水・気候・紛争・移住:2050年までに10億人となる移民への対応

移民は、自らの意志で家を捨てて逃れることを選ぶのだろうか。それとも移動以外に選択肢がないのだろうか。

移動(移住)を決断する際、明確な一つの原因だけがあるわけではない。今日、すでに多くの人が移動を決意し、またこれから何年にもわたり、水不足や気候災害、健康危機、その他の問題によって、ますます多くの人々がその決断をしていくだろう。

「プッシュ要因」と言われる移動を促す複数の原因に関するデータは少なく、私たちの移住に対する理解は限定的なものになっている。とはいえ、そうした背景こそが大事であることは言える。

国連大学の研究者を含む幅広い領域を専門とする研究者は、移住と水危機の直接的および間接的な関係性を探ってきた。

水危機と言っても、多くの場所で安全な水が手に入らなかったり、慢性的な水害や干ばつに見舞われる場所があったりするなど、その様相は異なる。

ここで難しいのが、弱い立場に置かれた移民が抱える様々な困難を助長している社会的、経済的、および政治的条件を、プッシュ要因と分けて考えることだ。いずれにしても、こうした移民が尊厳や安全、安定のある、持続可能な生活を求めているという事実に変わりはない。

国連大学水・環境・保健研究所(UNU-INWEH)による新たな報告書『Water and Migration: A Global Overview(水と移住:包括的概観)』では、水と移住の相関関係に関する知見を提供し、既存の問題の隔たりやニーズにどう取り組むべきかを示唆している。

本報告書は、ステークホルダーにとって理解しやすいものになっており、移住関連の政策決定をより良い情報に基づいて行うためのアイディアを提示している。その中には、学者や政策立案者がさまざまな規模と環境で適用できる枠組みも含まれている。

また、本報告書では下記を含めた懸念すべきパターンや動向が示されている。

本報告書のケーススタディは、水と気候の問題が移住に及ぼす影響について、下記を含む具体例を示している。

持続可能な開発目標(SDGs)で、移住に関するターゲットは明示されていないが、水やジェンダー、気候、制度に関する能力強化を目指しているSDGsにおいて、移住の緩和を検討すべきだ。世界が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)に取り組む中で、こうした問題はさらに重要になってくる。

最近の報道記事では、COVID-19の危機の最中にインドに取り残された移民労働者や、感染症の最も基本的な予防措置である石鹸と水へのアクセスはもちろん、社会的距離さえ確保できない難民キャンプで暮らす人々の絶望的な状況が伝えられている。

それに加え、移民に対するスティグマ(社会的な汚名)や差別、排外主義は、パンデミック下で増大し続けている。

世界が一斉にこのパンデミックに集中している今も、移動の長期的な要因への対策を棚上げするわけにはいかない。

対応にかかるコストが懸念材料になるかもしれないが、何もしなければ確実にそれを上回る代償を払うことになる。明確かつ簡単な解決策がないとしても、最新のエビデンスとデータが助けになることは間違いないだろう。

世界環境デー(6月5日)は、私たちは全員にとって、人間と自然との相互依存関係について考えるきっかけとなった。

それと同時に、水と気候関連の災害や、生態系の退化、その他の環境負荷によって、移民をはじめとする社会的に弱い立場の人に対して経済、健康および福祉の格差が広がっている事実も認識しようではないか。

•••

本文の内容は著者の個人的な見解であり、必ずしも国連大学の見解を代表するものではありません。

この記事は最初にInter Press Service News掲載されました。

Copyright Inter Press Service (IPS). All rights reserved.

著者