フリーランス・ジャーナリストであるカニス・ダーシン氏は、130国以上の国々にいる370名のジャーナリストを擁するインタープレスサービスに寄稿している。
環境保護論者や公衆衛生の推奨者は、バラク・オバマ政権が打ち出した待望の重要な提案を称賛している。この提案は、よりクリーンなガソリンとより効率のよい車両技術を義務づけるもので、さまざまな有害物質の排出を40~80パーセント削減する。
アメリカ環境保護庁(EPA)は金曜日 、先送りされてきた提案を発表し、新しい規制によって年間に約2400件の早期死亡事例と2万3000件の児童の呼吸器系疾患事例を回避できると説明した。提案の要は、ガソリンの硫黄含量を3分の2引き下げることだ。その結果、約3300万台の自動車、つまり8台に1台程度の割合で道路から自動車を排除するのと同じ効果が期待できる。
自動車業界はこうした問題の解決に協力する意向を示しているが、石油業界は意欲的に取り組む姿勢を示していない。
民間意見調査期間を経て正式に導入された場合、「ティア3」基準として知られるこの新しい提案は2017年までに実施される見通しだ。EPAは、2030年までに新基準がもたらす健康関連の総便益をアメリカ国内だけで年間230億ドルと推計している。つまり、今日1ドルを投資すれば7ドルの見返りがあるという計算だ。
「クリーンな燃料や自動車に関するこうした良識的な基準は、経済的に無理のない実践的な方法で環境と人々の健康を守る一例です」と、EPA長官代理のボブ・パーシアセペ氏 は金曜日に語った。
「本日提案された基準は、数千人の命を救い、最も弱い人々を守るでしょう。また、この基準案は人々の健康を守る私たちの活動の次なるステップであり、自動車業界に対し、全50州で同じ自動車モデルを供給するために必要な確信を与えるでしょう」
実際、自動車業界は新規制の主要な支持者である。その理由の1つは、連邦規制はカリフォルニア州が定める基準よりも今のところ緩く 、そのために自動車メーカーは州によって異なるタイプの車両を提供しなくてはならないためだ。先週、自動車メーカー各社は政府との会合でこの点を指摘し、新基準を「極めて重要」と表現した。
新規制の推進派は、EPAの新しい提案がカリフォルニア州の基準に非常に忠実であると言う。日本と欧州連合はすでに、同様の硫黄分基準を各国で義務化している。
「今回の提案は、オバマ大統領が放ったクリーンな自動車関連の2度目のグランドスラムです。彼は燃料経済性基準を2倍に高める規定をすでに導入しており、今回の動きによって自動車が排出するスモッグの原因となる汚染は劇的に削減されるでしょう」とデイヴィッド・フリードマン氏はインタープレスサービス(IPS)に語った。フリードマン氏は監視団体、憂慮する科学者同盟(UCS)のクリーン自動車プログラム副部長 を務める。
「さらにオバマ大統領は石油業界に対し、同業界も前進しなければならないとついに告げたのです。指摘すべき重要な点は、自動車業界はこうした問題の解決に協力する意向を示している一方で、石油業界は意欲的に取り組む姿勢を示していないことです」
推進派は新提案を、第2期オバマ政権における最初の重要な環境対策と見ている。今期のオバマ政権はこの数カ月間、高い目標を掲げた雄弁な誓いを行ってきた。また規制強化によって、オバマ大統領は環境問題に関していまだに異論の多いアメリカ議会を通さずに、こうした宣誓を実現することが可能になる。
「期待されるクリーンな排ガス基準を打ち出すことで、オバマ大統領は私たち国民の健康を守り、自身のクリーン・エネルギー推進方針を確保するための力強い一歩を踏み出しています」と金曜日、自然保護団体のシエラクラブ最高執行役員であるマイケル・ブルーン氏 は語った。「クリーンな大気の保護対策を推進することは、公衆衛生を改善し、自動車の環境対策を進める良心的な一歩であり、同時に大手石油会社に汚染行為の責任を取らせることになります」
石油業界は遅れていたティア3基準に長年反発してきており、引き続き同提案に反対する意向をすでに示唆している。金曜日、業界団体の米国石油協会(API)は、現行の規制がすでに効果的であると表明し、新たな基準は消費者に著しい負担増加を強いる結果を招くだろうと警告している。
「新たな基準を施行した場合、基準を順守するためにエネルギー集約型の設備が必要となるため、実際には温室効果ガスの排出量は増加するでしょう」とAPIのボブ・グレコ 氏は声明の中で語った。「不必要な規制は、コストの増加と失業を生むだけです」
APIによる試算では、新たな提案は1ガロン当たり9セントのコスト増につながるとしているが、EPAはそれよりもずっと低いと見ている。例えば石油精製所の改造費用は1ガロン当たり1セント以下であり、2025年までに新技術の導入による追加コストは車両1台当たり約130ドルとしている。
「石油会社の言動には明らかに、人々の不安をあおってクリーンな空気から遠ざけようとする意図があります。彼らの試算は科学にもデータにも裏付けされていません」とUCSのフリードマン氏は述べる。「1ガロン1セントという試算でさえ、消費者に転嫁される可能性は低く、もしそうなったとしても、それに気づいた人がいれば驚きです」
フリードマン氏は、アメリカ国内のガソリン価格は過去10年間で2倍になったと指摘する。今年になって最初の3カ月間だけで、価格は1ガロン当たり40セント上昇した。
「自動車業界が取り組みに関わったのも、それが理由の1つです」とフリードマン氏は続けた。「ガソリン価格が高騰し、経済が急降下した過去数年間で、業界は現実に目を向けざるを得なくなったのです。自動車企業の多くは、この国の過剰なガソリン消費の問題に対処するために消費者が求めている商品を提供できていない現状に気づきました」
しかし、石油業界は相変わらず政府に対して非常に精力的なロビー活動を繰り広げており、政治家たちはすでに賛成派と反対派に分かれて情勢を見守り始めた。一方、最近の調査によると、アメリカ国民は規制強化に大差で賛成している。
アメリカ肺学会(ALA) が行った1月の世論調査では、クリーンなガソリンと自動車を推進するEPAの目標を強く支持すると回答した人は62パーセントで、支持しないと回答した人は32パーセント、すなわち2人対1人という割合だった。金曜日、同学会はEPAに対し、新規制を今年末までに施行するように求めた。
アメリカの大気環境に関する昨年の報告書でALAは、アメリカ国内の40パーセント以上の人々が、呼吸するには有害であると連邦政府が認定した汚染レベルの郡で生活していることを明らかにした。
一方、石油はアメリカの地球温暖化に関連する最大の排出源であり、交通部門は石油使用のおよそ70パーセントを占めている。UCSのフリードマン氏によると、軽量自動車およびトラックの二酸化炭素の排出量だけでも、インド経済全体の排出量に匹敵するという。
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この記事はインタープレスサービス(IPS)のご厚意により転載を許可されたものです。IPSはグローバルな通信事業を柱とした国際通信機関であり、開発、グローバリゼーション、人権、環境にまつわる諸問題に関する南半球や市民社会からの意見を取り上げています。
翻訳:髙﨑文子
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