エシカル都市:新時代の概念

2016年10月17日 ブレンダン・バレット ロイヤルメルボルン工科大学

今世界中で、World Urban Campaign(世界都市問題キャンペーン)を通じて、都市生活の未来に関する活発な議論が行われている。その中心的な議題となるのが、「より持続可能な未来を目指す闘いの勝敗は、都市で決まる」というものである。

これはおそらく、世界人口の54%が都市で暮らしており、世界のGDPの70%が都市で生み出されているという事実を前提としている。2050年には、都市の人口は66%に増加する見込みである。

そうした中、主要都市は、パリ気候協定を受けて、温室効果ガスの排出を大幅に削減するための措置を講じることを約束している。このキャンペーンのポスターがあるとしたら、そこには「次はあなたの町の番です」と書かれているに違いない。

今年の10月にエクアドルのキトで開催されるハビタットIIIに向けて国際社会が準備を進める中、2016年は間違いなく「都市の1年」となるだろう。

ハビタットIII では、今後20年間の世界の都市開発を導く議題について各国政府が合意形成を目指す。準備会合(今年7月にインドネシアで開催)、ならびに地域会合やテーマ別会合で議題形成が進められている。

2016年2月まで28回にわたって、世界各地でUrban Thinkers Campuses(都市計画キャンパス) が開催された。一番最近のキャンパスはオーストラリアのメルボルンで開催された。

課題だらけの世界

都市が一般的に直面する課題は、私たちがよく耳にするものばかりである。例えば、住宅価格の高騰のせいで多くの人が持ち家に手が届かないといった問題や、スプロール現象、長い通勤時間、交通渋滞、社会問題、孤立や分極化などである。

その一方で、オーストラリアの都市には大きな強みがある。そのことは、住みやすさや都市生活の質に関するさまざまなランキングの結果にも表れている。しかし、だからと言ってオーストラリアの都市が持続可能だということにはならないし、その住みやすさが今後も続くとは限らない。

Melbourne street cafe

メルボルンは住みやすさのランキングで上位を占めるオーストラリアの都市の中でもとくに抜きんでている。しかし持続可能性のランキングでは、オーストラリアの都市の順位はかなり低い。Photo: Dale Gillard. Creative Commons BY-NC-SA 2.0 (cropped).

世界の都市が直面する課題はますます大きくなっている。グローバルサウスでは、都市居住者の3人中1人がスラムで暮らしている。

また、ミレニアム開発目標の進展にもかかわらず、貧困はいまだに都市の最大の懸案事項である。これは南半球だけの問題ではなく、世界金融危機以降、世界中の都市で深刻化している。とくに緊縮財政のもとでは、これらの問題に対する市当局の対応能力は、財源不足によって制限されている。

こうして見ると状況はかなり暗いように思えるかもしれないが、明るい兆しもある。

国連のGlobal Compact Cities Program(世界コンパクト都市プログラム)のために20の都市を対象に行われた昨年の調査では、市民のリーダーシップや都市のイノベーションに関する数多くの事例が見られた。

これに関して、米国のブルッキングス研究所のブルース・カッツ氏とジェニファー・ブラッドリー氏は、こうしたイノベーションを「Metropolitan Revolution(メトロポリタン革命)」と称している。両氏は、地方の指導者たちが雇用市場の成長とコミュニティの繁栄に熱心に取り組んでいると主張し、ニューヨーク、ポートランド、ヒューストン、マイアミの事例を挙げている。

欧州ではノルウェーのオスロが、2030年までに化石燃料の使用を廃止することを目指している 。ユトレヒトは、オランダのいくつかの都市に先駆けて、すべての市民に必要最低限の所得を給付する制度の試験的導入を計画している

イギリス海峡の向こうでは、ブリストルが地域通貨の導入によって経済を変革しようとしている。ブリストル・ポンドの狙いは、市内のビジネス関係の強化と信頼の構築である。

これらの都市とその指導者たちは、「これまで通りのやり方」では望む場所にたどり着けないということに気付いているのである。

Oslo City Bikes

オスロは2030年までに化石燃料の使用を廃止しようとしている。オスロ・シティバイク photo: Timo Arnall. Creative Commons BY-NC-SA 2.0 (cropped).

そのためには、技術革新、制度改革、財政投資、規制変更といったことすべてが求められる。とくに、環境の持続可能性を損なうことなく開発目標を達成しようとするのであれば、なおさらである。しかしそれだけではなく、もっと深く掘り下げる必要があるだろう。見逃されがちだが、社会レベルや個人レベルでの価値観の変化も求められる。

アインシュタインの名言を少しひねるとこうなる。「問題を生み出したのと同じ価値体系を使っていては、その問題を解決することはできない」

そこで求められるのが、エシカル都市の概念だ。

エシカル都市とは何か?

