近年、地球環境問題に対する認識が急激な高まりを見せている中、最近公開された環境ドキュメンタリー映画「ザ・グレート・スクイーズ」は、我々が直面する様々な課題を実に上手くまとめ上げている。
この作品の本編は65分で、主なテーマは気候変動、水へのアクセス、石油依存、地球生態系の健全性の4分野。
これらの複雑な問題を議論するために、著名な専門家を含む15人が出演し、「現在の経済システムが及ぼす影響を抑制する必要性」について頻繁に触れている。
映画製作者は視聴者に、今後起こりうる「最悪の事態」のシナリオを提示しているが、その効果のほどには圧倒される。この作品は、米国中心主義的な面もあり、多くの解決策が示されているわけではないが、数々の重要課題やそれらの相互関係を上手くまとめている点においては価値がある。
環境問題に詳しいけれど、より具体的な側面やドキュメンタリーの中で紹介されている理論などについてより知識を深めたい人にとって参考になるだろう。
見どころは、アース・ポリシー研究所の創設者である経済学者のレスター・ブラウン氏、著書「ピークオイル」で有名で、ポスト・カーボン研究所のシニアフェローであるリチャード・ハインバーグ氏、そして評論家であり作家のハワード・カンスラー氏の重要なメッセージや協力の呼びかけだ。
化石燃料中毒の暗黒時代
この作品は、「我々は新地質時代を生きている」と断言する冷静な声のナレーションで幕を開ける。この「人間中心的な」時代は、地球の気候と自然体系を変化させた人間活動により定義される。
著名な米国人生物学者、エドワード・オズボーン・ウィルソンは、「我々の文明は旧石器時代の感情と、神業のような技術の奇妙な融合である」と述べている。また、「人類は自らの発展のために、道具の開発に多大な労力を費やしてきた」という彼の意見は、作品の中で他の専門家たちも繰り返し言及している。
ブレーク・スルー研究所・所長のマイケル・シェレンバーガー氏によると、技術革新が我々の経済成長の80%を後押ししているという。しかし、リビング・プラネット・リポートは、人間活動が環境に与える負荷が、地球の再生能力の25%も上回っていると報告している。
このように、我々は化石燃料エネルギーに依存した、極めて機械的な社会に暮らしている。かつて人間は、太陽光や動物、人力を駆使して何週間もかかってエネルギーを供給していたが、今では1ガロンのガスで容易に事が足りるようになった。
そして我々は、一層の成長を目指しフィードバックループの真っただ中にいる。化石燃料エネルギーを消費し、より多くの活動に取り組み、成長し、エネルギー消費を増加させ、そして更なる成長を遂げるという構造だ。
「これが可能なのもある地点まで、つまり、安価な化石燃料が底をつくまでだ。」とハインバーグ氏は述べている。
世界的水不足
この「発展と消費」に対する人類の執着は、気候変動だけでなく、世界的な淡水不足も引き起こしている。
世界食糧計画(WFP)の事務局長であるジョゼット・シーラン氏は、気候変動問題の焦点は「水」にあるとしている。WFPが村々で植樹を行い、堤防や運河の建設などの「現実的解決法」に力を入れているのは、将来、水や食糧の持続可能な供給を確保するためだと同氏は語る。
一方、途上国も自国の水利用により注意を払う必要がある。また、エタノール生産に利用するとうもろこし畑の灌漑に、古い帯水層を利用するなどの、非効率的な手法を見直す必要もあるだろう。
「水のフットプリントはどれくらいになるだろう?」 そう問いかけるのは、ジャーナリストで、淡水に関する問題や解決法について報告しているNPO団体・サークル・オブ・ブルーの所長兼設立者であるJ・カール・ガンター氏だ。
河川の干上がりや、年々縮小する氷河の融水に依存した灌漑地などというものは、一般人にとって馴染みがないものだ。しかし、レスター・ブラウン氏は我々に次のように警告している。
「世界の食糧経済は一つのシステムしか存在しない。全世界はすべてつながっているのだ。」事実、昨年の夏に、全世界規模で食糧価格が高騰したことはまだ我々の記憶に新しい。
気候 vs 生態系
「地球温暖化」の事実を未だに拒否し続ける人々に向けて、ある気象学者は「地球温暖化は、暑さや干ばつだけでなく、エルサレムに雪が降るなどの奇妙な現象をもたらすだろう。」と分かりやすく説明してみせた。
北極とアルプスリサーチ研究所・所長のジム・ホワイト氏は、変化は急速に起こっており、海面もかつてないほどに上昇していると警告する。2007年に巨大な北極海氷が崩壊したが、それはその後も北極に危険な傾向をもたらし続けている。
「気候変動において、スピードは非常に危険な要因だ」と同氏は警鐘を鳴らす。
気候変動が起これば、降水パターンだけでなく、海面レベルにも影響を及ぼす。残念ながら、すでに失われてしまった動植物も数多い。
ミレニアム生態系評価の結果、過去50年間の人間活動が歴史上もっとも環境に負荷を与えたことがわかっている。過去数百年間で、生物の絶滅率を1000%も高めてしまった。
伝説的冒険家のジャック・クストーの孫にあたる自然保護論者のアレクサンドラ・クストーは、海の大魚の97%はすでに絶滅したと述べている。
「人間が全部食べ尽くしてしまった」のだ。
惨事を回避するには
そして、ドキュメンタリーでは、ちょうど視聴者が山積する課題にパニックを起こしそうになる頃、最悪の事態を回避するため、我々に何ができるかという議論に入る。
専門家たちは、「成長をベースとした経済から脱却する必要性」に合意する。いわゆる「グリーン・ニュー・ディール政策」が近い将来実行されるということだろうか?我々が今時点で、この政策を把握しているかどうかは別として、この政策が反響を呼ぶことは確かだ。(今後Our World 2.0に関連記事を掲載予定。)
ハインバーグ氏が指摘するように、よりクリーンで環境に配慮した将来を築くための「技術が存在する」ことはわかっている。問題は、これをどうやって人々に気づかせるかにある。
「経済は自然の一部で、その逆ではない。したがって、人間は自然の法則を学ばなければならない。」
この考え方がトップダウン、あるいは世論から提唱されても、それはどちらでもよい。「今こそが変化の時である。」というのが「ザ・グレート・スクイーズ」のメッセージであり、環境問題の様々な課題を目の当たりにした視聴者たちも、このメッセージに共感するだろう。今、変化を起こさなければ、近代文明の将来は危うくなるのだ。
最後に、「消費者は、ペプシを飲みスナック菓子を食べたいと思う自らの欲求のみに、責任義務を負っている。しかし、それだけでは文明を救うことはできない。」とカンスラー氏は語っている。
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