被災者のための復興支援プロジェクト

マグニチュード9.0の地震とそれに続く津波により、日本のインフラストラクチャーは広い範囲でマヒ状態に陥った。最も深刻な被害を受けた地域では、生活基盤を支える電気やガスが使えなくなり、復興作業が始まってからも十分な供給は得られなかった。

幾つかの団体が被災者の生活を再建するためクリーン・エネルギーを供給する支援に乗り出した。その1つが、東京に事務所を構える独立系非営利研究組織の環境エネルギー政策研究所(ISEP)だ。ISEPは復興支援プロジェクトを4月に開始し、被災した東北沿岸250キロメートルの地域社会に再生可能エネルギーを供給している。東日本大震災「つながり・ぬくもりプロジェクト」を通じて、太陽光パネル、太陽熱温水器、バイオマス・ボイラーが、地元で手に入る資源を利用して設置された。

同プロジェクトには528件の寄付が寄せられ、4024万5819円(およそ52万4769ドル53セント)が集まった。この活動は東北地方の避難所や公共施設、仮設住宅に、電気、お湯、お風呂を提供することに重点を置いている。9月20日時点で、太陽光パネルは84枚以上、太陽熱温水器は28台、バイオマス・ボイラーは5台がすでに設置された。

太陽エネルギーの力を活用する

自然エネルギー事業協同組合などの支援団体や「つながり・ぬくもりプロジェクト」のメンバーや太陽エネルギー技術の専門家たちの協力により、太陽光パネルが公共施設や避難所に設置されたおかげで、住民たちは曇りの日や夜間でも安定した電力を利用することができる。

同プロジェクトのボランティアで岩手県大船渡出身の新沼たけゆき氏が活動に参加する決断をしたのは、仕事を失い、津波によって大打撃を受けた故郷の町を見たあとだった。新沼氏は現在、地域の人たちに自身の知識を伝えようとしており、NHKの「エコ・チャンネル」に次のように語った「とりあえず今は電気が使えるようになったので、次は電気のない地域を助けたいと思っています」

新沼氏には電気技師としての経験は一切なかった。「つながり・ぬくもりプロジェクト」を通じて、地域の持続可能な復興にとって重要な技術を新たに身につけたのだ。同プロジェクトは地域の労働力と資源を活動に取り入れることに特に重点を置いている。

石巻の太陽光パネルは1.7キロワット時の発電が可能であり、これは携帯電話500台 を充電できる電力量だ。さらに今回の活動は、コミュニティーが最も必要としているポジティブな姿勢を与えてくれた。

warmth_survivors-quote宮城県石巻では、地元の電気店の従業員たちがプロジェクトのボランティアたちと協力しながら、神社に作られた地元の集会所に太陽光パネルを設置している。プロジェクトが石巻の住民の短期的な要望と長期的な要望の両方にどのように応えようとしているかについて、「つながり・ぬくもりプロジェクト」のメンバーの武内賢二氏はNHKに次のように語った。

「将来的にはこの活動をもっと大きくして、主に太陽エネルギーで生活していけるように自然エネルギーの発電所を作れたらいいと思います。そして今回の震災で仕事を失った人々を中心に、雇用していきたいと思っています」

石巻の太陽光パネルは、天気のよい日なら1.7キロワット時を発電できる。これはほとんどの家電製品をまかなうのに十分な電力量で、例えば携帯電話500台を充電できる。さらに同プロジェクトの活動場所である地元の神社で宮司を務める大国龍笙氏は、今回の活動が、ポジティブな姿勢というコミュニティーが最も必要としているものを与えてくれたと感じている。「ここに電気が通っただけでも、希望が見える感じがします」と話した。

将来的に「つながり・ぬくもりプロジェクト」は、こうした太陽エネルギープロジェクトを地域の学校にも導入したいと考えている。電力源を提供するほか、子供たちに再生エネルギーの有効性を教え、同分野の未来のリーダーに知識と経験を授けることを目指す。

