金があふれる 都会での採掘

現代社会の燃料として使われる資源がどこで採られたものかについて、多くのフォーラムで話題となっている。今年、チリの鉱山が落盤し、作業員33人が69日間も地下に閉じ込められた後、無事地上に引き上げられた様子を世界の人々は固唾を飲んで見守った。人々はこのハッピーエンドに心から安堵し、そして人間の不屈の精神に対し、人類初の月面着陸を見たときに似た温かい畏敬の念を覚えたものだ。

この救出は、作業員が生還したおかげでこれだけの注目を浴びたが、そもそも作業員が地下で作業していたという事実とは矛盾する部分があるのも確かだ。毎年数千人の作業員が炭鉱で命を落としている。華々しい救出劇にばかり目が行き、このような事実をメディアはほとんど取り上げない。採鉱や掘削作業全般において長期的(人間にとっての、そして環境にとっての)健康への影響による死者数を考えると、炭鉱における死はすでに方程式に組み込まれてしまっているかのように思える。

新たな金

鉱物の中にも、他より値打ちの高いものがある。携帯電話やその他の電子機器に欠かせない鉱物であるコルタンが1990年代に出回るようになると、コンゴ民主共和国東部を支配している武装反乱軍勢力はその幸運を当然のように搾取した。

アフリカの炭鉱の重要性と「バッテリーグレード」鉱物は再び脚光を浴びることととなった。最近、ウィキリークスによって公開された、アメリカの安全保障に重大な影響を与える可能性のある重要なインフラ施設や自然資源の拠点などのリストに大々的に記載されていたからだ。

チリでの救出劇が続いている頃、日本と中国の間では尖閣諸島の中国漁船衝突事件に絡み、中国から日本へのレアアース(希土類)輸出が滞っているとされる問題で緊張が高まっていた。

これは表面的には世界の中でも最も緊張の高い場所で起こった、ささいな外交的小競り合いにしか見えないかもしれない。しかし、このレアアース(地殻にある17の希土類)問題は、以下2つの理由でこれからもますます耳にすることとなるだろう。

第一の理由は、部品のデザインと生産過程がより洗練されて、このような鉱物を利用する機会が増えつつあることである。名前を聞く限り希少価値があるもののようだが、その用途は多種多様である。レアアースは、グリーンテクノロジーも含め、様々な電子機器の重要な部品に使われている。トヨタのプリウス1台には約16キロのレアアースが使用され、またインテルのマイクロチップには全部で41種類の成分が入っており、1990年にほんの数種類だったのとは大きな違いである。

第二の理由はこれらの生産地が地理的に集中していることである。今のところ、97%のレアアースの生産地は中国で、1960年代にレアアースを戦略的に「21世紀の石油」と位置づけた政策に則って生産が行われている。中国のレアアース独占状態は地理的な幸運もあるだろうが、他の先進諸国が尻込みするような環境的損害が大きい採掘工事を、彼らが恐れずに行っているからという事情もある。

輸出を30%カットするという中国の決断は、うわべは環境的理由だった。しかし実際は絶対的な資源不足を認めたのではないかと考える者や、需要が増加しつつある現在、ライバル地域が活性化するには2,3年はかかるだろうという目論見をもった経済的・地理政治学的動きだと考える者もいる。これらの要因が組み合わさって、レアアースの入手に関して注目が増した。レアアースは日本経済の多くの分野でカギとなるため、日本政府は中国の供給に依存できない場合に備えてベトナムへの移転を開始した。

都市での採掘

ほとんどのレアアースは最終的には都市で使用される。都市は人と資本と知識が集中した場所であるが、掘削と生産の地ではない。

しかし、別の光で照らしてみれば、今日の都市は地上にある究極の採掘場でもある。希少金属や鉱物が山ほどある場所なのである。銅の静脈が文字通り都市の真ん中を走りぬけ、金やプラチナが机や棚や、ゴミ箱に散らばっているではないか。

経済的急務と、しばしば放置される問題である人々の消費と浪費という環境的急務を結び付けて考えたのが、いわゆる「都会の採掘」の重要性である。すなわち「製品、建物、ゴミの中から部品や成分を再利用すること」である。

都会の採掘という概念は、都市を消費の中心地ではなく、生産の中心地にすることを目的としている。都市農業と似たものと考えてもよいかもしれない。都市農業は都市で食物を生産するだけでなく、食物に関する住民の知識を深め、地域社会と自然をより密接にする目的を果している。

