福島第一原発の管理 政府に移行する時期か

福島第一原子力発電所(福島第一原発)の事故が発生してから2年半近くが経過したが、同原発の不安定な状態が繰り返しニュースになっている。この数カ月間に、「この出来事は福島第一原発の脆弱な状態を浮き彫りにした」などというような表現が、何度もニュースに登場した。

問題は「この出来事」といわれているものが、1つではないということである。これまで、ネズミの接触による停電、貯蔵タンクからの放射性汚染水漏れ、1基の原子炉からの蒸気の排出があり、ごく最近では、汚染水が海洋に流出していることを東京電力(東電)が認めた。

東電が状況を完全に制御しようと苦闘している間にも、福島第一原発は次々に問題を生み出しているように思える。最近生じている数多くの問題が、東電の玉虫色の安全記録と2011年の原発事故への大きな不備のある対応とともに、損傷を受けた原発の管理を東電が続けられるのか、その能力に重大な懸念が生じるのも当然のことである。

日本の原子力規制委員会(NRA)は先頃、新規制基準を採用し、停止中の原子炉の安全性を審査して再稼働の判断を下すための道を開いた。すでに4社の電力会社が12基の安全審査を申請しており、他の原発の申請もほどなく行われると思われる。

安倍晋三首相率いる自民党が参議院選挙で圧勝したことにより、再稼働の加速を求める声が大きくなると考えられる。NRAは信頼を確立するために十分に厳しい姿勢を貫かざるをえないものの、原発再稼働への政治的圧力が高まっていることも認識している。安全審査を実施するスタッフが80人しかおらず、職員も合計500人ほどという、人員の少ないNRAにとって、こうした状況はNRAをいっそう苦しい状況に追いやっている。

NRAの資源が限られていることを考えれば、1人当たりの対応範囲を引き伸ばすのが賢明なことかどうか問わなければならない。本当に危険なのは、福島第一原発の監視と再稼働申請の審査という両方の業務を、不十分な水準で済ませることから生じうる結果である。

福島第一原発は技術的には「冷温停止」を実現したかもしれないが、安定したというには程遠い状態である。東電は損傷した原子炉に残る溶けた燃料の状態を正確に把握することができず、4号機からの燃料棒の搬出もまだ始まっていない。

東電とNRAは、汚染水の拡散という現在進行中の問題に解決策を見いだそうと今なお苦労している。田中俊一NRA委員長が、汚染水の流出に関する記者会見で、「もっといいアイデアをお持ちなら、教えていただきたい」と発言するほど厳しい状況では、福島第一原発に最大限の注力が必要であることは明白である。NRAと日本政府がもっと多くの資源を投入し、福島第一原発の対応への主導権を強化するのは賢明なことだろう。

最近相次いで発生しているこうした問題は、日本政府が考慮したくないだろうけれども、考慮しなければならない重大な疑問を投げかけている。それは、

というものである。

日本政府がすでに東電をほぼ管理下に置いていることを考えると、次の段階に進んで、福島第一原発をNRAの直接管理下に置くのを止める理由はほとんどない。

国会東京電力福島原子力発電所事故調査委員会の報告書、 黒川レポート が下した重大な結論は、いくつもの警告がないがしろにされたということである。「3月11日より前に予防措置を講じる機会は何度もあった。今回の事故が発生したのは、東京電力がそれらの措置を講じず、原子力安全・保安院(NISA)と原子力安全委員会(NSC)もそれに同調したためである」と述べている。

NRAが歴代の規制当局との差別化に真剣であれば、同じ過ちは繰り返さないはずである。この最近の一連の出来事は、福島第一原発が依然として脆弱であり不安定であることを私たちに警告していると考えるべきだ。

東日本大震災以後、日本列島の地震活動が活発化していることを考慮すると、すでに損傷を受けている同発電所を別の災害が襲う現実的な危険性が残っている。日本には最良のシナリオを当てにするぜいたくは許されない。最悪のシナリオに備えなければならないのだから。

つまり、福島第一原発にさらに悪い事が起こる可能性に備えるということだ。実際、最近の出来事は、また問題が起こる可能性が非常に高いことを示している。

福島原発事故独立検証 委員会の船橋洋一理事長は、「問題を引き起こしたのは法律でもマニュアルでもなく、企業と政治の意志に沿った“予測される”リスクを策定して、同原発が直面し、引き起こす現実的なリスクを提示しなかった人間である」と述べた

大切なのはこの教訓から学ぶことだ。NRAと日本政府は、東電と必要最低限の管理・規制スタッフに依存するのではなく、福島第一原発の直接管理を真剣に考慮すべきときである。それは確かに容易な決断ではないにしろ、優先すべきは政治的配慮ではなく安全性である。原発の再稼働に突き進むのではなく、福島の警告を聞き入れ、まずはその安定化に集中するべきだろう。

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この記事はThe Japan Times2013726日)に発表されたものです。

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著者

クリストファー・ホブソン博士 Christopher Hobson は、早稲田大学政治経済学部の講師で、国連大学の客員リサーチフェロー。それ以前は、国連大学サステイナビリティと平和研究所(UNU-ISP)の「平和と安全保障」部門のリサーチ・アソシエイト。オーストラリア国立大学国際関係学部で博士号を取得し、過去にはアベリストウィス大学国際政治学部の博士研究員を務めていました。