ジョン・ムーア氏はジョン・ムーア・オーガニックスの創始者で45年間有機農業に従事している。日本にある6つの有機農園で土壌と種を育て、国連大学のファーマーズ・マーケットや東京のカフェで有機栽培デリフードを販売している。有機栽培に関するワークショップも主宰し、人々が自分たちのアパートやバルコニー、菜園で作物を育てることを推奨し、毎月種の交換を行っている。
有機栽培をする農家の人であれば、酸素と二酸化炭素のバランスは、土壌が生命力を与えられ呼吸をすることができて初めて維持されるものだと誰もが知っている。土壌は力強く生きる母体であり、液体やガス、固形物に栄養を与えリサイクルしている。そして、昆虫、動物、植物にとっての糧となる。
土壌炭素に関する研究を再考したソイルアソシエーション(英国土壌協会)の最近の報告によると、有機物管理がなされている土壌の炭素含有レベルは従来の農地と比べて、北欧では28%、その他の世界の地域では20%も高いことがわかっている。
経済協力開発機構(OECD)は、日本の農業における農薬使用量は世界有数であると報告している。しかし、この状況は過去30年の話であり、農家が一世代交代する前に大きな変化を迎えたことになる。現在、農地の土壌の表面は死んでいるか、せいぜい無の状態である。微生物の活動や、酸素、窒素、炭素および水のサイクルは、遅いか完全に滞っているかだ。このような母体では、作物の成長周期を刺激するために農薬を用いる必要がある。この低い炭素吸収率が、炭素や鉛を排出する機械やトラクターのせいでより悪化するのである。
私たちの土地を取り巻く大気には、自動車や工場、エネルギー生産施設からの排気が充満しており、すでに死んだ土壌に毎日さらなる化学薬品が染み込んでいることを意味している。農閑期の数ヶ月間、何も植えられていない土壌はこれらの汚染物質を浴び、そのため微生物はますます失われ、炭素吸収能力も低下する。こんなに枯渇した土地で、私たちは子供達の食糧を育てているのだ。
私たちはそんな厳しい環境下にいるわけだが、吉報もある。ソイルアソシエーションの報告によれば、有機物管理をされた土壌が、ヘクタール当たり年間2トンの炭素を隔離できるということである。つまり、イギリスだけでも今後20年間のうちに6,400万トンの炭素隔離が可能であることを示唆している。これは路上から100万台の自動車を消すのに相当する。
これは、イギリス政府が提案している6%を上回る23%もの炭素排出量削減を農業セクターで実現できてしまうことを意味している。日本も各県レベルで同様の有機農業を推進すれば、鳩山首相が世界に誇らしく宣言した25%の二酸化炭素排出量削減目標の達成に近づくだろう。
有機土壌は、日本で急成長が見込める産業であり、高齢化が進む農業関係者たちは新しい仕事を探している。30年前、人間は努力を重ね、木の葉や植物、動物や人間の排泄物から土壌や肥料を作り出していた。今こそ、この古い手法を復活させなければならない理由が沢山ある。
土壌の管理以上に、低炭素の農業システムではさらに多様な形で食糧生産が行われる。低炭素農業ではより多くの多年生植物や、開放授粉された先祖伝来・在来種の種子が栽培され、生物多様性やDNAが強化される。現在、様々な日本の野菜や在来種が日々失われている。何故なら、農家は日本の農協から入手した種だけを蒔き、特有の味や成長周期を持つ地元の植物の種を育てないからだ。
幸運なことに、多くの農家は自分たち家族の食糧は農薬を使わずに栽培しており、農業用地で育てている作物とは分けている。これら田舎の農家の庭には、様々な在来種や先祖伝来の種が何世代にも渡って受け継がれ、保存されている。栄養状態の良い土壌とDNAの多様性を維持するために、私たちに残された時間は約10年である。その間に種を集め、次世代に引き継がなければならない。その後では、現在の古い農家はいなくなり、種や土壌の秘密も彼らと共に消えてしまうだろう。
私たちは地域特有の種を地元の土壌で育て、その場所で売らなければならない。例えば、沖縄で育てた作物を東京に空輸するなどということは止めるべきだ。私たちは東京で有機農業を実践し、周りの菜園を豊かにしていかなければならない。
さらに、食糧生産による二酸化炭素排出量を減らすためには、まず世界の農業生産物の50%が捨てられているという問題から取り組む必要がある。毎年2,000万トンもの食糧が廃棄処分されているというショッキングな事実がある。実際、市場が供給過多の場合には、食品価格を高く維持したい農家によってその多くがスーパーマーケットに届く前に捨てられている。
セカンドハーベストジャパンは、不要な、もしくは傷のある作物を再分配し、それらを必要とする人々に提供している数少ない団体の一つである。また、私の団体であるジョン・ムーア・オーガニックスのように、フードコモンズを運営し、より良い未来作りへの貢献と引き換えに余った食糧を提供している組織も稀である。
これらの取り組みは、今のところ日本の食品市場の利益を脅かすには至っていないが、人々の食糧への尊敬を促している。
残念ながら、このようなイニチアチブはまだ日本には少なく、この国の抱える食品廃棄物や食糧にまつわる多大なエネルギー消費の大きな問題は緩和されていない。
消費者の身近な場所で簡単に生産できるはずの農産物が大量に輸出入されている。しかし、これは様々な方法で減らすことができる。農産物の輸出入を減らすことで、大気だけではなく、土壌や私たちの日々の食糧からも二酸化炭素が削減される。
簡単に言えば、自分のものは自分で育てる、ということだ。日本の素晴しい気候なら、これは数週間で実現できるし、必要な木の葉、昆虫、微生物や植物質は豊富にある。タダとはいかないまでも安価に入手できるだろう。
それにしても、季節ごとに切られて公園や道端に落ちている木の葉や枝は、一体どのように処分されているのだろうか。先進国の自治体は、これらの貴重な有機物質をビニール袋につめ、土壌から持ち去ってしまうのだ。木の葉は、炭素を吸収する有機土を作るために有効利用されていないのだ。
では、私たちも東京の下目黒の取り組みを見習ってはどうだろうか。家庭菜園用の有機土を自分で作るために必要なだけの多くの葉っぱを持ち帰るのだ。そのためにはまず、ローデル研究所の活動を知り、サイドバーにある「How this effects you」(あなたにどのような影響があるのか)に紹介された情報を見て欲しい。
翻訳:森泉綾美
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