2021年のワクチンに関する3つの想定

2021年04月19日

世界での新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン接種は、非戦時下における人類史上最も重要な取り組みの1つである。多数の国が野心的かつ政治的に慎重を期するワクチン接種計画を入念に順序立てて立案しているが、計画を順調に実施するのは至難の業であろう。ワクチン接種を成功させるために、政策立案者は2021年以降のワクチン接種計画に、3つの現実的な想定を組み込む必要がある。

第一に、ワクチン接種の遅延が避けられないということを想定しておくべきである。2020年12月8日に世界初のCOVID-19ワクチン接種が始まってから数カ月が過ぎ、迅速な接種という期待が多数の国で薄れつつある。製造の遅れを受けて、欧州連合(EU)は法的措置輸出制限も辞さない構えを示している。また、さらなる遅延が見込まれる理由がいくつかある。

まず、製造上の制約が問題となっている。企業は年間数十億回分のワクチンを製造するために工場を拡大するか転用しなければならず、ワクチンのサプライチェーンは広がっているとは言え、依然として構築の途上である。例えば、ファイザー/ビオンテックとキュアバックのワクチンは、同じサプライヤーが製造する脂質ナノ粒子を使用している。

さらに、技術移転(アストラゼネカからタイのサイアム・バイオサイエンスへの技術移転など)による生産力の拡大には、法的・技術的障害が伴う。新型コロナウイルスの変異株によって現在のワクチンの有効性が低下した場合、研究・製造プロセスを垂直統合する方が、より迅速で機敏な対応を可能にするかもしれない。

他の法律・規制上の障壁も遅延を引き起こす可能性がある。

多数の国がワクチンメーカーと二者間の事前買取協定(APAs)を結んでいるが、そのほとんどが規制当局によるワクチンの承認を前提としており、納入は段階的で、払い戻し可能な手付け金が必要である。しかし、APAsは実施が困難とも考えられ、紛争解決を有効に行うために国際法を迅速に整備しなければならない。

英国の規制当局が最初にファイザー/ビオンテックのワクチンを承認したのは、臨床試験データの段階的提供から恩恵を受けたためであり、そうした恩恵は市場規模や富に関係なく、他の規制当局にも機会として与えられるべきである。新型コロナウイルスの変異株に対応するには、ワクチンのバリエーションに対する新しい承認プロセスが必要になるかもしれず、インフルエンザワクチンの季節ごとの変動に対する簡易化された承認手続きが模範となるかもしれない。

富裕国はほぼ間違いなく高いワクチン接種率と比較的早期の経済回復を実現するが、貧しい国は大きく取り残されるだろう。

さらに、全人口対象のCOVID-19ワクチン接種プログラムは大きな物流問題を引き起こすため、社会全体での努力が必要になるだろう。政府は24時間体制またはドライブスルー方式のワクチン接種施設を設置し、適切なコールドチェーン(低温物流体系)支援を提供する必要があろう。それと並行して、強固な有害事象報告システムに、十分な補償による保護を付随させなければならない。ワクチンの廃棄妨害、さらにワクチン忌避の「武器化」が起こる可能性もある。しかし、各国は適切な計画を立案し、相互に学び合うことで、こうした潜在的な問題を緩和することができる。

二つ目に、COVID-19ワクチンによって、2021年に世界の不平等が悪化することを想定する必要がある。トルコを除くすべてのOECD加盟国は、自国民の接種に必要な回数分よりも多くワクチンを調達している。例えば、カナダは人口の6倍近くの回数分を調達している。こうした状況を、国連合同エイズ計画(UNAIDS)のウィニー・ビヤニマ事務局長は、「ワクチン・アパルトヘイト」と呼んでいる。富裕国はほぼ間違いなく高いワクチン接種率と比較的早期の経済回復を実現するが、貧しい国は大きく取り残されるだろうという意味である。

またCOVID-19ワクチン接種プログラムは、パンデミック(世界的流行)そのものがすでにエスニックマイノリティ女性移民貧困層に圧倒的に大きな影響を与えてきたように、国内の不平等を悪化させる恐れがある。世界保健機関(WHO)は最前線で働く医療従事者と高齢者に最初にワクチン接種を行うよう推奨しているが、一部エスニックマイノリティ貧困層を優先すべきという主張もある。先住民コミュニティ、移民、難民はこれまで以上に取り残される恐れがある。

