2021年の洪水:国連の研究者が気候変動リスクへの備えの強化を目指す

20217月、ドイツ、ベルギー、オランダなど欧州数カ国が壊滅的な洪水に見舞われ、死者や広範な被害が発生した。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最新報告書によると、こうした異常気象事象は今後数十年で、頻度と強度が共に増すと予想されている。

気候変動のリスクを理解し、脆弱性を軽減する方法を検討するため、国連大学の研究機関であるドイツの国連大学環境・人間の安全保障研究所(UNU-EHS)、ベルギーの国連大学地域統合比較研究所(UNU-CRIS)、そしてオランダの国連大学マーストリヒト技術革新・経済社会研究所(UNU-MERIT)は「国連大学気候レジリエンス・イニシアチブ」を立ち上げた。

このイニシアチブは、欧州の主な洪水被災国や世界の洪水多発地域のパートナーと協力し、知識を共有して政策を形作り、将来の異常気象事象への備えを強化するための行動を促進することを目的としている。

過去最高の水位

2021年7月12~15日にかけて、欧州地域に低気圧が停滞し、大雨と洪水をもたらした。ドイツでは48時間のうちに1カ月分もの降雨量を観測した。雨の多い春を経て土壌はすでに高い飽和状態にあり、河川を直線化してきた経緯により川が蛇行する余地もほとんどなかったことも相まって、かつてないほど高い水位に達したのである。欧州全体で200人以上の死者が出た。建物が倒壊し、道路や鉄道が寸断され、数千人が家を失い、経済的損失は数十億ユーロにのぼった。

ベルギーのUNU-CRISの教授であるニディ・ナガバトラ博士によれば、この事象は地域社会や政策決定者の双方にとって「衝撃的」であった。

「この地域は経済的に安定しているため、気象災害に強いという錯覚がありました。しかし途上国、先進国、新興国を問わず、すべての地域が気候変動の影響に対して脆弱であることを(今回の洪水が)明らかにしたのです」と彼女は言う。

備えと対応の落差を明瞭化

国連大学の気候レジリエンス・イニシアチブは2022年2月8日に発足したばかりでまだ初期段階にあるが、昨今の事例から、2021年の洪水に対する備えと緊急対応には落差があったことがすでに明らかになっている。例えば、報道を分析すると、情報の流れに格差があり、連携や協力が欠如していたことがうかがえる。

気候変動は国境内にとどまる問題ではないため、国境を越えた協力を強化することで、損失を抑え、より効率的な災害リスク管理が可能となる。

また、早期警報システムにも強い関心が寄せられ、より効率的なシステムであったならより多くの命が救えたかに関して、議論が盛んに行われている。

「早期警報システムや予報モデル、気象予報、予測シナリオの構築などにおける技術的進歩にもかかわらず、人命が失われました」とニディ・ナガバトラ博士は言う。

人々の意識やリスクの認識、行動にも格差があることが明らかになっている。気候変動リスクがはらむ危険性について地域社会で認識を向上させる手段として、情報共有イベントの開催や学校における気候変動教育があげられる。

未来への適応

洪水被災地域で復興が進められていく過程で、気候レジリエンス・イニシアチブは、今後の気候変動リスクを軽減するために、どのようにすれば地域がより良い復興(build back better)を実現できるか評価していく。

「洪水を電話や命令で止めることは不可能です。しかし、既存や新興の技術革新を、公共サービスへの信頼や、テクノロジーやデジタル面での取り組み、社会組織での訓練、自然を基盤とした解決策(NBS: Nature-based solutions)などの環境保護領域のソリューションの導入と組み合わせれば、対応はできます」とオランダのUNU-MERITのセルダル・トゥルケリ博士は言う。同博士はUNU気候レジリエンス・イニシアチブの適応および持続可能な変革の分野で共同責任者を務めている。

彼のチームは、例えば災害前の訓練や災害時のリアルタイムの支援を提供できる教育用ゲームやデジタル・アプリケーションに加え、最先端のアルゴリズムや衛星画像、ウェブトレンド予測の活用方法について研究している。

