世界リスク報告書2013年版:健康と医療

地震、洪水、干ばつ、ハリケーンといった自然の物理事象は、数万人もの命を奪い、数百億ドルの損害を引き起こしかねない。しかし、被害の深刻さを決定付けるのは、こうした自然災害の頻度や強度だけではなく、被害に遭った社会の持つ、社会、経済、生態学、制度上の特徴でもある点を認識することが重要だ。

例えば、十分な財政手段と、機能している政府と、活発な市民社会の構造を持つ国なら、災害の影響に左右されにくく、また一方では度重なる自然災害に対処するために利用できる潜在的手段も多い。適切な適応策と戦略は、自然事象がその国に与える将来的な影響をさらに低減する一助となる。専門家に言うように、そのような国の脆弱性は低い。

このようなリスクに関する基礎的理解を採用し、国連大学環境・人間安全保障研究所(UNU-EHS)は世界リスク指標(WRI)を開発した。自然災害との遭遇しやすさとそれに対する脆弱性を正確に掛け合わせることにより、世界173カ国の災害リスクを毎年算出している。その結果報告書である『世界リスク報告書2013年版(WRR2013)』によると、WRIの順位で明らかとなった災害リスクのホットスポットは、過去数年の結果と同様に、オセアニア、東南アジア、中央アメリカ、南部サヘルだった。特に、最も高いリスクに直面していたのは太平洋の島国のバヌアツであり、続いてポリネシアのトンガ、フィリピンだった。一方、リスクが最も低い国はマルタおよびカタールで、この2国の国民は自然災害の犠牲となる可能性が最も低い。

健康と医療への注目

干ばつ、サイクロン、地震、洪水のいずれであっても、自然事象が村や町を襲った場合、人々への被害の程度は、自然事象が起こる以前の国民の健康状態や、危機および災害状況で医療がどの程度うまく機能したかに左右される。つまり、健康と医療は、リスク評価の決定因子である。『世界リスク報告書2013年版』は、このテーマに注目している。
健康とは、社会に多種多様な影響を与える多元的な構成体であり、この点は報告書の第2章で深く検証されている。報告書は、医療サービスが経済的重圧の影響をますます受けつつある状況について言及している。こうした状況は、健康の不平等を拡大する可能性がある。なぜなら緊縮政策や民営化政策で最も苦しむのは、多くの場合、社会で最も弱い立場にいる人々だからだ。また『WRR2013』は、健康と疾患に関する決定的な要因として、清潔な水、衛生施設のインフラストラクチャー、予防措置の利用可能性の重要性を強調している。例えば、下痢性疾患による死亡例はドイツのような国ではほぼ皆無だが、世界的に見ると下痢性疾患が年間140万人の子供の命を奪っている。報告書は、脆弱な社会における健康に最も悲惨な影響を与えているのは、特に予防可能な感染症である点を強調している。

指標の方法論

『世界リスク報告書』の基盤を形作る指標は、UNU-EHSの研究者によって算出される。その方法は特定の国のリスクを決定するために自然災害との遭遇しやすさと脆弱性を掛け合わせるというやり方だ。算出を構成する4つの要素は、自然災害との遭遇しやすさ、損害の受けやすさに包括される脆弱性、対処能力、適応能力である。

持ち帰るべきメッセージ

災害を考える場合、健康はリスク評価の重要な側面である。医療や予防プログラムを十分に利用できなかったり、健康促進策があまり進んでいなかったり、水供給や衛生のための社会インフラが欠如していたりする状況は、すでに「平時」においても病気や死を招いている。災害や危機の状況下では、因果関係が双方向に作用するため、状況は急激に悪化する。つまり、健康不良や不十分な医療は脆弱性の決定的な促進要因(従ってリスク要因でもある)である上に、災害自体が社会の健康状況や医療システムに負の影響を与えるのだ。

多くの場合、犠牲になるのは最貧困層である。つまり、最も貧しい国や、社会の中で最も貧しい人々が犠牲となるのだ。しかし、多くの政府だけではなく、国際社会も、行動を起こす着実な準備は今のところ整っていない。通常、災害や危機が起こった時に初めて対応がなされる。メディアで大きく報道されて、行動を起こす必要性をもはや認めざるを得なくなるのだ。

『世界リスク報告書2013年版』は、こうした課題は克服可能だという明確な証拠を提示している。

翻訳:髙﨑文子

 本報告書の全編(英語)は、こちらからダウンロードできます。

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世界リスク報告書2013年版:健康と医療 by トルステン・ヴェレ is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 4.0 International License.

著者

トルステン・ヴェレ博士は、国連大学環境・人間の安全保障研究所(UNU-EHS)のアソシエイト・アカデミック・オフィサーである。ボン大学にて、地理学で博士号を、地理学および土壌経済学で科学修士号を取得している。彼はリモートセンシングや地理情報システム、気候学の分野で幅広い経験をもつ。彼は自身の所属するUNU-EHSの脆弱性評価・実施に対する手法および指針の開発や、脆弱性マップの開発の取り組みの中で、脆弱性評価、リスク管理、適応計画部門での地学データや地学情報の中心人物といえる。