新型コロナウイルスと気候変動への同時対応で移住者保護を向上へ

本稿は、移住、気候変動、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の相関性と深刻な課題を探究する国連大学移住ネットワーク・シリーズの記事です。本シリーズの記事を通じてこれらのつながりを地域および地球レベルで検証し、移住者への影響を明らかにしながら、エビデンスに基づく洞察を国連加盟国や政府、政策立案者に提供します。

•••

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的流行)により、地球規模で健康が脅かされたときの世界像が浮き彫りになっている。今までの私たちの生活は止まってしまった。しかし、このパンデミックを乗り越えたとしても、気候変動による健康とウェルビーイング(身体的、精神的、社会的に良好な状態であること)への影響は続くだろう。2020年12月に発表されたランセット・カウントダウンの2020年報告書では、気候変動が健康にもたらしている影響が世界規模で緊急かつ甚大で深刻なものになっている、と報告している。同報告書は、さまざまな研究分野から120人の科学者を結集し、43の世界的指標を取り上げて、すべての国への影響がある中で、一部の人々(移住者など)が他の人々よりも大きな影響を受けることを明らかにしている。

私は初めからランセット・カウントダウンに参加し、現在は地球温暖化と人間の移住について重点的に取り組むサブワーキンググループで研究に従事している。現在の人口データに基づき、世界の平均海水面が1メートル上昇すると、1億4,500万人が洪水氾濫のリスクにさらされることになる、と私たちは予測している。海水面が5メートル上昇する場合、リスクにさらされる人の数は5億6,500万人にまで跳ね上がる。

今行動を起こさなければ、生計と生活をさらに破壊され、弱い立場に置かれてしまう人々がますます増えるのを目にすることになるだろう。私たちには1度に1つの危機に対応している余裕はない。気候変動による健康被害はCOVID-19危機の影響を悪化させている。パンデミックと同時に、人々は異常気象現象と気候変動の影響も受け、移動を強いられている。さらに、気候変動とCOVID-19はいずれも国内および国家間の既存の社会的不平等を深刻化させている。気候行動を犠牲にしてCOVID-19パンデミックのみに焦点を絞るわけにはいかないのである。

COVID-19と気候変動対策を同時に世界が協調して進めると、公衆衛生の改善、より持続可能な経済、そして環境保護を実現できるだろう。COVID-19からの世界的な回復と気候変動対策との足並みが揃わなければ、私たちはパリ協定と持続可能な開発目標(SDGs)で定められた目標を達成することができないだろう。気候変動対策を講じることで、現在と将来において、弱い立場に置かれた移住者の健康とウェルビーイングを守る機会がもたらされる。

パンデミック下の移住者

国内での避難であれ、国外への避難であれ、移住者がパンデミックによりどのような影響を受けたのか、正確なことはまだわからない。しかし、私たちが最近発表した論文の中で、分かっていることを概説した。自然資源に基づく生計手段(漁業や農業など)では暮らしを維持することが不可能となり、都市に職を求めた人々が、到着すると同時に多くの場合スラムに定住することが分かっている。こうしたインフォーマルな(法律や都市計画に基づかない)居住地では、移住者は脆弱な医療システムに苦しみ、水道や衛生設備などの基本的なインフラを欠いた状態で、過密な空間に居住することが多い。

世界全体では、グローバルサウスの都市人口約30~50パーセントを含め、およそ10億人がスラムで暮らしている。そこは多数の国内避難民が辿りつく場所でもある。こうした地域にロックダウンを課すことで、何百万もの人々が生計の機会も食料もないまま取り残されることになる。また、移住者は時として、他の市民が受けられる支援サービスを利用する権利がなく、紛争で心に傷を負った難民は公的機関を信用したり、体調が悪くなっても公的機関に助けを求めたりしないことも分かっている。

デマ情報によって、COVID-19に対する恐怖が難民の間にも広がっている。例えば、バングラデシュのコックスバザールにある世界最大の難民キャンプで暮らすあるロヒンギャ難民は、「もし感染したら、当局はその人を殺さなければなりません。その人が生きていれば、ウイルスが他の人の体に感染するからです」と話している。このように、ロヒンギャ難民の間に存在する恐怖とスティグマ(社会的な汚名)を背景に、人々は治療を求めようとせず、感染者は治療を拒否される結果になっている。

各国がCOVID-19のロックダウンを実施した時、バングラデシュのこの店主のように、多くのインフォーマルワーカーが社会保障制度を受けられないまま取り残された。Photo: © Sonja Ayeb-Karlsson / UNU.

私たちはここからどこに向かうのか?

2020年はCOVID-19パンデミックの年として永遠に記憶されるだろう。この厳しい教訓だけでなく、今回のパンデミックが新しい始まりを意味していることも、覚えておくことが重要である。移住者はパンデミックの間もそれ以降も保護されなければならない。そうした取り組みにおいて私たちは団結し、特に弱い立場に置かれた人々が見放されないようにしなければならない。人々に避難を強いる人権侵害だけでなく、移住者に付いて回る人権侵害、すなわち、基本的な医療サービス・水・食料・衛生設備の提供の拒否であれ、難民申請者への敵対的な扱いや排除の正当化の高まりであれ、これらにもさらなる注意を払う必要がある。

人々の健康と安全が保障されない状況に陥いらないようにすることが、これまでになく重要である。今回のパンデミックが教えてくれたことが1つあるとすれば、それは1人のウェルビーイングが危険にさらされると、私たち全員がリスクにさらされるということである。長年にわたり出された人権と持続可能な生活の枠組みによる勧告に従っていれば、この恐ろしいウイルスの蔓延を抑えられただろう。私たちが、「より良い復興(build back better)」と移住者のためのより持続可能な未来の創出を確保すれば、全員に恩恵をもたらすものとなるのである!

著者

ソニア・アイエブ・カールソンは国連大学環境・人間の安全保障研究所(UNU-EHS)のシニアリサーチャーで、環境破壊や気候変動に関連した移動の決断、移住、健康、ウェルビーイングについて研究している。サセックス大学でグローバルヘルスの講師としても活動。