベルク氏は2011年、ツバルに6カ月間滞在し、気候変動と、この離島の国に住む人々に与える影響に関する情報収集を行った。結果として、彼女は滞在中に多くの輸入食品を口にした。

「フナフティ島では、食料の80パーセントが輸入されています」と彼女は説明する。

ほとんどの輸入食品は輸送中に腐らない食品、つまり缶詰、米、油などの炭水化物を多く含む食品である。国民への影響は明らかだ。

「国民の体重は増加しました」とベルク氏は言う。

しかし、ツバル国民のおよそ半数はフナフティ島よりも小さい島々で生活しており、今のところ彼らの輸入食品への依存は高くないと説明した。

「小さな島々では人々は魚や地産の作物を食べています。例えばタロイモ、キルトスペルマ(タロイモの仲間)、パンノキの実です。しかし、土壌の浸水性が高いため、海水が土壌に入り込み、こうした作物の耕作が脅かされているのです」

特異ではない

ケルマン氏は、輸入食品への依存という点で小島嶼開発途上諸国が特異なわけではなく、肥満と偏った食生活は世界中の富裕諸国でも深刻な問題だと指摘する。富裕諸国の人々はすでに不健康な食習慣と輸入食品への依存を広く受け入れてしまっているからだ。

島国の国民が自国の開発を管理する機会を持ち、目の前の問題にどう対処するのかを自ら決定することが重要だ。

島国の人々は私たちよりも気候変動に影響されやすい、あるいは私たちよりも伝統的な生活を送っているのだと思い込むべきではない。ケルマン氏によれば、島国の国民が自国の開発を管理する機会を持ち、目の前の問題にどう対処するのかを自ら決定することが重要だ。

「成功への鍵はより広い視点を持つこと、そして食料や水や気候変動だけに注目しないことです。私たちは、島の人々の生活様式や社会の発展過程を含む全体像を見る必要があります」と彼は締めくくった。

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小島嶼開発途上諸国に関する詳細は、本稿の筆者が登場する下記のCICEROの映像をご覧ください。

翻訳:髙﨑文子

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著者

エイリフ ウルシン・リード

Center for International Climate and Environmental Research

エイリフ・ウルシン・リード氏はオスロの気候環境研究センター(CICERO)の情報部門に勤務している。ライターおよびフリーランスのジャーナリストの経歴を持ち、現在Many Strong Voices(多くの揺るぎない意見)のプロジェクトに携わっている。