都市では、使用されていない建物の電気配線やその他様々なものから膨大な量の銅などを「採掘」することができる。実際、世界的需要が価格を吊り上げている現状の中、こういった埋蔵場所から「自らを助ける」泥棒どもが出現しだした(ただし場所は使用されていない建物ばかりとは限らない)。地下では、肥料の生産に使われる重要な資源であるリンが、世界中の下水道や農業廃棄物から得られる。鉱物の原石の供給には限りがあるが、未処理下水はリンの含有量が16%を占めている

また、フォード社はペットボトルやジーンズなど様々な素材を2012フォーカスの防音装置に再利用する方法を探っている。

都市の採掘の概念で最も注目されているのは、エレクトロニクス部門である。エレクトロニクス製品は絶え間なく生産され続けている。その要因のひとつは技術革新であり、別の要因は電子機器がそもそも使い捨てられる性質であることだ。製品をアップグレードするのは難しく、修理するのは割に合わない。新品の携帯電話やラップトップに買い換えるほうがはるかに楽なのだ。新品の方が安価で内容が進化しているのだからある意味、当然であろう。

そのため電子廃棄物は2000年から2005年の間だけで世界規模では22%増加したとされており、膨大な量となっている。その数値たるや恐るべきである。携帯電話1台に含まれる金属は合計しても数セント程度だが、未使用の携帯電話の在庫量はアメリカだけでも1億ドル分になるという。

世界の金属と鉱物の埋蔵量の10%が日本のゴミの山にあるという概算も出ており、レアアースに関しても同様だと言われている。通常の炭鉱でこのような発見がされれば、一次産品市場は急落するだろうが、手つかずの廃棄資源に関しては、通常ほとんど関心が向けられることはない。

問題は、このようなレアアースは後に分解するのが難しく、有害となる部品に加工されることである。現在、富裕国でわずかにリサイクルされているものは外国へと輸出され(よって炭素排出が増加する)、それらが環境に有害な形で加工されている。そしてそれを請け負うのは社会の最貧層の人々によってである。(中国広東省貴嶼〈グイユ〉でのE-waste選別作業員たちを写したこのフォトエッセイがその現実を映している)

電子の無駄遣いをするべからず、望むべからず

メーカーに自社製品の廃棄物を引き取らせようというキャンペーンが広がりを見せている。国連大学ではE-waste(電気電子機器廃棄物)問題を解決する(StEP)イニシアティブが、ノキアなどの携帯会社と協力し、「都会の採掘」がしやすいような生産過程を追求している。

企業は、このような埋もれた資源の回収や、使用の節約などの技術革新に投資するようになってきている。iPhoneメーカーのフォックスコンは電気電子機器廃棄物からの貴金属回収の研究に資金を供給しており、また、磁石から原子レベルの層を剥離させるレーザー使用に関する研究が注目を集めている。

では、そんな中での消費者の役割は? リサイクルをする人は増えてきているが、それ以前の2つの「R」にもっと焦点を当てるべきだろう。「減らし(reduce)」、「再利用する(reuse)」である。多くの人々にとって携帯電話なしで生活するのは難しいだろうが、最新機種に変更する必要性についてはじっくり考えてみることはできる。また住んでいる場所によっては、古い携帯電話を再利用、リサイクルする手段もある。特に途上国においては、中古の携帯電話の需要がとても高いため、企業はまず外国でそれらを販売し、それが無理な場合に初めて、その部品や原料を取り出すほどだ。

幸運な炭鉱作業員らとヒューマンスピリットの勝利に話を戻そう。33人の作業員を69日間も地下700メートルで生存させ、そこから引き上げることもできる我々人類ならば、69週間以上もつ携帯電話や、その原料を後で取り出すことがより容易にできる方法を考え出すこともできるに違いない。

私たち一個人は、使用しなくなった機器の価値について考えてみることが大切である。そうすれば1人の炭鉱作業員の命が救われるのかもしれないのだ。

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詳細はUrban Mining(都市の採掘)をご覧ください。

翻訳:石原明子

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著者

クリストファー・ドール氏は2009年10月に、東大との共同提携のうえ、JSPSの博士研究員として国連大学に加わった。彼が主に興味を持つ研究テーマは空間明示データセットを用いた世界的な都市化による社会経済や環境の特性評価を通し持続可能な開発の政策設計に役立てることだ。以前はニューヨークのコロンビア大学やオーストリアの国際応用システム分析研究所(International Institute for Applied Systems Analysis)に従事していた。ドール氏はイギリスで生まれ育ち、ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジにてリモートセンシング(遠隔探査)の博士号を取得している。