その一方で、富裕層は民間セクタ-、ブラックマーケット、「ワクチンツーリズム」などを通じて、早い段階でワクチン接種を受けることができる。大企業は従業員のためにワクチンを購入したり、「エッセンシャルワーカー(私たちが生活を営む上で欠かせない仕事に従事している人々)」として優先するようロビー活動を行ったりする場合もある。実際に、アマゾンウーバーはすでにそうしている。また、「ワクチンパスポート」がもし導入されれば、差別を引き起こしかねない。

こうした不平等リスクを緩和するには、重層的なアプローチが必要であろう。国連総会と安全保障理事会はもっと積極的に地球公共財を管理すべきであり、米国のジョー・バイデン政権は思いやりのある包摂的なグローバルリーダーシップを発揮する必要がある。各国政府は、世界のどこででもワクチンを利用できるように、COVID-19ワクチン・グローバル・アクセス・ファシリティ(COVAX)が必要とする財政的・政治的支援を継続しなければならない。全加盟国が対象の国連人権理事会の普遍的・定期的審査(UPR)プロセスを、国レベルでのCOVID-19の転帰とワクチンの公平性を含むよう拡大するとよいだろう。また国民、市民団体、メディアはワクチンの不平等な配分を防ぐよう警戒し続けなければならない。

三つ目として、政策立案者は調達に関する決定が米中対立の代理戦争になりうることを意識しなければならない。地政学上はすでに公共調達に影響を与えており、中国の通信事業者ファーウェイを5Gネットワークから排除するという一部の西洋諸国の決定などがそうである。ワクチンの場合、地政学はデータ、品質、利用可能性、価値、コストなどの意思決定基準を侵害しかねない。

競争によって、安価な最先端ワクチンの選択肢が国に与えられるのであれば、それは望ましいことである。しかし、超大国がワクチンの供給、価格、特許を武器化したり、「ワクチン外交」で交渉の切り札として利用したりする場合、悪い方向に向かいかねない。

ワクチンは世界基準を巡る米中競争においても大きな意味を持ちうる。米中競争はすでに人工知能スマートシティリチウム電池などをめぐり繰り広げられている。COVID-19ワクチンには研究手法、臨床主要評価項目、臨床転帰、製造のための新しい基準が必要かもしれない。冷戦中、米国とソ連が宇宙開発競争と軍拡競争を展開したように、米国と中国は科学分野における威信、基準を設定する権力、ソフトパワー、経済的見返りの獲得を目的として、ワクチン競争に参入しかねない。

競争によって、安価な最先端ワクチンの選択肢が国に与えられるのであれば、それは望ましいことである。しかし、超大国がワクチンの供給、価格、特許を武器化したり、「ワクチン外交」で交渉の切り札として利用したりする場合、悪い方向に向かいかねない。

競争が起これば、つまりワクチンを選択することがどちら側につくかを選ぶことになるなら、中小国はオーストラリアマレーシアシンガポールがすでに採用しているように、ヘッジ戦略や「ワクチン・ポートフォリオ」アプローチをとることができる。しかし、それでも、ポートフォリオで米国と中国のどちらを重視するのか選ばざるをえない場合、そうした国々は苦境に陥ることになろう。そのような状況を避けるためにも、そうした国々は、COVAXのような国際メカニズムを利用するか、結束して全米保健機構の回転基金や国際児童基金(ユニセフ)のワクチン調達強化イニシアチブなどのモデルを用いた共同調達を利用するとよいだろう。

過酷なパンデミックから1年が過ぎた今、COVID-19ワクチンは歓迎すべき希望の兆しをもたらしている。しかし、この希望を有効な行動に変えるには、政策立案者が遅延、不平等および地政学的リスクの緩和に臨機応変に対応する必要があるだろう。

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この記事は、プロジェクト・シンジケートによって発表されたものです。元の記事はこちらからご覧ください。