生物多様性条約締結国会議(COP10)が名古屋で10月11日から開催されている。国連大学はこの会議への貢献の一環として生物多様性を紹介する映像祭を開催することとなった。
映像祭は2010年10月17日名古屋の熱田神宮公園中央ステージで国際連合大学が製作した作品やその他の団体が人間と自然との関わりを描いた国内外の映像を集めて開催された。(上映された8作品は以下のYou Tubeプレイリストをクリックしてご覧ください)
COP10開催の準備の間、私たちは生物多様性が危機にさらされていることを2つの点からますます実感するようになった。ひとつは食物、繊維、土壌形成、水の循環に欠かせない生態系の破壊、もうひとつは動物、植物、魚類の絶滅である。第4次地球環境概況によると、通常起こりうる分の100倍の種が絶滅していっているという。
生物多様性への認知度は高まっているとはいえ、より多くの具体的な行動が必要である。最も深刻な問題は、現在の発展・成長のパラダイムの中で生活する私たちが生態系サービスの価値を測る基本的能力を失ってしまったことだ。現代の文明を維持し続けるには生態系サービスが不可欠であるという事実からあまりにも距離を置いているからだ。
世界各地の先住民が伝統的知恵と知識をいかしながら環境と和を保って生活する様子を知れば、現代文明の問題点がくっきりと浮かび上がる。例えばボルネオのダヤック族は、森の一部を禁断の森(タナ・オレン)とし、伐採や行き過ぎた開発を禁じている。
オーストラリアの先住民には、自らの土地を「ブブ」と呼ぶ者たちがいる。そこは「先祖の魂が岩と化し、木陰となり日々の糧となる木々や動物となって」いる場所だ。人はそのような魂の繋がりを感じられる土地を破壊することなど出来ないものだ。
現代の生活様式は自然界と人を引き離し、その結果人々は自分がくだす選択がどんな影響をもたらすかということに配慮しなくなってきている。また人々が環境を破壊する経済システムの犠牲になることもある。タジキスタンのパミール山脈の映像がこの状況を示している。ソ連崩壊後、人々は小さな潅木を燃料とするために集めざるを得ず、それが生態系を傷める原因となっているのだ。地元の科学者や伝統的な知識が助けとなれば、この地域の再生は可能かもしれない。
大半を占める現代の生活様式が生物多様性をむしばんでいると認識し別の道を選ぶ者もいる。その良い例が250種の米と野菜を育てる富士山麓のエコビレッジである。
今回の映像祭のほかの作品で焦点となっている「里山」、「里海」の概念について考えてみよう。前者は人の手で管理されたランドスケープをさし、小さな集落のそばにある二次林や二次草地で豊かな生物多様性が見られる場である。後者についてはそれほど知られていないが、海やその資源を大切にする海沿いの生活様式をさす。北日本の舳倉(へぐら)島の海女がその具体例のひとつだ。彼女らは集団生活を営み、持続可能な方法で海洋資源を管理している。
環境省との提携により、UNUは国際SATOYAMAイニシアティブを導入した。現在では世界中に里山に似たランドスケープが数多く存在していることが知られている。その一例はインド南部ケララ州ワヤナド地区で、そこでは地元のコミュニティが自然と調和し、多種多様な植物が木々と共に育つホームガーデンから日々の糧を得ている。
これらの映像から学べることは多い。伝統的な手法は、自然から資源を収穫し生物多様性を維持するには保全と節度が大切であることを教えてくれる。私たちはそういった手法を尊重していくべきだ。
政策、研究、企業のリーダーたちも耳を傾け始めた。イオン環境財団は2010年に設立20周年を迎える記念として生物多様性みどり賞を創設した。生物多様性に関する様々な分野で顕著に貢献した個人を顕彰するものだ。国連大学のコンラッド・オスターヴァルダー学長は審査委員の1人である。
カナダの環境保護主義者ジャン・ルミール氏、インドネシア元人口・環境大臣エミル・サリム博士(インドネシア)、グレッチェン・C・デイリー博士(アメリカ)が初代みどり賞の受賞者となった。
スタンフォード大学で生物科学の教授を務めるデイリー氏は自然の生態系から得られる資源やプロセス(「生態系サービス」と呼ばれる)に価値を見出すという斬新な発想で国際的に知られている。博士のインタビューはこちらをご覧ください。
3名の受賞者は10月27日COP10での表彰式で受賞される。
映像祭で上映された8作品は以下のYouTubeカスタムプレイリストで閲覧可能だ。プレイリスト全体はこちらから見ることができる。サイドボタンでスクロールダウンして作品タイトルをご確認ください。
ボルネオ島ダヤック族の禁断の森
(2009年9分05秒)
ボルネオ島の森の奥で、セトゥラン村のダヤック族が献身的に木々の見張りを務めている。村の伝統的な習わしである「禁断の森(タナ・オレン)」のおかげで、彼らは強まる森林業からの圧力に耐えてくることができた。急速な開発が進む中、この村は持続可能で森に優しい生活を懸命に守ろうとしている。
先祖の魂と共に歩む
(2009年6分40秒)
ククニュンガルに住むマリリン・ウォレスはオーストラリア北東部の熱帯地方で「祖先の慣習」に倣って生活している。彼女は季節のサイクルの変化に気付いており、いかに気候変動がこの国と伝統的理解を変化させつつあるか説明する。
タジキスタン パミール高原のエネルギー危機
(2009年6分40秒)
「世界の屋根」と呼ばれる高原に住む人々が燃料不足に悩んでいる。
エコビレッジのライフスタイルを世界へ
(2010年5分52秒)
日本の有名なあの山のふもとには250種もの有機作物を育てる持続可能なコミュニティがある。
豊穣の里山
(2008年6分33秒)
農地、二次林、人工的な湿原と草地。日本ではこのような生態系と人の住居を含めた地域をさす言葉がある。「里山」だ。
磯笛の聞こえる海
(2009年12分)
日本の伝説的な存在、海女は持続可能な漁業を何百年にも渡って行ってきた。しかし彼女たちは現在、乱獲と気候変動により予測不能な未来に直面している。
樹と共に生きる
(2009年10分36秒)
里山を維持するために行われていることのひとつに森林管理がある。この作品では森林と山々の生物多様性を守るため、伝統的な知識と科学文明の両方を駆使する2人の起業家を紹介する。大野長一郎氏は父親から受けついた炭焼き工場を経営し、茶道で使われる伝統的な茶炭にするためのクヌギの林を管理している。速水林業代表、速水亨氏は森林の健康を守るため、数種類の樹木を並べて植えている。彼らの生活やビジネスは里山の仕事の経済的可能性をも示している。
大地の恵み 知恵の継承
(2010年14分10秒)
インド西ガーツ地方のワヤナド地区はインド西岸に位置する山脈にある。西ガーツ地方は生物多様性のホットスポットで、生物種が多様で豊かである一方、それらが急速に減ってきているのが特徴である。
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この映像祭は国際連合大学と日本の環境省の協力によって提供されるものである。
この映像リスト全体または特定の作品を是非他の人々とも共有していただければと願う。上記のプレイリストをクリックしてください。また、詳細についてはOur World 2.0ウェブサイトまでご連絡ください。
翻訳:石原明子
生物多様性へのいざない by ブランド かおりand 西倉 めぐみ is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.