新型コロナウイルス感染症（COVID-19）の影響により、世界中の何十億もの人々が従来から抱えていた脆弱性が増幅したことは否めない。開発途上国で社会から取り残されたコミュニティは、社会的保護と支援の対象から除外された。

長年にわたる経済的・社会的不平等が深刻化して、貧困層はますます貧しくなった。ワクチンの分配をめぐり明確に分断が進み、グローバルヘルス部門における大きな問題が明らかになった。

約10兆米ドルに上る景気刺激策が、数カ月足らずでまとめられた。これは、2008年に金融危機に見舞われた際に各国政府が投入した額をはるかに上回る。しかし、持続可能な開発目標（SDGs）に向けた進捗は大幅に減速した。

実際、パンデミック（世界的流行）の影響で、SDGsの多くが2030年までの残された時間では達成できなくなった。

SDG6「すべての人々に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保する」の進捗は、最も影響を受けた目標の一つだ。世界全体として、この目標はパンデミック以前からすでに軌道に乗っていなかった。

安全に管理された水と衛生施設にいまだにアクセスできずに生活している人々は、それぞれ20億人と36億人と推定される。2016年時点でこの大きな課題に対処するために必要な資金は、2030年までの間、年間740億から1,660億米ドルと推定されていた。

この資金が調達されたことはなく、今では額がさらに膨らんでいる可能性がある。それどころか、水関連の資金調達はパンデミックにより今や減少が見込まれている。

上記の数字に含まれているのは、すべての人々が利用できる水と衛生施設の目標のみであり、SDG6のその他のターゲットを達成するための費用は含まれていない。パンデミック後の経済復興計画に関心が移りつつある現在、今後の問題としては、SDGs達成期限まであと9年しかなく、最初の6年間が失敗続きであった中で、SDG6を達成するために必要な資金をどこからどのように調達するかだ。

最近開始された加速フレームワークからいくらかの希望が生まれるが、それでも特に楽観視することはできない。

世界規模で未解決である水関連の課題に直面する中、COVID-19のパンデミックはそれ自体がすでに多大な悪影響をもたらしているうえ、今後起こりうるさらなる脅威の前触れの可能性もある。感染症のリスクは今や気候変動への対応に失敗するリスクに匹敵するものだから、世界は「パンデミックとともに生きる」ことに慣れ、備える必要がある。

特に、人間が無秩序に生態系を破壊し続けているため、今後数十年の間に、新たな感染症が増加する可能性がある。次のパンデミックは、死亡率がさらに上昇し、人間の健康に対して想像を絶する影響をもたらすかもしれない。

このような状況において、安全な水と衛生施設を提供し、健全な淡水生態系を確保することは、もはや単なる基本的ニーズ、人権、または尊厳の問題ではない。これはすべての人々にとって生死にかかわる問題だ。次のパンデミックの発生を待つのではなく、今、戦略的に行動しなければならない。

各国はおそらく、複数の開発課題に同時に取り組む以外の選択肢はないだろう。しかし、将来のパンデミックに備えるという観点から、これらの課題にさらに優先順位を付ける必要がある。

世界の水分野には、SDGs達成期限までの今後9年間で優先すべき項目がいくつかある。

• 医療機関における水と衛生施設へのアクセスの確保：サハラ以南アフリカだけでも、約半数の医療機関が基本的な水にアクセスできず、4分の3は衛生施設を利用できない。同時に、こうした医療機関における基本的手指衛生へのアクセスに関するデータは、どの地域でも極めて入手が困難だ。
• 学校における水と衛生施設へのアクセスの確保：世界的に見ると、基本的な水および衛生施設にアクセスできない学校は、それぞれ31%と37%だ。学校で安全な水と衛生施設を利用できない女子生徒は学業を諦める可能性が高く、生涯の生産性と収入の損失は15兆から30兆米ドルと推定され、長期的な影響をもたらしている。
• 難民に水へのアクセスを提供：2020年に難民の数は2,600万人を超えた。COVID-19は難民の生活環境を悪化させ、未処理の水、不適切な衛生施設および劣悪な衛生状態により、現在においても将来においても感染症の可能性が高まっている。
• 都市部の貧困層に向けた水および保健サービスの改善：世界の都市人口の4人に1人は、ソーシャルディスタンスの確保、定期的な手洗い、その他のパンデミック管理慣行が実行不可能であるインフォーマルな（法律や都市計画に基づかない）居住区で暮らしている。水道料金請求の保留、給水車および給水所などの短期的な対応は、こうした地域におけるアクセス格差を埋め合わせるにはまったく不十分だ。

上記の課題には多くの共通点がある。いずれも人間を中心としたものであり、最も弱い立場に置かれた人々を対象としている。したがって、誰一人取り残さないことに真剣に向き合うなら、これらに取り組むことが極めて重要だ。これらすべての課題に取り組めば、将来のパンデミックの影響が低減される。

上記課題のすべては、誰もが利用できる水と衛生に関するSDG6のターゲットに貢献し、その他の重要なSDGsとも強いつながりを持っている。たとえば、平和と政治的安定の確保および環境悪化の阻止なくして難民発生の根本原因を解決することはできない。

そして、すべてが現在のSDGsのターゲットに埋め込まれている。上記の課題を実現しても、すべての人々が水と衛生にアクセスできるようになるためには不十分かもしれないが、それでも現代史において前例のない成果となるだろう。

将来のパンデミックの可能性を減らすために、淡水生態系の劣化を食い止めることもさらに強力に推進する必要がある。現在、いくつかの関連するプロセスが進行中だが、効果が出るまで長くかかりすぎる可能性がある。

全体として、COVID-19のパンデミックは、進行中のSDGsに取り組む優先順位を再検討して明確化する必要があることを示唆する。約170のターゲットを持つSDGsの枠組みは網羅的ではあるものの、比較的短期間に達成するにはおそらく意欲的すぎる。

また、SDGsの進捗状況を定期的に評価するだけでなく、ターゲットを調整することも必要だ。特に、当初のターゲットの多くが曖昧だったり、最近ではパンデミックのような新たな要因が世界を変化させたばかりであったりする場合はなおさらだ。これ以上待っていられないことがある。世界で最も慢性的な水問題の少なくとも一部を解決することは、その一つだ。

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この記事は最初にInter Press Service Newsに掲載されました。