人々を中心にすえた持続可能な開発

2012年1月30日に発表された新たな国連の報告書は、社会的および環境的コストを経済活動の評価に取り入れる必要性を訴え、各国のリーダーたちに地球と人間の長期的な回復力への取り組みを求めた。

地球の持続可能性に関するハイレベル・パネルによる報告書は、国内総生産という従来の手法を超えた、一連の持続可能な開発指標の必要性を訴えた。また、グローバルな行動を引き起こせるような持続可能な開発目標の策定と実行を各国政府に提言した。

同報告書はアフリカ連合(AU)サミット開催中に発表された。その際、潘基文(パン・ギムン)国連事務総長は、持続可能な開発が2期目となる自身の就任期間において最優先課題であると明言した。

「私たちは未来に向けて、新しく、より持続可能な進路を定める必要があります。それは地球を守りながら平等と経済成長を強化する進路です」と彼は語った。

潘氏は2010年8月、22人のメンバーからなるパネルを設置し、フィンランドのタルヤ・ハロネン大統領と南アフリカのジェイコブ・ズマ大統領を共同議長に迎えた。パネルの目的は、持続可能な開発と低炭素社会の発展に向けた青写真を作成することだった。

ハイレベル・パネルの最終報告書『回復力のある人々、回復力のある地球:選択に値する未来』には、持続可能な開発を実行に移し、できるだけ早く経済政策の主流に取り入れるための56項目からなる提言が含まれている。

ハロネン大統領は持続可能な開発達成の中心に人々を置くことの重要性を強調した。

「貧困の根絶と平等性の促進は、引き続き国際社会の優先課題としなければなりません」と彼女は語った。「ハイレベル・パネルは、女性のエンパワーメントと経済における役割の拡大が持続可能な開発に欠かせないとの結論を下しました」

同報告書は、2012年6月にブラジルで開催される国連持続可能な開発会議(リオ+20)に向けた準備に役立てられる。報告書の要点の1つは、今日売られているほとんどの商品やサービスには生産や消費に関連した環境的および社会的コストが完全には含まれていない点である。

「私たちは科学に基づき、時間をかけて、適切な価格設定の方法論についてコンセンサスを得なければならない。環境的な外部不経済性に金銭的負荷をかければ、グリーン成長やグリーン企業に新たな機会を与えられるかもしれない」と報告書は記している。

報告書は、持続可能性の問題に関する意志決定に不可欠な指針として、科学の重要性を強調している。また国連事務総長に対し、各部門や各組織の知識を統合した、持続可能な開発の展望に関する定期的な報告を行う取り組みを率先して行うことを求めると共に、科学諮問委員会あるいは学術顧問ポストの創設を検討するように訴えた。

また報告書は、持続可能な開発に向けた大きな転換において、男女共同参画が重要であると強調している。

「人類の集合的な知性と能力の半分は、未来の何世代もの人々のために私たちが育み、開発すべき資源である」と報告書は述べている。「女性が経済的エンパワーメントを十分に獲得することで、世界はさらなる成長を遂げる可能性が高い」

報告書は持続可能な経済のための提言として、化石燃料への補助金やその他の「ゆがんだ、あるいは貿易歪曲的な」補助金の段階的廃止を2020年までに実現させることを挙げている。しかし、燃料への補助金削減をめぐるナイジェリアでの政情不安のように、こうした決定は政治的に不人気となる可能性がある。報告書は政治への微妙な影響を認識し、補助金削減は貧困層を保護する方法で行わなければならないと述べている。

報告書は各国政府に対し、持続可能な長期的投資を促進するために金融市場の規制を変更するように求めている。また同報告書は、持続可能な開発に関連する経済、環境、社会といった側面を網羅した国家戦略の調整を財務省の権限で行うノルウェーの事例を挙げている。

この戦略を実行に移すために、ノルウェーは持続可能な開発を年度予算に組み入れた。毎年の年間予算書は、各省庁や統計局が持続可能な開発戦略にどの程度貢献したかなど、継続調査の報告に1章を割いている。

ハイレベル・パネルの報告書によると、ノルウェーは持続可能な開発目標に国の行動がどの程度伴っているかを監視する上で極めて重要な18の指標を策定した。

オックスファムはハイレベル・パネルの視点を歓迎しながらも、パネルの提言は弱いと述べた。

「女性の権利や、農業がより高い資源効率性や生産性を獲得できるように「永続的にグリーンな」革命の必要性を強調した点は有益です。しかし、食料システム改革に関する具体的な提言が希薄です」とオックスファムのサラ・ベスト氏は語った。「同報告書は提言を実行するための財源に関して何も触れていません。例えば、船舶や航空機による国際輸送への課税、あるいは金融取引税を通じた財源策は、気候金融に関する国連パネルによって支持されています」

ハイレベル・パネルの今回の報告は、グロ・ハーレム・ブルントラント元ノルウェー首相が画期的な報告を発表してから25年後に提出された。ブルントラント報告書は持続可能な開発を「将来の世代がニーズを満たす能力を損なうことなく、現在の世代のニーズを満たす開発」と定義づけた。

「ブルントラント報告書の発表以来、世界は、目の前にある相互に関連した課題をより深く理解すると共に、持続可能な開発は未来を選択するための最良の機会を提供するという事実を理解するようになった」と同報告書は述べる。「つまり、正しい選択をし、持続可能な開発へ向かって確実に進むために、私たちは歴史上、好都合な時期にいるということである」

翻訳:髙﨑文子

Copyright The Guardian. All rights reserved.

著者

マーク・トラン氏は国際ニュースのレポーターであり、ガーディアン紙の特派員記者としてワシントン(1984~1990年)およびニューヨーク(1990~1999年)で活動した経歴を持つ。