スザンヌ・ゴールデンバーグ氏はワシントンDCに拠点を置くガーディアン紙の米国環境特派員である。中東での記者活動により数々の賞を受けており、2003年には米国のイラク侵攻をバグダッドで取材。著書にヒラリー・クリントンの歴史的な大統領選出馬を描いた「Madam President」がある。
米国の気候変動対策法案は現在どのような段階にあるのだろうか?
バラク・オバマ大統領は、コペンハーゲン会議で米国の気候変動問題への取り組みを明言し評価を得た。そしてオバマ大統領の発言が実現できるかどうかは今、議会の手に委ねられている。昨年6月にワックスマン・マーキー法案が下院を通過した。これは炭素に価格を設定し、温室効果ガス排出量に徐々に厳しい排出制限を設けていく法案であり、2005年レベルと比較して2020年までに17%、2050年までに80%の削減を提案している。
昨年11月、カリフォルニア州選出の民主党バーバラ・ボクサー上院議員は、ほぼ同じ内容の法案を上院の環境委員会で採決した。しかし上院での議論は行き詰っている。ボクサー議員は共和党のボイコットにも関わらず、自らが率いる委員会で法案を採決した。しかし、医療改革をめぐって熾烈な闘いを終えたばかりの民主党は、共和党とのさらなる正面対決に弱腰だ。
米国の環境団体は、本年度中に上院が気候変動対策法案を成立させるチャンスはまだ残っていると話す。上院の民主党ジョン・ケリー議員、共和党リンゼイ・グラハム議員、無所属のジョー・リーバーマン議員の3名は、両党の上院議員から支持を得られるような気候変動法案を草稿中である。ケリー議員は昨年末、青写真を今月末までに提出すると公約した。上院での議論は春から始まると見られている。
オバマ大統領がコペンハーゲンで行った13時間におよぶ外交は、彼の決意を証明するものとして受け止められた。この決意こそが法案成立に向け弾みをつけると期待されている。温室効果ガスの主な排出元である国々によるコペンハーゲンでの合意は、サミットに期待された成果からは程遠いものの、中国から温室効果ガスの排出量削減に取り組み、削減方法を公開するという重要な譲歩を引き出すことができた。これにより、中国が責任を果たしていない、米国はエネルギー改革を行った場合に競争上の優位性を失う、という議論を和らげることができるだろう。
法案は必ずしも同様とはいかないであろう。ケリー議員とグラハム議員は共和党の支持を得るつもりだ。これはつまり、環境活動家が多くの妥協を強いられるということを意味している。その一つが原子力エネルギーの利用拡大であり、共和党は原発建設のための低利ローンや法的整備を政府に求めるであろう。海洋石油掘削への圧力もある。他にも温室効果ガス削減義務を課せられる産業の限定などが考えられる。現在協議中の提案は、原子力発電所にのみ排出削減を求めるものである。
民主党は2010年の選挙で上下両院での敗北が予想されおり、これによって気候変動関連法案成立の見通しはさらに暗くなる。しかし、2010年の選挙が迫っていることですでに影響が出ている。
民主党のリーダーたちは、何よりもまず気候変動対策法案を2010年の春までに成立させる必要があると述べている。しかし、石炭および旧産業を中心とする州選出の民主党議員は、2010年11月に中間選挙を控え、全面的なエネルギー・気候法案に賛成することには慎重だ。石油、石炭および製造業の関連団体は、提出される法案が失業率を悪化させ、家庭暖房費の値上げにつながる政策であると訴えるために何百万ドルも投入している。
気候変動対策法案は上院で行き詰るかもしれないが、連邦政府や一部の州、市は前進しており、経済界も賛成している。オバマ政権は自動車に対する燃費基準の設定を提起している。米国一大きなカリフォルニア州では、電力会社に対して2020年までに電力の3分の1をクリーンで再生可能なエネルギーで発電することを命じた。 そして最も注目すべきは、環境保護庁が先月、温室効果ガス排出規制を開始すると述べたことである。しかし、共和党は環境保護庁の関与を望んでいない。上院では環境保護庁の規制措置延期に関して1月20日に投票が予定されている。
コペンハーゲン会議における主要な成果の一つは、先進工業国が2020年より年間1,000億円の資金提供を行ない、温暖化の被害を最も受けやすい国々が気候変動に対処していくのを支援するという合意である。しかし、米国は1,000億円のうち自国の負担金を炭素市場から捻出すると約束しており、この炭素市場とは気候変動対策法案によって成立する市場である。オバマ政権関係者によれば、米国は負担分を政府資金のみならず様々な方法で集めるとしている。つまり気候変動対策法案が成立しなければ、米国の炭素市場もなく、貧困国への資金提供も大幅に減額されることになる。
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この記事は2010年1月7日(木)にguardian.co.ukに掲載されたものである。
翻訳:森泉綾美
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