国連はテクノロジーの未来に向けた新たな進路を示している

今年9月、国連加盟国は一世一代の会議のためにニューヨークに集まる。「より良い明日に向けた多国間の解決策(multilateral solutions for a better tomorrow)」のテーマの下、未来サミットで世界の指導者たちが国際協力の必要性を再確認し、私たちの共通の未来を守る方法について合意するために一堂に会する。

憂慮すべきことに、持続可能な開発目標(SDGs)達成まであと6年を残すのみとなった現在、2030達成できる見込みがあるものはわずか17%に過ぎない。深刻化する紛争、沸騰化する気候、不確かな経済見通しの中で、未来サミットはSDGsの達成とその先に向けて私たちのコミットメントを再調整するための絶好のタイミングで開かれる。

未来サミットでは、マルチラテラリズム(多国間主義)の基本的要素である協議、集団的意思決定、信頼、そして連帯に再び注意を向け、「未来のための協定」の採択をもって結実する。デジタル協力や開発資金調達から、平和と安全、雇用、ジェンダー平等、若者の参画に至るまで、現在、そして新たに生まれる課題によりよく取り組むために、グローバルなガバナンスを再構成するための協定である。

この協定には2つの重要な附属文書がある。1つ目は「将来世代に関する宣言」であり、一連の目標と行動を通じて、現在の要求を満たしながら、誰一人取り残さない持続可能な未来のための利益と必要条件を守ることを約束するための文書だ。

2つ目は、「グローバル・デジタル・コンパクト」である。これは、SDGs達成に取り組み、人権に根差した安全で人間中心かつ公正なデジタル未来を開拓するために、デジタルとデータにおける格差の克服を目指す包摂的でグローバルな枠組みを確立するための文書だ。

グローバル・デジタル・コンパクトの持つ重要性を語り尽くすことはできない。テクノロジーは猛烈なスピードで変化し、デジタルイノベーションは私たちの生活のあらゆる側面に影響を及ぼしている。私たちは、地域やジェンダー、社会グループ間に存在するデジタル格差を積極的に解消し、技術の進歩がもたらす潜在的な悪影響を予見し、それと闘うための国際的ガバナンスの新しい形を見出さなければならない。

デジタルイノベーションに対する私たちの野心を、平等、平和と安全、人権を中心に展開させる必要がある。この目標から私たちが目を離さないようにするために、グローバル・デジタル・コンパクトが打ち出される。

デジタル・コンパクトの現在の草案を作成するために、徹底的に開かれたプロセスがとられてきた。世界中の民間セクター、市民社会、学術界、政府を含む6,000を超える団体が、オンライン協議を通じて意見を述べた。その結果は包括的で、私たちがデジタルの未来に乗り出すための方向性と展望を示してくれるだろう。

グローバル・デジタル・コンパクトに含まれる一つ一つの指針は、デジタル・コンパクトのコミットメントを実現し、行動を起こすために不可欠である。そしてSDGsと同様に、こうした指針は互いに重なり合い、補強し合っている。

こうした指針のいくつかは、人工知能(AI)のようなテクノロジーの力を活用して持続可能な開発を達成しようとする私たちの取り組みと特によく一致する。

第1に、デジタル技術は環境的に持続可能でなければならない。AIは、農業や物流からエネルギー、気候モデリングに至る分野で、新たな効率性と環境面での利益を引き出す大きな可能性を秘めている。

しかし、安全なテクノロジーの未来を確保するためには、デジタルソリューションが環境面の利益を損なう可能性があることに注意を払わなければならない。例えば、非常に大規模なコンピュータサーバーの需要は膨大な量の水の消費につながり、すでに水不足に陥っている世界やその農業システム、人々の基本的な水需要に新たな負荷を与える。

デジタル技術を作り上げて動力を供給するために必要な原材料を発見し、より効率的に使用する上でAIが一役買っているが、同時に私たちはこうした技術と私たちの消費および生産パターンが環境に与える負荷のバランスを取らなければならない。デジタルテクノロジーというチェーンは、材料というさまざまな種類のリンク(輪)で構成されている。そのすべてのリンクについて、持続可能性と環境面での利益と損失を評価する必要がある。

第2の重要な原則として、AIなどのデジタル技術はイノベーションの醸成に適したものであるべきだ。これは国や民間セクターの政策を超えて、グローバルなレベルに及ぶ原則である。経済的および地政学的競争はテクノロジー部門に常に影響を与えるだろうが、グローバル・ノースとグローバル・サウスの間のパートナーシップを意図的に促進しなければ、デジタル未来は不平等をますます悪化させるだろう。

AIやその他のテクノロジーを活用して持続可能な開発をめぐる継続的な課題を克服するためには、そうした課題に直面している地域から、パートナーシップなどを活用しつつ、デジタルイノベーションを生み出す必要がある。

これはまた、新しいテクノロジーが「ブレイン・ドレイン(頭脳流出)」といった問題にもたらす影響にもつながっている。ブレイン・ドレインとは、ある国の最も優秀な労働者層が、より高賃金で成功を収められる外国の仕事を求めて自国を離れる現象を指し、私の母国である南アフリカですでに懸念されている。南アフリカでは、医療部門で医療従事者が不足しているのだ。

現在、AIの研究開発の多くが米国で行われているように、革新的なテクノロジーの開発に焦点を当てた仕事が少数の国に集中すれば、その他の国々が高度な技能を持つ労働力を育成し、維持することはますます困難となるだろう。こうした傾向により、国内にいる「頭脳」が、自国の経済および開発課題への解決に貢献しない仕事にばかり取り組むようになるリスクがある。

これは、デジタル技術は持続可能な開発を重視しなければならないという第3の原則にもつながる。技術的進歩が、直接関係する状況や国を超えて、さまざまな問題をどのように解決するのか、そしてデジタルイノベーションをさまざまな地域、社会、経済のニーズにどのように適合させることができるのか、私たちは自問し続けなければならない。

国際協力を通じてデジタルとデータの格差を埋めるという目的を堅持すれば、グローバル課題への答えを追求するようなテクノロジー文化を後押しすることができる。これは、すべてのSDGsを迅速に前進させるために不可欠なことである。

私たちは類例のない時代に生きているため、未来サミットは類例のない会議となるだろう。持続可能な開発への道筋の成否を決める力を持つ技術革命を、私たちは開始しようとしている。しかしながら、次世代の開発課題を先取りして克服するためには、新たなビジョンが必要である。

アントニオ・グテーレス国連事務総長の言葉を借りれば、「私たちの祖父母のために作られたシステムで、私たちの孫のための未来を築くことはできない。」未来のための協定、将来世代に関する宣言、そしてグローバル・デジタル・コンパクトは、新たなシステムと大胆な行動の基盤となるだろう。

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この記事は最初に The Japan Timesのウェブサイトに掲載されたものです。The Japan Timesウェブサイトに掲載された記事はこちらからご覧ください。

著者

チリツィ・マルワラ教授は国連大学の第7代学長であり、国連事務次長を務めている。人工知能(AI)の専門家であり、前職はヨハネスブルグ大学(南ア)の副学長である。マルワラ教授はケンブリッジ大学(英国)で博士号を、プレトリア大学(南アフリカ)で機械工学の修士号を、ケース・ウェスタン・リザーブ大学(米国)で機械工学の理学士号(優等位)を取得。