持続可能な五輪の先駆けに

2020年東京五輪・パラリンピックに出場するアスリートたちは、日本の「都市鉱山」で採取された金、銀、銅を原材料とするメダルを受け取ることになる。「都市鉱山」とは廃棄されたスマートフォンや家電製品からなる資源のことである。このイニシアチブは環境にやさしい五輪の実現を目指す国を挙げた取り組みの一環であり、有望(かつ必要)な第一歩だ。しかし、これは先の長いレースの中での一歩に過ぎない。

2年後に控えて日本は大きな指針である「より持続可能な大会の実現」など喫緊の課題の解決に追われている。リオデジャネイロ、ソチ、ロンドンの各大会を見る限り「青い地球のためのグリーンオリンピック」といった誓いにもかかわらず持続可能性に関して実績を積み上げてきたとは言えない。では、日本はどうすれば成功に導くことができるのだろうか。

第一として、国際オリンピック委員会(IOC)と現地の主催者は明確かつ実践的なアプローチに徹しなければならない。日本特有の課題や機会を特定し、オープンな議論を行いながら達成可能で透明性のある目標を設定する。12年のロンドン五輪は「廃棄物ゼロ」「二酸化炭素排出ゼロ」を宣言したが、目標達成には遠く及ばず、大会の評判が損なわれる結果となった。廃棄物ゼロのプランは非現実的だが、重要な廃棄物カテゴリー(消費者製品、建設資材など)の大幅な削減を目指すプランは目覚ましい成果を生む可能性がある。

第二に、主催者はこれらの目標を確実に達成するための新しく独創的な方法を編み出さなければならない。例えば、大会期間中に消費者廃棄物の90%を目標に収集・リサイクルしたいのであれば、認可を受けた業者と提携して包装を削減したり、指定収集所でのごみのリサイクル活動に参加した消費者を対象に画期的な報酬(割引券、景品、または預かり金の返還など)を提供し、その参加を促したりすることができる。また、典型的なゲーム要素「ゲーミフィケーション」(ポイント方式や仲間同士の競争など)を取り入れることによって関与を促し、大きな成果を生む可能性がある。ゲームであればだれもが楽しむことができる。

最後に第三として、オープンで包括的な戦略プロセスを確立しなければならない。現地企業や自治体、関心を持つ団体に幅広く意見や支援を求めることによってだれもが貢献、協力できるようになる。例えば、16年のリオ五輪では主催者がリサイクルの物流管理と観客への啓発に関して現地の協同組合と緊密に協力した。その結果、協同組合はリサイクル材から収益を得ることができた。すなわち、ウィンウィンのシナリオである。

東京が表彰台に上がれるような結果を達成できるかどうかは、実施される戦略プロセス、関わる当事者、そして主催者が五輪のガバナンスに革新的なアイデアをどれだけ進んで取り入れるかにかかっている。

しっかりとした計画立案を行うことで、東京五輪は世界的なイベントに持続可能性を根付かせた先駆けとして将来のオリンピックの模範となることができる。

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この記事の初出は毎日新聞に掲載されたものである。

著者

ルーディガー・キュールは、国連大学副学長欧州事務所(UNU-ViE)所長。
国連大学持続可能なピース・サイクル研究所の代表として持続可能な生産、消費、処分問題に取り組み、E-waste問題を解決するイニシアチブ事務局長も歴任した後、現職に就く。
ヴェストファーレン・ヴィルヘルム大学心理地理学士、同大学政治学修士、オスナブリュック大学経済社会学博士を取得。
E-waste: From Recycling to Resources (電気電子機器廃棄物:リサイクルから資源まで)』(2010)、「2008 Review of Directive 2002/96/EC on waste electrical and electronic equipment2008年電気電子機器廃棄物(WEEE)における欧州議会・理事会指令2002/96/EC)」を含む書籍、研究、議事録を共同で執筆、編集。