倫理(エシカル)とは、何が「正しくて、公平で、公正で、良いこと」なのかを考えるものであり、必ずしも最も普通、あるいは好都合だと認められていることは何かを考えるものではない。

ほとんどの人は、エシカル企業という言葉を耳にしたことがあるだろう。これは、その企業が特定の重要な価値観や慣行を事業活動の中心に据えているということを意味している。これには、公平性、誠実性、環境の尊重、差別の廃止などが含まれる。

国際的には、これらの主要な価値観のいくつかは、国連グローバル・コンパクトの10の原則の中に示されている。数千社の企業がこの協定に署名している。市長や知事も、国連事務総長に書簡を送ることによってこれらの原則に署名することができる。

しかし、エシカルな配慮は都市計画や都市管理を支える重要な要素であるにもかかわらず、エシカル都市という言葉はほとんど使われていない。そして、都市生活に関する私たちの決断の多くを支えている倫理的価値観が明らかにされることもほとんどない。

それでもほとんどの都市で、倫理的ガバナンスを支援するためのさまざまな措置がすでに講じられている。これには、実績の監査と確認を行う内部委員会や、意思決定における透明性とコミュニティの参加を促す措置などが含まれる。

都市における指導者、管理者、計画者、技術者、およびその他の人々は、自らの仕事から派生する倫理的な問題を認識しており、必要な時には助言を得たり訓練を受けたりすることができる。時には法律に抵触することもあるが、大部分の人は正しいことをしているとみなされており、そのようなことにはならない。

しかし、刻み込まれた一連の価値観に基づく「これまで通りのやり方」が依然として優勢だということは認識しておく必要がある。例えば、ほとんどの都市が自動車優先の設計となっていることや、郊外に住みCBD(中心業務地区)で働く私たちの生活スタイル、そして多くの都市に当たり前にホームレスがいることなどである。

よりエシカルな都市をつくるには?

ピーター・シンガー氏のようなソートリーダーたちは、日常生活における倫理の重要性について、(とくにシンガー氏の著書『実践の倫理)の中で)詳しく説明している。しかし今は功利主義的な時代である。

私たちの都市は、かつてないほどにエシカルなリーダーシップ、すなわちグッドガバナンス、透明性、社会的信頼の構築、公平性を必要としている。コミュニティが直面する複雑な課題に対処するためには、倫理に基づく都市計画が不可欠である。これは、持続可能性、レジリエンス、経済的活力、包括性にかかわる難しい問題に取り組もうとする私たちの意欲にかかっている。

また、市民としての私たちの役割も重要である。積極的に関与するエシカルな市民として、私たちは自らに何を期待するのか?エシカルな都市において、私たちは何を期待し、何が私たちにふさわしく、互いに何を約束しようとしているのか?私たちはどのような市民になるべきなのか?

何よりも、最終的に思いやりのある都市が必要だという合意に至るとするならば、個人の利益と消費が支配し、エシカル都市の信条(社会的包摂、気候行動、ジェンダー平等、子どもや若者の権利、およびその他の無数の権利やニーズ)が欠けているこの世界でそうした目標に向かって進むには、一体どうすればよいのだろうか?

これが新年にありがちな理想主義の夢物語だと思うなら、あなたの都市でどのようなことが可能か、ぜひ想像してみてほしい。参加型の予算編成や、クラウドファンディングによる社会事業、そして「何をするべきか」を決めて、それを行動に移した人々。これらはすべて実行可能なのだ。

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2016年2月16日にメルボルンのRMIT大学で開催のEthical Cities Urban Thinkers Campus(エシカル都市・都市計画キャンパス)は、都市開発、包摂と権利、およびレジリエンスとの関連においてエシカル都市のありかたが模索された。

この記事は、The Conversationに最初に掲載されたものである。

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著者

ブレンダン・バレット

ロイヤルメルボルン工科大学

ブレンダン・バレットは、東京にある国連大学サステイナビリティ高等研究所の客員研究員であり、ロイヤルメルボルン工科大学 (RMIT) の特別研究員である。民間部門、大学・研究機関、国際機関での職歴がある。ウェブと情報テクノロジーを駆使し、環境と人間安全保障の問題に関する情報伝達や講義、また研究をおこなっている。RMITに加わる前は、国連機関である国連環境計画と国連大学で、約20年にわたり勤務した。