単純な安らぎ

三重苦の災害直後、被災地は何週間もの間、凍えるほどの気温にさらされ、ガスがほとんど使えない状況に直面した。最も被害の深刻だった地域では復興作業がなかなか進まなかったが、「つながり・ぬくもりプロジェクト」は太陽熱温水器を設置し続けている。天気のよい日には、水温はセ氏50~60度にまで達し、住民はそのお湯を使って皿を洗ったりお風呂に入ったりすることができる。

warmth_survivors-quote2ある村では、近くの小川から水を引いている。このような持続可能な資源を利用した太陽熱温水器は、被災した住民の生活に不可欠な温水を確実に提供することができる。さらに、復興過程で生じる住民や村の負担も低減できるため、将来的に太陽熱を利用したより多くの温水プロジェクトを開始したり維持したりするための長期的なインセンティブとなる。

プロジェクトの中心的特徴の1つに、再生可能な資源から得られるエネルギー源が多様であることが挙げられる。1つの電力源(例えば原子力発電)に大きく依存しないこのような分散的なシステムには、レジリアンスが内在している。つまり実際に、システムの一部が大きな打撃を受けた場合にも、その他のエネルギー源が住民に電力と快適な環境を提供し続けられるかもしれない。例えば太陽熱温水器がちょっとした作業(例えば皿洗い)に使う貴重な温水を提供する一方で、薪ボイラーはシャワーやお風呂に使う大量の水を温める。

震災で最も大きな被害を受けた地域でさえ、バイオマス・ボイラーを活用することで、日本文化の重要な一部である温泉が利用されている。

こうしたバイオマス・ボイラーは設置費用が手頃で、メインテナンスも簡単である。温水の安価な作り方を地域住民に教えるために、バイオマス・ボイラーをトラックの荷台に設置し地域じゅうを移動できるようにした。

ボイラーの燃料を入手することは東北では難しくない。津波に襲われた地域には大量のがれきが残っており、がれきの撤去は多くの費用と時間を要する。しかし、がれきを集めてボイラーの燃料にすれば、撤去作業の負担を低減できる上に、燃料代はほとんどかからないということに地域住民は気がついた。つまり、文字どおり一石二鳥というわけである。

お手本となること

再生可能エネルギーを利用することで、壊滅的な被害を受けた東北地方の復興はより速く、より強く、よりよい方向に向かっている。さらにこのプロジェクトが成功すれば、再生可能資源の利用や促進を目指す同様のプロジェクトの発展のひな形となる。

「つながり・ぬくもりプロジェクト」事務局の黒住麻理氏は、このプロジェクトがISEPの今後の活動に与える影響についてOur World 2.0に話してくれた。

「インフラストラクチャーが崩壊した際に再生可能エネルギーが非常に役立つということを再認識しました。それと同時に、再生可能エネルギーの活用法と理解を広める機会は非常に多くあることも改めて分かりました」

「つながり・ぬくもりプロジェクト」は復興支援活動を2012年9月に公式に終了することになっているが、東北での活動はさらに拡大する予定だ。現在、「再生可能エネルギー・スクール」の開校も計画されている。再生可能エネルギーのシステムをどのようにしたら簡単に構築し維持できるか、あらゆる年齢層の地域住民とアイデアを共有する取り組みだ。また、同プロジェクトは地方政府とより緊密な連携をとり、地域の復興計画の一部に再生可能エネルギーを取り入れる政策を推進したいと考えている。

「つながり・ぬくもりプロジェクト」は、最も困難な状況下においても持続可能なエネルギーが地域社会のためにうまく活用できる理由と方法を実証している。教育を中心に置いたアプローチを利用することで、このプロジェクトは従来の復興支援活動の方法を超えて前進している。ISEPとのパートナーシップで開発されたこのモデルは政策立案者の一考に値するものであり、限られた選択肢しかないエネルギーに依存する現状に革新的な方向性を示している。復興支援プログラムとして東北の被災地に導入された活動は、場所を問わずあらゆる地域社会に、つながりとぬくもりをもたらす可能性を秘めているのだ。

翻訳:髙﨑文子

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著者

マーナ・ロマノフ氏は、アメリカ合衆国中西部と日本での仕事の経験がある。現在、国連大学メディアセンターのインターンであり、2012年3月に国際関係学の修士号を修得する予定だ。