ミカエラ・フューラー氏は政治科学を学んだ後、ベルリンでフリーランスのジャーナリストをしている。
風が強く川の多いボスニア・ヘルツェゴビナは、グリーンエネルギーの可能性に満ちている。しかし、これまでこのような資源を活用することに対する政治家たちの関心は極めて低かった。だがそれも大きく変わろうとしている。
ボスニア・ヘルツェゴビナは、一見すると絵画のように美しい。きらめく青い川と緑に茂る森が点在し、そこを優しい風が吹き抜けていく。その光景は、最高の自然を味わいたい人々にとって完璧な場所である。
しかし目を凝らしてみると、その景色はそう穏やかなものでないことが分かる。明るく彩られた建物や黒塗りの通りのあちこちの家々には恐ろしい爆撃の跡が残り、1992年から1995年にかけてこの国でおきた、10万人以上の命を奪った上に、社会を2つに引き裂いた戦争を思い出させる。
戦車や銃は姿を消したとはいえ、戦争は人々の心で今もなお続いている。そのため経済的、政治的課題は山積し、この国の可能性を探り開拓するための妨げとなっている。
川の水は再生可能エネルギーには欠かせない資源であり、ボスニアにはそれは潤沢にある。国はこの資源を伝統的に利用してきており、コンラート・アデナウアー財団(KAS)の情報によれば、国の電力の半分は水力発電で賄われている。
だがそれは気候保護とはほとんど関係がない。KASによると、これまでにボスニアのクリーンエネルギー資源の収穫に興味を示してきたのは2つのNGOと科学者数名だけである。
ハインリヒ・ベル財団はバルカン諸国の再生エネルギーについての議論を呼びかけている団体の1つだ。
「環境法はありますが、それらは順守されていません」サラエボオフィスのアルマ・スキック氏がドイチェ・ベレ(ドイツの国際放送事業体)に語った。
ボスニアのいたるところにある川は、再生可能エネルギーには欠かせない資源である。
これまで財団はエネルギーの可能性に注目を集めるよう努力してきたが、何の反響も得られていない。KASサラエボ支所長のザビーネ・ヴェルクナー氏によると、優先順位が低いことが理由だという。
「ボスニア・ヘルツェゴビナでは気候保護は主要な課題ではありません。他に懸念すべき根本的な問題がまだまだあるからです」氏はこう話した。
多くの人々が生活を建てなおしながら、なんとか家計をやりくりしている。国は今も分裂したままだ。選挙は一年以上前に行われたが、政党はいまだに政府の体を成していない。
「この国が行き詰まっている証拠です」とヴェルクナー氏は続ける。閣僚のポストの配分が組閣の障害になっているようだ。
誰がどの大臣職に就くかという問題だけではなく、本質的には国がどう見えるべきかが問題となっているのである。この社会で最も重要なのは誰がどの民族集団に属しているかということだ。ボシュニャク人なのか、セルビア人か、クロアチア人か。
「ボスニア・ヘルツェゴビナはユーゴスラビアの縮小版のようなものです」フランクフルト平和研究所のボスニア専門家のトルステン・グレメス氏がドイチェ・ヴェレに語った。
ボスニア・ヘルツェゴビナには305以上の政党が乱立しており、それぞれが各民族集団を代表している。彼らは国全体より、支援者の利益を満たすことを重要視しがちだ。彼らのビジョンは大きく異なることがしばしばで、お互いを阻止し合い、前進を妨げている。
混乱した政治状況と失業率の高さは(公式のデータでは失業率は27%となっているが実際は40%に近いという者もいる)、潜在的な投資家の投資意欲を減退させている。
「現在、投資家は国から撤退しつつある」ヴェルクナー氏は言う。
以上のことから、当面の間ボスニア・ヘルツェゴビナは自国とその資源に頼らざるを得ない。その1つの手段が豊かな代替資源を活用することだ。
水力は重要な輸出品であり、戦争中に破壊されたラマとトレビニェの水力発電所は現在再建が進んでいる。
ボスニア・ヘルツェゴビナで初となるメシホビナ(Mesihovina)にあるウィンドパークも2012年に電力発電を開始する予定である。これらのプロジェクトのコストは数百万ユーロで、ドイツのKfW 開発銀行からの融資で行われているが、環境を保護し、雇用を創出するだけでなく民族間の緊張を和らげるのにも役立つはずだ。
それでもトルステン・グレメス氏は、考え方が大きく変わらない限りこれは実現不可能だという。グレメス氏はその変化をもたらす方法については言及していないが、経済成長は大きな第一歩となるかもしれないと考えている。
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この記事はOur World 2.0が提携するドイチェ・ヴェレ「グローバル・アイディアズ(Global Ideas)」のご厚意で掲載しました。
翻訳:石原明子
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