気候レジリエンス・イニシアチブはまた、復興過程におけるメンタルヘルスとトラウマの役割にも重点を置いていく。ドイツのUNU-EHSのミヒャエル・ハーゲンロッハー博士は「復興段階において、いつ、どのような転換点を迎えるかは、メンタルヘルスの状態に大きく左右されるため、この点をさらに調査していきたい」と述べている。

国際的なネットワークの活用

国連大学の3つの機関が協力することで、それぞれに異なる強みを引き出すことができる。UNU-EHSは脆弱性とリスクの理解を深めることに注力しており、UNU-CRISは越境協力と気候変動外交についての専門知識を有し、UNU-MERITは気候変動へのレジリエンスを支援するイノベーションとテクノロジーに特化している。

また、国際的な大学である国連大学の研究者は、そのグローバルなネットワークを活用し、研究を広めるとともに政策に向けた情報提供を行う。

「私たちは対話、情報交換、学習の促進を目指しており、この地域で起きた過去の事象からだけでなく、世界の他の地域からも学ぶことができると確信しています」とミヒャエル・ハーゲンロッハー博士は述べる。具体例として、気候レジリエンス・イニシアチブは、バングラデシュの警報システムに関する研究や、ベトナムや西アフリカの洪水リスクと適応に関する研究を参考にしていく。

初期の研究成果は、洪水発生から1年を機に、2022年7月にオランダのマーストリヒトで開催されるナレッジサミットで発表される予定だ。同サミットには、欧州および世界の洪水多発地域から科学者、被災者、ボランティア、政府関係者、市民社会、若者、政策立案者が参加する。

結びに、ミヒャエル・ハーゲンロッハー博士は次のように語る。「知識の共同創造とパートナーシップは、国家や地域における政策採用を促す重要な手段です。そして、国家間の情報交換の促進によって、世界中の政策への反映を促すことも期待されます。」

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2021年夏の異常洪水は、ベルギー、ドイツ、オランダなど欧州数カ国で数百人の死者と数十億ユーロ規模の被害をもたらした。しかし、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最新報告によると、現在「異常」と呼ばれるこのような気象事象は数十年以内に「ニューノーマル(新しい常態)」になる可能性が高い。これは警鐘である。私たちはより頻繁で大規模な洪水に加え、より長期的な干ばつ、より暑い夏や寒い冬に、直ちに備えなければならないのだ。そうした備えは、リスク管理、地域社会の準備体制、緊急対応、保険市場、多層的なガバナンス、持続可能な変革に、様々な形で重点を置くべきだと、国連大学の新しい共同イニシアチブは指摘している。

気候変動がもたらす国境を越えた影響に鑑み、ブルージュ(UNU-CRIS)、ボン(UNU-EHS)、マーストリヒト(UNU-MERIT)における国連大学の各研究所は、このテーマに特化した「ナレッジサミット2022」に先駆け、共同で「国連大学気候レジリエンス・イニシアチブ」を立ち上げた。このイニシアチブは、欧州の主な洪水被災国や世界の洪水多発地域のパートナーと協力し、知識の共有や政策の形成、行動の促進を図り、最終的には受動的で脆弱な状況から積極的な適応やイノベーション、そして変革へと焦点を移すことを目指している。この重要なナレッジサミット2022に向け、国連大学は、政策提言に重点を置いたアウトプットと様々なアウトリーチ活動に裏付けられた長期的な研究課題を策定するため、ステークホルダーとの協議や事実調査団に加え、文献調査や実地調査を主導していく。

著者

国連大学マーストリヒト技術革新・経済社会研究所(UNU-MERIT)は、オランダの南東に拠点を置く国連大学(UNU)およびマーストリヒト大学(UM)の研究・研修所です。UNU-MERITでは、とくに知識の創出と普及、アクセスに注力し、技術上の変化やイノベーションを推進する社会・政治・経済的要因についての洞察を提供しています。