キャリアの底辺から抜け出せないアフリカの労働者たち

アフリカで良質な雇用とディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を創出するという問題が浮上すると、政策立案者と開発のパートナー達はしばしば雇用の正規化に重点を置く。数十年間、非正規をめぐる言説は、いかにして非正規労働者を正規の仕事に移行させるかに焦点を絞ってきたのである。私たちはこれまで、アフリカの労働者が従事する仕事の多様性を適切に考慮せずに、正規雇用と非正規雇用の仕事を二者択一の枠組みの中で考えてきた。しかし実証的な調査によって、アフリカ経済全体で雇用の種類と階層が微妙に異なることが明らかになった。

新刊書『キャリアのはしご:開発途上国における非正規労働と生活の変革(原題:The Job Ladder: Transforming Informal Work and Livelihoods in Developing Countries)』では、低所得および中所得国の幅広い時系列データを用いて、複数の階層から成る労働市場の枠組みを検証している。この枠組みでは、すべての仕事が正規自営業、正規雇用、上層非正規自営業、下層非正規自営業、上層非正規雇用、下層非正規雇用という6つの就業状態のいずれかに分類される。こうした労働者を「キャリアのはしご」に配置する微妙な差異を反映したモデルにより、私たちは就業状態の分布とそれに伴う収入、および両者の経時的な移行をより良く理解することができる。

キャリアの底辺から抜け出せない

キャリアのはしごの底辺に位置する下層非正規労働者および下層非正規自営業に従事する労働者は、一部のアフリカの国で労働人口の70%を占めている。はしごの底辺での仕事では、低所得であるだけでなく、低保障であったり、権利や保護が乏しかったりする。これほど多数の人が極めて低い収入で働くことから抜け出せずにいるのであれば、アフリカの包摂的成長と繁栄の見通しはどうなるのだろうか。

さらに深刻なことに、私たちの研究は、アフリカの非正規自営業に従事する労働者がキャリアのはしごを昇ることは滅多にないと明らかにした。彼らは底辺から抜け出せないのだ。これはアフリカの成長見通しを妨げ、SDGs達成の障壁となる可能性がある。

問題は、アフリカ経済において労働者の需要を高め、多数の下層非正規労働者がキャリアのはしごを昇るようへと移行するには何ができるか、ということだ。これには、研究および政策立案者がこの問題に注目し、各国政府ならびに国際開発機関が行動を起こすことが求められる。多数の非正規労働者のために良質な雇用を創出する能力は、アフリカ大陸の成長と開発に変革をもたらす契機となるだろう。

 

国連大学世界開発経済研究所(UNU-WIDER)が行った研究は、アフリカの非正規自営業に従事する非正規労働者がキャリアのはしごを昇ることは稀であると明らかにしている。これはアフリカの成長見通しを妨げ、SDGs達成の障壁となる可能性がある。

 

アフリカ諸国に何ができるのか

第1に、アフリカ諸国の政策立案者は、グリーンエネルギーへの移行に不可欠な要素を含む、自国の膨大な天然資源に対する付加価値を高めることに重点を置くことができる。そのためには、すべての原料カテゴリー(バイオマス、燃料、鉱石など)にわたる、特に製造部門の企業とバリュー・チェーンを発展させ、それらに投資する必要がある。そうすることで、良質な雇用を創出することが可能になる。

現在、アフリカからの輸出品の65%は未加工の原材料である。輸出に先立って燃料や鉱石、バイオマスに価値を付加することは、貿易と外貨獲得を増大させ、莫大な労働需要を生みだす。これを実現するためには、アフリカ諸国はこの部門のバリュー・チェーンを発展させる民間プロジェクトへの支援と投資が肝要となる。

第2に、多くのアフリカ経済は生産性が低い傾向にあるサービス部門、とりわけ非営利サービスを中心としている。生産性の低い部門は、相対的に低賃金の雇用を生みだすことで知られている。生産性の高い部門を増やすには、企業投資を促進し、アフリカ大陸自由貿易圏の恩恵を利用した政策が不可欠である。的を絞った貿易金融(輸出前金融や、輸出品の付加価値を高める企業向けの控除など)、貿易物流とインフラの改善、商品とサービスの移動を阻害する官僚的要素の改善が、失われる貿易額を軽減するために極めて重要である。

アフリカの政策立案者にとって、キャリアのはしごの最上位層の雇用をより多く生み出す能力のある下位部門や企業を特定することも重要である。そうすれば、これらの部門を拡張し、下層および上層の非正規労働者がキャリアのはしごを昇る機会を創出するような政策設計が可能になる。

この点と関連するのが、職業訓練の必要性である。このような部門で働く機会を得るためには、労働者が必要とする技能や訓練を理解することが不可欠である。そうすることで、まだ技能を持たず訓練を受けていないかもしれない多くのはしごの底辺にいる人々が、創出された雇用に就くことができるようになる。

最後に、アフリカでは都市化が急速に進んでいる(アフリカ大陸には世界で最も急速に成長する都市の3分の2超がある)ものの、アフリカの都市は包摂的で強靭な成長の動力源としての潜在能力を十分に発揮していない。生産性の高い雇用を創出し、経済的変革を進めるために都市化を利用する新たな都市アジェンダが必要である。そのためには、住宅構造、公共サービス、事業所と家庭をつなぐ交通機関といったインフラへの投資が必要である。これを実現するには、市当局が民間セクターに対し大胆な投資案件を提示することが必要だろう。

 

実りある未来

研究はキャリアのはしごを昇ることが困難であると示しており、実際、アフリカでは多くの労働者が底辺から脱け出せずにいるが、この現象がこれからも続く必要はない。労働市場への適切な政策介入、より多くの雇用を創出できる部門への改革と投資、そして都市部のインフラと公共サービスへの投資によって、この傾向に逆行することができる。機会を創出し、労働者の技能を向上させ、キャリアのはしごをさらに昇ることができるようにすることが政策の優先事項であるべきである。アフリカの労働者が自ら高みを目指す力を付ける方法をさらに明らかにするには、より多くの研究が必要である。

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この記事は最初にUNU-WIDERのウェブサイトに掲載されたものです。UNU-WIDERウェブサイトに掲載された記事はこちらからご覧ください。

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