パンデミック後の世界:移民のための開発協力を分権化する重要性

本稿は、移住、気候変動、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の相関性と深刻な課題を探究する国連大学移住ネットワーク・シリーズの記事です。本シリーズの記事を通じてこれらのつながりを地域および地球レベルで検証し、移住者への影響を明らかにしながら、エビデンスに基づく洞察を国連加盟国や政府、政策立案者に提供します。

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持続可能な開発のための2030アジェンダが発表されてから5年が経ったが、そこで定められたグローバル・ゴールは概して野心的なプロジェクトのままである。そして、世界が非常に感染力の強い新たなウイルスによる被害から回復しようと苦闘している中で、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた取り組みも影響を受けている。アントニオ・グテーレス国連事務総長は、2019年の進捗状況を検証し、大きく逸れてしまった開発の軌道を修正するために「劇的な行動」を要請した。国際社会はターゲットから著しく外れてしまい、世界の貧困の撲滅が42年遅れ(2072年)、ジェンダー不平等の根絶が59年遅れ(2089年)、環境持続可能性に関するターゲットも大部分が達成されないと予測されたのである。

2020年12月現在、150万人近くが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で死亡し、世界経済(サービス、貿易、観光、製造、工業生産)は大打撃を受けている。国連の推計によると、昨年は170カ国で1人当たりの成長率がマイナスになり、生産高の損失は世界全体で9兆米ドル近くに上ると予測されている。

こうした変化は、(i)これまでよりも多くの人々が安全と機会を求めて移動する理由が生じ、(ii)そうした人々が移動やサービスにアクセスする際に新たな障壁にぶつかり、それによって現在の脆弱性がさらに悪化するという、少なくとも2つの形で世界の移住に影響を与えると考えられる。

SDGsは世界的に合意された中央政府間の唯一の開発枠組みであり、各国が目標達成に取り組む中で、COVID-19への対応を考慮しなければならないのは明らかである。しかし、移民の安全と福祉に関して、こうした中央政府の共同行動のみを当てにする必要はない。

今回のパンデミックは多数の悪影響をもたらしたが、なかでも国家間の緊張を悪化させ、もとより脆かった包摂的な開発と平和のための協力関係を弱体化させた。ポピュリスト運動の拡大、国家財政の縮小、前例のない失業率の上昇と個人の借金および公債の増加に直面して、パンデミックが発生するまでに苦戦しながら得たわずかな進捗は、今や失われるリスクにさらされている。現在の危機がもたらす最悪の事態から移民を守るためには、主流になっている国家主体の開発協力というアプローチの枠を超え、地方の関係者、とりわけ地方・地域政府が担う役割の拡大と財源強化のために投資しなければならない。

「突き詰めると、地方政府はふるさとを奪われた子どもたちの生活に真の変化をもたらすことができます。地方政府の方が移民や難民に近く、彼らのコミュニティが直面する具体的な問題や機会について深く理解しているからです」 — 国連児童基金『ふるさとを奪われた子どもたち:地方政府に何ができるか』、Photo: © UNICEF / Loulou d’Aki

アミーナ・モハメッド国連副事務総長は、グローバルな開発への取り組みにおいて地方政府が果たす重要な役割を指摘し、地方政府が「人々に最も近い政府」であることを確認した。このように、地方政府は社会福祉サービスの提供を通じて、移民の福祉の保障に不可欠な役割を担う。また、地域社会における外国人嫌悪や反移民感情との闘いにおいて最前線に立つ。

最近の研究によると、地方政府が効果的にサービスを提供すると反移民感情に直接的な影響を与えるため、うまく管理すれば、移民の地域への統合やグループ間の良好な関係構築に寄与することが明らかになっている。今まさに、住民や移民はこのようなサービスを最も必要としているにも関わらず、多くの州政府や地域政府では、パンデミックによって地方開発戦略が軌道から外れてしまっている。

地方政府に利用可能な資源が少ないと、往々にして弱い立場にある移民を含む低技能労働者や社会から取り残された人々の福祉、ソーシャル・キャピタル(社会・地域における人々の信頼関係や結びつきを表す概念)、開発成果に大きな影響が生じることになる。それだけでなく、資源が乏しくなるにつれて、地方政府の能力が縮小し、住民と移民との関係が悪化する恐れもある。

地方政府に対して資金供給と技術協力を拡大しなければ、弱い立場にある移民にとって、現在の危機から脱するまでの道のりは長く、まだらで、破滅的なものになるだろう。

パンデミックが発生するまでも、世界の地方政府は防災・減災から地方公衆衛生まで、中央政府から移譲される多くの責務に対処しなければならないという大きな圧力を受けていた。こうした圧力は、開発途上国の都市や地域では特に厳しかった。財源と開発協力へのアクセスの拡大が必要なのは明白である。

現在の危機への解決策は局所的・地域的な解決策になると考えられる。地方政府に対して資金供給と技術協力を拡大しなければ、弱い立場にある移民にとって、現在の危機から脱するまでの道のりは長く、まだらで、破滅的なものになるだろう。

期待できる分野の一つが、拡大傾向にある開発協力の分権化である。これは地方政府にとって重要な開発資金源であり、中央政府の政治から切り離されていることが多く、参加型開発協力という革新的な形態である。この形態による地方政府間の協力はより広範な地政学的環境の影響を受けるが、地方のニーズを出発点として取り入れ、はるかに柔軟性を持って実施される。

開発協力の分権化には、ある地方政府から別の地方政府への財源と技術的資源の移転が必要となる。最近のOECDの推定によると、開発協力の分権化は2005年から2017年にかけて35パーセント拡大し、2017年には合計23億米ドルに上った。開発協力の分権化の資金は依然として低水準であるが、あらゆる地域の国がこの形態の協力に取り組んでおり、全体として見ると、住民のニーズに応えようと苦労している地方政府にとっての重要な代替資金源と技術協力になっている。

新型コロナウイルスは社会にとって「エックス線」のような働きをして、普段は人々の目に見えない内部の状態を明らかにすると言われている。こうした新しい視点から見えてくるのは、地方政府が提供する国際協力とSDGs達成のための枠組みである。この枠組みは、世界的な協力関係に対抗するのではなく、それらに賛同し、数十年かけて静かに構築されてきたものであり、現在の危機を切り抜けるのに必要な緊急時のインフラを提供してくれるだろう。

著者

ダビッド・パサレーリ氏は国連大学政策研究センター(UNU-CPR)の所長。UNU-CPRの新たな組織開発、パートナーシップ、成長戦略を監督し、移住、不平等、開発の分野における研究と政策諮問事業を主導している。