数字で見る環境問題:1992-2012

世界人口70億人。二酸化炭素濃度350PPM。気温上昇2度。年間1300万ヘクタールの森林消失。

こうした環境の変化に関する数字を知っていることは重要だ。信頼できる最新のデータは、人間の生活を支える自然生態系の限界と利点を理解する礎となる。賢明で持続可能な解決法を編み出せるようになるには、私たちは複雑な環境問題を診断しなくてはならない。つまり、別の言い方をするなら、私たちがどこへ向かっているのかを知るためには、どこから来たのかを知らなくてはならないのだ。

しかし、あまりにも多くの政府系組織、非政府組織、研究組織が、重複しているのに対立し合うことの多い議題を掲げて、あまりにも多くのデータを提示しているため、数字の壁を打ち破るという課題はなおのこと困難である。世界中の市民にとって、特に企業やメディアが私たちの目を最も重要な情報から背けようと力を振るう状況において、どの情報が重要で、どの情報が重要ではないかを判断するのは難しい。

Keeping Track of Our Changing Environment: From Rio to Rio+20 (1992-2012)」(変わりゆく環境の状況を追う:リオからリオ+20まで(1992-2012))は、環境に関する主要な統計のすべてを1カ所に集める試みだ。この報告書は、地球環境概況の第5版に向けた国際連合環境計画(UNEP)の報告活動の一環である。同報告書が目指すのは「20年前の世界の状況と私たち人類が今日置かれている状況を物語り、リオ+20以降の世界において私たちが進むべき方向を示す」ことだ。

多くの変化が起こった20年間

報告書が認めた最も明らかな傾向は、この20年間に地球のあちこちで膨大な変化が起きたということであり、その変化の1つが国際貿易の急速な拡大である。インターネットやその他の技術革新によって、輸送、通信、製造がかつてない速さで行えるようになったことが、国際貿易の急速な拡大を支えた。画期的な開発が同時進行した結果、特にBRIC諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国)や東南アジアや南アメリカ諸国において、記録的な数の人々が貧困から救われた。人間開発指数は1990年の0.52から2010年の0.62へ着実に改善しており、人々の健康や福祉が全体的に向上したことを示している。

OurWorld 2.0の読者にとっては驚くべきことではないが、1992年から2010年の間に世界の炭素排出量は36パーセント増え、海洋温度は0.28度上昇した。

しかし、開発は何百万人もの人々にとって有益な結果をもたらした一方で、地球の資源にはこれまで以上の負荷をかけている。OurWorld 2.0の読者にとっては驚くべきことではないが、1992年から2010年の間に世界の炭素排出量は36パーセント増え、海洋温度は0.28度上昇した。木材、食料、家庭製品の増え続ける世界的需要を満たすために、世界の森林面積は1990年以降、3億ヘクタール減少した。これはアルゼンチンの国土に匹敵する面積である。

確かに、全体像を見ると状況は厳しい。しかしこの20年間は、環境ガバナンスの面ですばらしい改善も見られた。例えば、年間の石油流出事例数は減少傾向にあり、1992年には41件だったが2010年にはわずか8件となり、流出した石油量についても同様に減少傾向が見られる。

1992年から2009年の間に、オゾン破壊物質の消費量は著しく93パーセントも減少し、2011年9月時点で「オゾンホール」の拡大は「止まった」。この進歩は、コフィ・アナン元国連事務総長が「恐らく最も成功した唯一の国際協定」と表現したモントリオール議定書(1987年)の諸条件を世界各国がほぼ全会一致で承認したおかげだ。

もちろん、プラスチック廃棄物、漁業、生物多様性の保護など、「Keeping Track」が挙げた数々の環境問題の全領域において、今後の数十年間で大きな変化を起こす必要がある。しかし重要なのは、より厳しい規制と必要に応じた汚染者への罰則を設けることを政府に働きかける環境活動家たちの現在と将来の努力は、過去と同様に今後も実を結び得るという点だ。

次にぜひ期待したいのは、多国間環境協定(MEAs)の締結国の数が今後も増え続けることだ。UNEPの調査によれば、60カ国以上が主要なMEAsである14協定すべてを締結している。しかしUNEPは慎重な見解を示しており、ある協定を締結したからといって、その国が協定に示された特定の環境問題を国内で解決したとは言えないと指摘している。

