抗生物質耐性の抑制に土壌細菌が役立つ可能性

現在、世界のすべての地域で、年齢や国に関係なく誰でも影響を受ける可能性のある、健康への深刻な脅威が存在する。世界保健機関(WHO)による最近の報告書によると、抗生物質に対する耐性(感染症の治療に抗生物質を必要とする人々に対して抗生物質が効かなくなるように細菌が変化すること)は未来の予想ではなく、すでに公衆衛生への大きな脅威であることが明らかになった。

「多くの関係者が今すぐ協調措置を講じなければ、世界はポスト抗生物質の時代に向かっていきます。何十年間も治療可能だった、ありふれた感染症や軽度のけがで再び命を落としかねない時代です」と、WHOのケイジ・フクダ保健安全保障担当事務局長補は警告した。「有効な抗生物質は、私たちがより長く健康的な生活を送り、現代医学から恩恵を受けることを可能にする柱石の1つです。感染症の予防対策を改善し、かつ抗生物質の生産や処方や使用の方法を変えるために有意義な行動を起こさなければ、世界の公衆衛生を支えるますます多くの薬剤が失われていき、その影響は壊滅的なものになるでしょう」

Antimicrobial resistance: global report on surveillance(抗菌耐性:調査に関する世界レポート)』と題された報告書は、血流感染(敗血症)、下痢、肺炎、尿路感染および淋病といった、一般的で深刻な疾患の原因となる7種の細菌における抗生物質への耐性に注目した。その結果は大いに懸念すべきもので、特に「最終手段である」抗生物質に対する耐性が世界のすべての地域で実証された。

希望は土の中に

公衆衛生への高まる脅威が拡大している原因は、細菌には抗生物質への耐性を授ける遺伝子を共有する能力があるためだと、専門家らは語る。しかしアメリカのワシントン大学医学部の研究者たちが『ネイチャー』誌に発表した新しい研究によると、土壌に生来的に生息する細菌は抗生物質を撃退する遺伝子を大量に持っているが、そうした遺伝子を共有する可能性は極めて低いことが明らかになった。土壌の細菌から採取されたほとんどの遺伝子は、感染性細菌の抗生物質への耐性を高める態勢にはないことが、研究結果から示唆された。

研究論文の主席著者で、病理学および免疫学の助教授であるゴータム・ダンタス博士によると、研究者らは土壌の細菌から学んだことを役立てて感染性細菌間での遺伝子共有を抑制する方法を特定し、薬剤耐性を持つスーパーバグの拡散速度を落としたいと考えている。

「土壌の細菌は抗生物質に対抗する戦略を持っており、私たちはその戦略を解明し始めたばかりです」とダンタス博士は語った。「そうした戦略を可能にする遺伝子を感染性細菌に共有させないようにしなければなりません。そうしなければ、薬剤が効かない感染症の問題は、さらに悪化する可能性があります」

世界初の有効な抗生物質であるペニシリンは、ペニシリウムという土壌真菌から作られた。

現在、病気を治療するために使われている抗生物質のほとんどは、もともと土壌の微生物が作ったものだ。微生物は資源と生存競争のための武器として、抗生物質を利用するのだ。世界初の有効な抗生物質であるペニシリンは、ペニシリウムという土壌真菌から作られた。

しかし、ペニシリンや、後に開発されたその他の抗生物質が広く使用されるようになったため、細菌は抗生物質の効力を遮断したり、免れたり、対抗したりする戦略を進化させた。アメリカでは現在、抗生物質が効かない病気によって年間医療費は200億ドル増え、病院での治療日数はさらに800万日、増加している。

抗生物質への耐性を持つ3000の遺伝子

『Bacterial phylogeny structures soil resistomes across habitats(細菌の系統発生学的特性が、さまざまな生息域にわたる土壌のレジストームを形作っている)』と題された新しい研究で、科学者たちはミネソタ州およびミシガン州の農地や牧草地から18の土壌サンプルを採取し、細菌のDNAを分析した。研究者たちは自ら開発を支援した技術を使って、土壌から採取した細菌のDNAの小さな断片を取り出し、抗生物質耐性を授ける遺伝子の有無を調べた。
別の科学者たちは、細菌が遺伝子を共有することを可能にする遺伝情報を特定した。ある遺伝子が共有されるには、このような「遺伝子の移動に関連した要素」に近接していなければならない。研究者たちが土壌細菌の中で特定した約3000の抗生物質耐性を持つ遺伝子は典型的に、そのような要素に近接していなかった。
また、土壌の中の抗生物質耐性を持つ遺伝子は、特定の細菌と強い関連があることが明らかになり、種間での耐性遺伝子の共有はほとんどないことが示唆された。しかし、感染性細菌の場合、より頻繁に遺伝子共有が行われるので、関連する細菌間で大きく異なる抗生物質耐性の構成が生じる。
「抗生物質耐性を持つ遺伝子の共有を促進する主要な要因の1つは、新しい抗生物質への露出だと私たちは推測しています」とダンタス博士は語った。「土壌の細菌が新しい抗生物質を生み出すには何千年もの時間が必要であり、そのような環境にいる細菌は頻繁に脅威に遭遇しませんが、一方、病気の原因となる細菌は、私たちがさまざまな抗生物質を使ってたびたび治療するため、かなり頻繁に脅威に接していることになります」
ダンタス博士と共同研究者たちは、病院や自然環境や人間の消化管内の細菌群での薬剤耐性の拡散に影響を及ぼす要因を研究し続けている。
「土壌の細菌が持つ抗生物質耐性の遺伝子が突然、病原菌に入り込みそうにはないことが分かったのは朗報でした」とダンタス博士は語った。「しかし私たちはできる限り、全ての対策を講じたいと思っています。例えば病院での感染症の治療方法を変えたり、細菌が増殖する環境の管理方法を変更したりするなど、遺伝子の共有を阻止するために、あらゆる手段を講じるべきです」

翻訳:髙﨑文子

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Soil Bacteria Offer Clues to Curbing Antibiotic Resistance by キャロル・スミス is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 4.0 International License.

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著者

キャロル・スミスは環境保護に強い関心を寄せるジャーナリスト。グローバル規模の問題に公平かつ持続可能なソリューションを探るうえでより多くの人たちに参加してもらうには、入手しやすい方法で前向きに情報を示すことがカギになると考えている。カナダ、モントリオール出身のキャロルは東京在住中の2008年に国連大学メディアセンターの一員となり、現在はカナダのバンクーバーから引き続き同センターの業務に協力している。

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