都市の人新世における国連

現在、私たちは「都市の人新世(Urban Anthropocene)」に生きている。この用語は、世界的な都市化の傾向と「人新世」という用語を融合した名称だ。人新世とは、多くの生態学者たちが現在の地質年代を表すために使い始めた用語であり、ホモサピエンスが単独で地球の生物の運命を決定付ける、鍵となる種になった時代のことだ。この奇妙な種の数の増加や、己の欲求を満たすために自然のサイクルを加速させる方法が、地球の今後を決定付けることは良くも悪くも明らかになっている。つまり、今後、地球がより豊かな多様性と相対的な安定(過去の人類史において繰り返された関係)に向かって進化するか、それとも過去40億年の間に数回起きたように、生態学的均衡(科学的にかなり明確に定義されている)と生物多様性の著しい喪失に向かって進化するかを決定付けるのは、人類である。

同様に、この種は極めて集団性が高く、2007年以降、その大多数が水平方向と垂直方向にますます広がる居住環境に集中して暮らしていることは、生態学者なら同意するだろう。こうした居住環境は食料、水、気温制御といった自然の産物とサービスや、極めて遠い場所から化石燃料を使って持ち込まれたその他多くのものを消費する。しかし、都市の密集地帯は革新や創造性も育み、前例のないレベルでの規模の経済につながる可能性がある。地球の未来は、都市の居住環境の未来によって定義される。それでは、都市の人新世を管理する最良の方法とは何か? 国際連合(UN)の現在の構造は今後も、私たちが直面するガバナンスの問題で人々を助けるという任務に適しているのだろうか?

確かに、世界的な取り組みの協調を支えるために、UNのような世界的に認められた組織は必要である。しかし、それだけでは十分ではない。国際努力が有効となるのは、相当数の地域で優れた地域ガバナンスが行われている場合に限る。従って、恐らく歴史上、最も大規模な人類の移動である都市化に影響するメカニズムを理解することは、世界の環境を守り、適切な地球政治とガバナンスのシステムを構築するために重要である。

長引く経済危機と「BRICS+」諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカに加え、メキシコ、トルコ、インドネシアなどを含む新興経済国まで含む)の影響増大の結果、新たな世界的「援助体系」を提供するために、UNは変わらなくてはならない。また「ネットワーク化された」地域およびサブナショナル・レベルでの行動とガバナンスが持続可能な開発の成功を左右する決定要因になりつつある世界に、UNは適応し、変化すべきである。都市の意志決定者は(有機体の中の)神経細胞、すなわち人間が土地や自然に及ぼすあらゆる規模での影響の(細胞内の)遺伝複製/転写システムである。

また、私たちの種の今後の道のりを定義付ける多くの関連プロセスのガバナンスは、さまざまなガバナンスの隙間に存在すること、特に私たちのほとんどが暮らす都市のガバナンスが重要であることを、私たちは認識する必要がある。一般的に受け入れられた「キャッチフレーズ」を見れば、最近の公式なUNの言葉は容易に見つかる。ところが、政府は持続可能性に関する約束だけを実行することはできない。都市の創造的エネルギーと都市化自体のプロセスが、未来を決定付ける要因なのだ。この必要性によって最近表面化した症状が、都市の居住環境に関する持続可能な開発目標全体についての最近の動きであり、「地球上の生命を守る作戦が成功するのも、失敗するのも、都市で決まる」といった言説も同様である。生物多様性条約(CBD)の「生物多様性の持続可能な利用に関するアディスアベバ原則およびガイドライン」の一部は、ガバナンスの分権化はマンデートや問題に取り組む能力に沿って行われるべきだと記している。原則1は、国レベルとサブナショナル・レベルの統治体制間での調和の必要性に言及している。原則2は、地域関係者の権限付与と説明責任に対応している。原則7は、ガバナンスの強度と利用および影響の規模が一致している必要性に言及している。

UNはこうした明らかな傾向に十分に対応できているだろうか? 関係者たちはこれほど重要な問題について、どれほど独創的に、切迫感を持って、あるいは建設的に議論しているだろうか? サブナショナル機関や地域機関とUNの協力活動の増加に伴う主な課題とは何か? 恐らく、基本的には、参加と意識が高まりつつあること、そして決定と責任の分権化は世界的傾向であり、政治とは独立した傾向であるということに答えがある。

