COP26を大失敗で終わらせないために

2021年にスコットランドのグラスゴーで開催される第26回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP26)を前にアメリカが国際舞台に再び登場したことは、COP26に弾みをつける上で極めて重要な役割を果たすと考えられた。COP26への準備段階でアメリカのジョン・ケリー気候変動担当大統領特使が4月に開催した気候変動会議は、気候変動への取り組みにおける画期的なイベントだと大々的に宣伝されたが、期待外れだったという見方が多い。

確かに、ケリー氏の仲介によって中国は協力して気候変動に迅速に対応することに合意し、米国は二酸化炭素排出量を2030年までに50%超削減するという野心的な目標を発表した。欧州も2050年までにカーボンニュートラルを目指すとの大胆な発表を行う一方、ブラジル、ロシア、インドなどの国々も、よりグリーンな経済への移行に関する前向きな声明を出した。こうしたコミットメントが実行されれば、その多くは気候変動への取り組みに変革をもたらすだろう。

しかし、「実行されれば」という言葉の中に問題が潜んでいる。米国では、今後また新たな大統領が就任した場合、何の制限もなく簡単に方針を逆転できるため、米国の約束は信憑性に欠ける。同様に、EUが目標を達成できなかった場合の説明責任はない。さらに、インドなどの国々は、グリーン経済への移行は米国などから相当な支援が得られるかどうかによる、と明言している。気候変動にバイデン政権が関わることによっていくらかの楽観論が生まれているが、COP26を前にして現実と向き合う実必要がある。

COP26の成果次第で、締約国を結集させ、気候変動に迅速かつ効果的に対処するための重要な手段となる可能性はあるが、それは私たちの現状を相互に理解し、説明責任を果たしながら行動する意思がある場合に限られる。グラスゴーでのCOP26は、実体が伴わなければ、企業がグリーンエネルギーへの移行を公に誓約し、IT企業が最新の炭素削減アプリを誇示し、各国政府が達成できるかどうかわからないもう一つの野心的な国家目標を発表するありきたりのイベントで終わる可能性がある。おそらく最悪の結果は、前進のように見えて、実際は次の会議までのプレッシャーを取り除くだけのものになった場合だろう。COP26を大失敗に終わらせないために、私たちは気候変動に関する4つの事実を認識して行動する必要がある。

1. 気温はすでに1.5度を超えている

私たちは数十年にわたって地球温暖化を認識しており、気温の上昇を産業革命前の水準より1.5℃未満に維持するという2015年の合意は、行動を活性化するために有益な政治的手段である。それ以降、科学界は私たちがその基準値にどんどん近づいていることを警告しており、2020年のある報告書は、早ければ2025年にも1.5度を超える可能性があると指摘している。最近のシナリオは地球の気温上昇が1.5度をはるかに超えようとしていることを示し、排出量削減の必要性を改めて強調している。世界の排出量が魔法のように減少しても、1.5度の基準値を超えるだろう。私たちはタイタニック号に乗っており、目の前にある氷山を見ることができる。たとえ船を大きく減速させても乗っている船が軽快なスピードボートに変わることはない。

COP26の主催者たちは、より野心的な行動を求める重要なきっかけとして1.5度の目標を維持したいかもしれないが、その目標を達成できない現実を認識してもやる気を失わないようにすべきである。実際、2.0度または2.5度も上昇したときに何が起こるかを研究し、それに備えるためにもっと時間をかける必要がある。もし、2.0℃または2.5℃まで気温が上昇してしまうと、4億5千万人が同時に熱波の影響を受け、干ばつにより3億人が水不足に陥り、海洋生態系全体が崩壊してしまう。要するに、1.5度を上限ではなく、下限としてシナリオマッピングを始めるべきだ。