ニュアンスの必要性

この報告書には多くの興味深い統計が掲載されている。次のような統計を考えてみてほしい。

「Keeping Track」全編に共通して見られるのは、一部の状況はゆっくりだが、よりよい方向へ向かっているかもしれないという感覚である。だからといって、生物多様性の喪失や気候変動、海洋の酸化現象といった非常に重要な問題への憂慮を軽減してよいということではない。むしろ、環境と開発について考える場合にはニュアンスの存在を認識すべきなのだ。つまり、状況は複雑であり、特に開発途上地域の新興中流層にとっては必ずしも先行きが暗いというわけではないということだ。

驚くべき数字

「Keeping Track」は現代社会の急速に進化し続ける側面を深く探究している。そうした側面は環境と持続可能性について考える一般の人々に、より広く検討されるべきである。

同報告書は、インターネットと携帯電話技術に関して、短いながらも重要な一章を割いている。1992年以降、携帯電話の利用者数は何と2万3000パーセントも増加した。つまり50億人以上の人々が現在、手軽で、比較的安価で、地球上のある地点とある地点をつなぐ分散的で民主的なコミュニケーションの恩恵にあずかっているのだ。

関連性の高い新たなテーマを報告書に取り上げたことは、相互に関連した社会的および環境的課題の理解と転換への包括的で学際的なアプローチの重要性を国連がますます認めていることを反映しているのかもしれない。

こうした技術は、ビジネスや個人的なコミュニケーションを簡単にするだけではなく、科学的でよりよい監視情報を開発途上地域の地域レベルで収集するために重要である。開発途上地域は今のところ、正確なデータを大規模に収集する能力が欠如している。UNEPによればデータ収集は環境ガバナンスの向上にとって不可欠であるという。

通信技術の利用における、こうした驚くべき成長が抱えるマイナス面は電子廃棄物だ。電子廃棄物には健康や環境に副作用をもたらす危険な化学物質が含まれている。開発が進めば、さらに多くの国々で、タブレットやノートパソコンや、現時点では私たちがその存在さえ知らないかもしれないITテクノロジーの消費がますます増加するため、電子廃棄物の問題は悪化の一途をたどる。こうした状況は、電子製品に不可欠な部品であるすでに少ない「レアメタル」の供給をさらに圧迫するだろう。

読者の皆さんは、国会で女性が占める座席数の割合が1997年から60パーセント増加したことをご存じだろうか? この統計のように、報告書には環境政策にとって必ずしも主要な検討材料ではなかった意外な数字や傾向が他にも含まれている。環境劣化や汚染による影響を女性と子供が不公平に被っている世界で、上記の指標は男女格差の是正を示すほんの一面でしかない。UNEPはこの指標を報告書に掲載することによって、女性が議席に就くことがよりよい環境政策の実現に向けて重要な役割を担う可能性を認めている。それは、女性が平和構築活動に参加することで、紛争終結後の国々で男女格差に留意した復興が可能になることと同様である。

関連性の高い新たなテーマを報告書に取り上げたことは、相互に関連した社会的および環境的課題の理解と転換への包括的で学際的なアプローチの重要性を国連がますます認めていることを反映しているのかもしれない。先進諸国も開発途上諸国も同様に直面している大きな課題とは、国家政策を再考し、部門に特化した政策ではなく地域の条件や状況を反映した地方分権的な計画を実現する政策作りである。

「環境」とは関連のない省庁が農業を扱うことは理にかなっているだろうか? あるいは、「ずっとそうだったから」という理由で、住宅と交通に関する政策が省庁の体制の中で切り離されることは理にかなっているか? 「Keeping Track」は、すべては関連していることを適切に表現している。

この報告書は、技術用語を多用せずにデザインやグラフを巧みに使えば、複雑なメッセージを広い読者に届けられることを証明している。全体として、「Keeping Track」は私たちがどこから来たのかを見事に説明している。私たちがどこへ向かうかは、私たち1人1人にかかっている。

翻訳:髙﨑文子

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著者

マーク・ノタラスは2009年~2012年まで国連大学メディアセンターのOur World 2.0 のライター兼編集者であり、また国連大学サステイナビリティと平和研究所(UNU-ISP)の研究員であった。オーストラリア国立大学とオスロのPeace Research Institute (PRIO) にて国際関係学(平和紛争分野を専攻)の修士号を取得し、2013年にはバンコクのChulalpngkorn 大学にてロータリーの平和フェローシップを修了している。現在彼は東ティモールのNGOでコミュニティーで行う農業や紛争解決のプロジェクトのアドバイザーとして活躍している。