とはいえ私たちは、より現実的な決定と責任の配分に向かう進化は、地域レベルや世界レベル(すなわちUN)においてよりも、国レベルで急速に起こっていると、あえて言わせていただく。そして具体的には、サブナショナル政府と地方政府が現在、公式にUNに代表を送っていることは明らかである。一方で、CBDのCity and Subnational Government Summits(都市およびサブナショナル政府サミット)、非公式の議論のプラットフォーム、関連機関とのパートナーシップ、あるいはCBDの行動計画に類似したもののように平行したイベントを除けば、あまり進歩はない。私たちが知っている一部の挑発的な議員なら、UNには「代表権への課税」に似たルールが必要だと指摘するだろう。

最近の活動で、私たちは下記の点に気づいた(すべてのレベルで科学的に証明されたわけではないが、この点に関する事実を収集するだけでもかなりの労力を必要とする作業だ)。

こうした課題は容易ではない。第一に、協調とキャパシティービルディングの問題は、途方もなく規模が大きい。わずか200カ国ほどの国連加盟国だけでも、市長(あるいは地方政府の長官)は約100万人、知事は5万人ほど存在し、その他さまざまな公的行政組織のカテゴリー(比較的自治的な地域、郡、地域レベルの連合組織、属領や統治領、海外領島など)については言うまでもない。さらに当然のことながら、そのような権能が十分に支援されたとしても、地方/都市のガバナンスは、地域をより持続可能な開発へ向かわせる必要条件ではあるが十分条件ではない。やはり中央政府は多くの国の構造において重要な責任を担っていくだろう。そして、何千もの地方政府と協調していく中央政府自体の能力は保証されていない。

第二に、特に開発途上諸国では、国レベルと同様に地方レベルにおいても優れたガバナンスからは程遠い状況にあることは明らかだ。UNはガバナンスと効率性そのものに関する、よく知られた課題を抱えているということを、私たちは認識しなければならない。関係機関のほとんど(特に国連人間居住計画、UN-HABITAT)は、幅広いマンデートを遂行するには資金不足である。実際、UNを通した世界のガバナンスは、意図的に常に限定されている。すなわち、UNが自国の主権を侵犯することを望む中央政府は皆無であり、サブナショナル機関が中央政府と平等な投票権を持って国家レベルでの厳しいマンデートに反応してくることを中央政府が受け入れるわけがない。

The UN in the Urban Anthropocene

写真:ジョゼ・A・プピン・デ・オリベイラ

さらに、例えばブラジルには約5500の地方自治体があるが、制度的に強力であるか、あるいは現在の制度的取り決めにおいて経済的に独立することが可能な地方自治体は、恐らく5分の1よりもはるかに少ない。CBDの自治体およびサブナショナル政府による生物多様性活動に関するグルーバル・パートナーシップや、持続可能性をめざす自治体協議会(ICLEI)や、国際都市・地方政府連合(UCLG)といった成功した取り組みでさえ、ほんの少数の地方政府としか連携していない。その数は恐らく数百あるいは数千ほどで、全体の1%にも満たない。
その一方でUNは、あらゆる政府と同様に、一部の人はいまだに所有していて、少なくとも私たちの記憶の中にある古いフォルクスワーゲン・ビートルのようなものだ。つまり、完璧ではないし、深刻な問題さえ抱えているかもしれないが、大抵は修理方法が分かるし、いずれにせよ長距離を移動する手段はそれしかない。だから、私たちはそれを改良すべきであり、またそうしなければならないのだ。

何ができるか?

協調行動の力は、限られたレベルだったとしても、圧倒的である。当然のことながら都市と国家は、2「種類」のネットワークを通じて、UNでは互いに接近する。ネットワークの1つは、密着した「有志連合」であり、今後の対策とパイロット・プロジェクトを提案している「刺激的な」少数集団(ネットワークグループやICLEIなど)を関与させたネットワークである。もう1つはより広範的で典型的な(従って目的指向性が低い)ネットワークである。例えばUCLGは、より諮問的であり、一般的に1つあるいは2つの問題がほとんどの加盟者に大きな影響を与えたために行動へのコンセンサスを得られた場合に、行動を起こす。