2. 気候変動は小島嶼国や貧困国だけの問題ではない

モルディブ、ナウル、キリバスなどの小島嶼国は、気候災害の最前線に立たされている。そのため、当然のことながら、こうした国々のの窮状は、生存に関わる気候危機の議論の中心であった。そして、サヘル地域の脆弱な環境で気温の上昇が加速し、気候変動がより貧しい国々に不均衡な影響を及ぼしていることも示されている。しかし、国の大小、豊かさや貧しさを問わず、あらゆる国々が都市の沈下、海岸線の浸食、気候に起因するその他のリスクの影響を受けやすい。

最近の研究によると、気候変動がこのまま続けば、中国から米国に至る各国経済は国内総生産(GDP)の最大4分の1を失う可能性があるという。大都市や国々ではすでに著しい影響が出ている。海面上昇や首都の沈下に直面しているインドネシアは、首都ジャカルタを2,000マイル離れた高台に移転することを決定した(340億米ドル規模のこのイニシアチブに関して、環境保護活動家らはボルネオ島の熱帯雨林がさらに失われる可能性があると警鐘を鳴らしている)。カリフォルニア州の山火事の深刻度が5倍に増え、米国の損害総額は2018年だけで1,500億米ドルに上った。2020年の壊滅的な山火事シーズン後はこの数字が大幅に上昇することになる。10億匹の動物の命が失われたオーストラリアの森林火災から北極圏でのロシアの大規模な石油流出(永久凍土の融解が原因)まで、2020年という年は誰も地球温暖化の代償から免れることはできないとの注意喚起と認識すべきである。

COP26は、気候外交に特化した事務局を設置し、影響力の強い国内・外交政策を確立できる政府の最高レベルで気候変動問題に取り組み、気候変動を国家安全保障上の優先事項に指定したバイデン政権のリーダーシップに各国が続く機会として捉えるべきである。2050年までに炭素排出量をゼロにすることは、可能なだけでなく、大惨事を回避するために必要な最低限の絶対条件である。パンデミック(世界的流行)が続く中、COP26は、公衆衛生を気候変動への適応にさらにうまく組み込み、パンデミックへの備えを強化し、感染症の蔓延を防ぎ、栄養摂取状況を改善するためのプラットフォームとしての役割も果たすべきである。今後のさまざまな国家政策や国際協定で気候を優先し、大規模な支出法案の中で気候に資源を投じることにより、私たちはコミットメントに実効性を持たせる。

3. ジオエンジニアリング(気候工学)が検討されている

COP26が終わっても飛行機は飛び続け、自動車は走り続け、少なくともあと10年は石炭が経済大国の主力エネルギー源であり続けるだろう。国際エネルギー機関(IEA)の最新の分析によると、炭素排出量を大幅に削減するためには、各国が自国のエネルギー源から化石燃料を速やかに排除し、石炭、ガス、石油の新規採掘をすべて止めなければならない。一方、排出量の削減や加速する環境災害への適応に向けた取り組みの先に、もしかするとジオエンジニアリングを利用して私たちのシステムから炭素を取り除くという考え方も受け入れなければならないとする科学者が増えている。この考え方については、科学と政策が依然としてかけ離れており、明らかに人為的な問題に人為的な解決策を選択することに私たちが皮肉にも敬遠しがちな分野である。

検討すべきさまざまなアイデアがある。ソーラージオエンジニアリングとは人工的に太陽光の量を操作することで温暖化をコントロールする手法である。その中には、クラウドブライトニング(人工的に雲をより明るくし、より多くの太陽光を宇宙に戻す手法)、オーシャンミラーリング陸地の反射率を上げるエアロゾルを大気中に放出するなどがあり、必ずしも炭素問題を解決せずに地球の温度を下げることになる。温室効果ガスの除去は、炭素を空気中から取り除いたり、地中に閉じ込めたり海に吸収させたりする別の方法も提供する。巨大な宇宙傘、人工衛星からの電力ビーム放射、地球を太陽から少し遠ざけるなど、私たちの常識的な感覚を超えるアイデアもある。

