東京ハニー:都市におけるミツバチの役割

東京に暮らす人なら、いや、どの都市でもそうかもしれないが、蜂というものは通常、そう頭に思い浮かべる対象ではないだろう。しかし、ここ10年あまりの間に、パリ、ロンドン、香港、ニューヨーク、シカゴといった大都市で、養蜂家たちが巣箱の設置を始めている。

しかしあなたはご存じないかもしれない。多くの場合、都会の養蜂家というのは目立たず、たいてい巣箱を都市の喧騒から離れた上空にある屋上に設置しているものだからだ。

東京・銀座にある小さな団体が、たくさんのボランティアや支援者を集めて、養蜂のまったく新しい試みを行った。銀座ミツバチプロジェクトは、2006年から屋上でのハチミツの収穫を通じて、見学者やボランティアに都市にいながらにして自然を体験させている。

もともと、屋上に巣箱を設置するのは、ちょっとした奇妙ないきさつから始まった。 田中淳夫さんは、養蜂家の高安和夫さんがミツバチの飼育を始めたいと都市の屋上スペースを探していたとき、ある会議場の管理者だった。はじめ田中さんは、自身の所有する会社の建物の狭い屋上スペースを養蜂用にと提案した。ところが、高安さんは田中さんに向き直って、自分で(養蜂を)やりなさいよ、と提案した。「それでミツバチを飼い始めたのです」と田中さんは回想する。

田中さんはこれに興味を持つと、本業で多種多様なグループや人々と接することから、有志を募るのは自然な流れになり時間はかからなかった。「銀座でコンファレンスホールを経営しているので、そこにさまざまな人が学ぶ場を作りたいと思いました。ここから色々なコミュニティが情報を発信するようになったのです。ミツバチを飼ったときに『協力してよ』と声をかけたときに集まったのが、今のメンバーです」

知識の共有は、銀座ミツバチプロジェクトの発展や運営の拡大だけでなく、農家や生産者と消費者の間に強いつながりを築くのにも大いに役立った。銀座ミツバチプロジェクトは、数ヶ月おきにファームエイド銀座というイベントを開催していおり、このイベントではファーマーズ・マーケットや地域活性化など議題でディスカッションのフォーラム等も行われる。2013年7月の直近のイベントでは、2013年7月の直近のイベントでは、あるパネルディスカッションで、日本が人口減少傾向にある中で都市の住人たちはどうすれば過疎の町を支援できるか、また2011年の東日本大震災と津波の被害からの復興途中である地域の支援について話し合われた。

春から秋にかけて、毎週土曜日にはボランティアや見学者たちがハチミツの収穫を手伝う。生態系の中で蜂が担う役割を分かりやすくするため、受粉を必要とする植物(ブルーベリーなど)を巣箱の近くに植栽し、小学生の社会化見学などで教材として利用されている。

大人にしても、東京の季節の移り変わりに敏感になってきたという、波多江美紀さんのようなボランティアもいる。「ひとつひとつの木や花にとても目が行くようになりました。歩いていても、『あ、花が咲いているな』程度の認識だったのが、『これは何の花でこういう蜜が出て』ということを考えるようになりました」

「この前、ツバメが来ていました。ツバメは銀座のミツバチを食べるし、最初はこんちくしょう、と思っていたのです」と、都市でミツバチを利用する一人でもある田中さんは語る。「でも、すぐそばのデパートの裏にある駐車場に降りていって、ヒナたちにたくさん食べさせている。そういう姿を見ると、ここの生態系がだんだん見えてきました」

田中さんは、ミツバチが花から巣まで蜜や花粉を運ぶという過酷な任務を観察してからミツバチに対して強く共感するようになった。「ミツバチは足に花粉をつけて巣へ帰ります。人間で言えば、スイカ2個を両足にくくりつけて歩いて帰るくらい、たいへんな重労働ですよ」と田中さんは言う。

環境に対する意識は銀座ミツバチプロジェクトの使命のカギとなるもので、この意識はまた、生産者と消費者の関係構築に重要な役割を果たしている。ハチミツをその土地で採れたものとして市場に売り出す方法として、地域のパン屋、ホテル、バー、ビール会社、化粧品メーカーなどとパートナーシップを結んだ。

食物を生産することと食べることを共にしながら、田中さんは関係性は強まり、銀座で地域環境を守りたいと望む人々が増えてきていると考えている。

食物の生産システムにおけるミツバチの重要性を軽視することはできない。ミツバチのような受粉媒介者が世界経済に対してする貢献は、年間2千億米ドルほどにもなり、 上位100種の穀物のうち71種 の受粉を助けている。新しい研究では殺虫剤がミツバチのコロニーに致命的な効果を示している一方で、都市は、蜂群崩壊症候群の恐れのない安全な場所を提供しているのかもしれない。

また一方で、都会で蜂の巣箱が多すぎても問題が生じる。「バイオロジスト」の最近の記事では、ロンドン都心部での養蜂の人気が高まり、増えすぎたミツバチが自身の健康にも地域の生態系にも弊害をもたらすとしている。

代わりに都会の住人は、ミツバチが蜜を集められる場所を増やすために、花を植えたり庭に植物を植えたりするべきだ。養蜂家志望の研修員、大石あす香さんは、人々にミツバチは何もしなければ、刺すことはほとんどないということを知ってほしいという。またあまり邪険にしないでほしい、とも。そして「ミツバチのために、少しでも何でもいいので花を植えたり植物を育てることをしてほしい、庭の片隅でもいいのです」と大石さんは言う。

都会のミツバチは大規模な農業生産の一旦を担っているというわけではないかもしれないが、それでも都市の景観を活気づける重要な要素を提供してくれている。同様にミツバチは地域のつながりや建物の環境への意識を高めてくれる、立役者でもあるのだ。

翻訳:華山朝子 / ユージン小林

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著者

ユージン小林氏はフリーランスのビデオグラファーで、以前は国連大学のコミュニケーションオフィスのインターンだった。彼はより持続可能で衡平な世界づくりにビデオを通して貢献したいと望んでいる。