こうしたネットワークをマンデートに従って国連に広く組織的に関与させれば、より分権化した(「多極的な」)アプローチと呼ばれる方法に向かって進むことが可能だ。私たちは交渉の並行的インターフェースを築くことができる。異なる領域には異なる組織が存在するが、私たちが望む変化のために、それらを効率化することができる。しかし、そのためには、国連レベルでの取り組みを、変化を支援するためにすでに現場で活動している国連以外の組織の取り組みと、最良の方法で結びつける必要がある。

また私たちは、経済貢献ではないとしても、サブナショナル政府や地方政府の実質的な貢献を増やすことによって、国際援助の費用有効性の改善に重点的に取り組むことができる。政府の実質的貢献には、すでに進行している実に多くの分権化された協力活動との協調や承認が含まれる。国連の改革には時間が掛かり、またすべての問題に対処するほど十分な資金は集まらないだろう。そうであれば、すべての人のために「国際的な寄付者である中央政府」の限界をより効果的に打ち破るには、ICLEIのような組織(すなわち持続可能な開発問題に関する有数の革新的な地域的機関の連合)に、どのような革新的なアイデアを提供できるだろうか?

私たちはさらに一歩踏み込むことさえ可能だ。1910年代末、組合労働者と「ヨーロッパに取りついた亡霊」(市民としての役割の意識を高めつつあった雇用された消費者の力が増大したこと)が、国際労働機関における革新的な取り決めを生む一因となった。現在、国際労働機関は「3者間」の組織であり、労働者と事業者は国家機関と平等な代表権を有している。世界観光機関には、観光業界とその関連団体が加盟者として参加している。私たちはどのように、関連した国連機関(UN-HABITATのように戦略や計画や政策に焦点を絞った機関だけではなく、国連環境計画のように実行を中心とした機関も含む)を、サブナショナル関係者との現行の協力体制の中で組織的に強化することができるか? CBDと湿地に関するラムサール条約へのサブナショナル機関の関与事例はいまだに限られているが、私たちはどのようにしたらこの状況を、世界に数百とある多国間環境協定に適合させ、立脚させることができるか?

私たちの見解としては、国連加盟国がサブナショナル政府と地方政府を世界的な国連ガバナンスに関与させる機会とエネルギーをつかみ損ねれば、並行的な(そして多くの場合、足並みがあまりそろっていない)プロセスが脚光を浴びてしまう恐れがある。サブナショナル機関や地方機関による一種の「影の国連」の誕生である。そして、すべての人のために、私たちはその状況を避けるべきだ。2014年には、大韓民国で第12回気候変動枠組条約締約国会議(COP12)と、都市およびサブナショナル政府サミットが開催されるほか、 第3回住居と持続可能な都市開発に関する国連会議(Habitat Ⅲ)の準備が進められる。国連の持続可能な開発目標の作成と実施にサブナショナル機関がさらに参加していくことを私たちは期待している。すべては都市の人新世のガバナンスを向上させるためだ。

本稿はThe Nature of Cities forumに掲載された記事を一部改変したものです。

翻訳:髙﨑文子

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都市の人新世における国連 by オリバー・ヒレルと ジョゼ・A・プピン・デ・オリベイラ is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 4.0 International License.
Based on a work at The Nature of Cities forum.

著者

オリバー・ヒレル

プログラムオフィサー生物多様性条約事務局

オリバー・ヒレル氏は、カナダのモントリオールにある生物多様性条約事務局(SCBD、国連環境計画によって運営されている)のプログラムオフィサーとして6年間務めた経歴を持つ。彼の研究は、南南協力、サブナショナルによる実施(国、地方、都市による参加)、持続可能な観光業、そして諸島地域の生物多様性について関連がある。

ホゼ・A・プピン・デ・オリベイラ氏はゼッツリオ・ ヴァルガス財団(リオデジャネイロおよびサンパウロ)の教員であり、復旦大学(上海)およびアンディーナ・シモン・ボリバル大学(キト)にておいても教鞭を執っている。クアラルンプール拠点の国連大学グローバルヘルス研究所(UNU-IIGH)およびMIT Joint Program for Science and Policy for Global Change(グローバルな変革に向けた科学政策のMITジョイントプログラム、ケンブリッジ)の客員研究員である。以前、国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)のアシスタント・ディレクターおよびシニア・リサーチフェローを務めた。