ジオエンジニアリングはSF小説のように聞こえるかもしれないが、今日では非常に現実的なものである。エリザベス・コルバート氏が『Under A White Sky(白い空の下で)』で考察しているように、大河を逆流させることから、海の酸性度の上昇に耐えるようにサンゴ礁の遺伝子を組み換えることまで、私たちはすでに大規模なジオエンジニアリングを行っている。そのようなアプローチは文字通り生存に関わるような大きなリスクを伴うが、ジオエンジニアリングを片隅に追いやったり、注意を逸らすための空想として振り払ったりすべきではない。気候変動対策に相応の緊急性と優先順位を示すのであれば、世界の政策立案者たちはCOP26の場でジオエンジニアリングを話し合う時間を設け、メリット、リスク、そして数百年にわたって影響を及ぼす可能性のある決定に対する倫理上の問題を公の場で真剣に議論する必要がある。

4. カーボン資本主義の先へ

結局のところ、私たちは今日の世界秩序が炭素エネルギーの元に成り立っていることを認める必要がある。炭素エネルギーが再生不能資源である以上、カーボン資本主義は自滅する原因を含んでいることを意味する。一方、私たちが無限の金融成長モデルに依存し続け、根深い不公平さを無視し続けながら世界が発展し、炭素消費に基づいて拡大し続ける金融市場を軸とするのであれば、私たちはカーボン資本主義の避けられない終焉の道連れになるだろう。

ケイト・ラワース氏は「ドーナツ経済学」というシンプルな概念を提唱している。これは、人間の消費の最大化にひたすら向かうのではなく、人間と環境のウェルビーイング(身体的・精神的・社会的に良好な状態にあること)を相互に補強し合う目標として同時に捉える成長モデルである。今日、GDPが唯一の経済発展の指標として用いられている中で、ドーナツ経済学のような考え方は、生物多様性の経済学循環型経済なども含め、GDPに代わる指標を提示する。G20諸国がGDPに代わる発展の指標を議題に掲げて一堂に会することは非現実的に思えるかもしれないが、COP26は、成長だけに焦点を当てたものからウェルビーイングに焦点を当てたものに方向を変えることを要求できる機会である。

実際、COP26は、上記に述べた4つの項目を同時に具現化できる機会だ。その4つとは、地球の温度が1.5度の崖を超えようとしていてること、温暖化がすでに私たち全員に影響を及ぼしていること、あらゆる科学的な選択肢を真剣に検討する必要があること、そして、主要経済大国は最終的に新しい持続可能な成長モデルを採用する必要があるということである。それを行わなければCOP26は、世界のリーダーたちが懸念を表明し、一致団結する重要性について準備されたスピーチを読み上げ、COP27の大成功を約束してZoom会議を終了するだけのイベントになってしまう。

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この記事は、最初に国連大学政策研究センター(UNU-CPR)に掲載されました。

著者

アダム・デイは、国連大学政策研究センター(UNU-CPR)のプログラム・ディレクターとして、進行中の研究プロジェクトおよび新しいプログラムの開発を監督しています。

国連大学で職務に従事する以前は、10年間にわたり国連にて、平和活動、紛争問題への政治関与、仲介、民間人の保護などを中心に活動していました。国連コンゴ民主共和国安定化ミッション(コンゴ共和国)、国連レバノン特別調整官事務所、そして国連南スーダンミッション(UNMIS、ハルツーム)と国連アフリカ連合ダフール合同ミッション(UNAMID、ダフール)の各本部において政治アドバイザーを務め、国連本部(ニューヨーク)の政治局および平和維持活動局において政務官を歴任。

また、カンボジアのオープン・ソサエティー・ジャスティス・イニシアティブやヒューマン・ライツ・ウォッチのジャスティス・プログラムなど、市民団体での活動にも従事しました。

メイジャ・アラムは、国連大学政策研究センター(UNU-CPR)の非常勤シニア・リサーチャーです。比較政治学、国際関係論と国際法を分野横断的に研究し、武力紛争の原因、結果と遺産について焦点を当てています。