今日の東京の電気予報は?

2011年06月13日 グレゴリー・バルディ, ブレンダン・バレット ロイヤルメルボルン工科大学

私たちのほとんどは朝、仕事や学校などに出かける前に天気予報をチェックする。しかし、「電気予報」を見ている人はどれほどいるだろうか?

東京では、多くの人たちがそうしている。その習慣は、2011年3月11日、福島第一原子力発電所が津波で壊滅状態になってから始まった。電気予報はYahoo! JAPANのウェブサイトにあり、その日に予想される電力需要量がチェックできる。

この実用的なオンライン予報システム(まだベータ版ではあるが)では、現在の電力使用率と、その後6時間の予想使用率がわかる。この予想は東京電力(TEPCO)のウェブサイトで発表されているデータに直に基づいている。ちなみに、このTEPCOこそが現在の原発惨禍を引き起こした当事者であり、いまだに続く電力不足の元凶だ。

以下の図は、6月21日のYahoo! JAPANの電気予報である。それによると、 同日の電力需要は73%から78%の範囲内にあり、すべての表示は緑なので、安心していいということだ。電力需要が高くなると予想される時は、表示は黄色になり、100%に近くなると赤になる。週間予報によれば、今週の土曜と日曜の午後7時頃は節電努力が必要ということだ。TwitterやMixiで予報をフォローすれば、常に最新の情報が得られるので、必要に応じて対策を取ることができる。

今日の電気予報と今後1週間のピーク推測


出典: 電気予報

問題の規模

それにしても、世界各地のすべてのコミュニティで、こうした地域の電気供給状況がわかるツールが利用できたら、それは驚嘆に値することではないだろうか。そうなれば、人々はどれほどの電気を使っているかをもっと意識して、そしておそらくは控えるようになる。さらに、電力供給量は年々増え続ける一方という思い込みを正すことにもつながるかもしれない。そしてむしろ、電力使用を抑えること、年々減らしていくことを考えられるようになるだろう。そうなれば劇的な変化が起こり、たとえば電化製品の購入に際しても、選択の基準は他の特長ではなく、消費電力になるかもしれない。消費電力があまりに高ければ、買わないことが最も魅力的な選択肢ということも起こりうる。

「夢物語だ。そんなことは起こるはずがない」と思われるかもしれない。たしかに、よほどのことがなければ、電力会社は電力供給量を下げようとは思わないし、消費者も需要を減らそうなどという気にはならない。しかし今回、大災害がきっかけで、日本のような先進国の国民でも、電力供給の問題をこれまでとは違う目で見るようになり、それに合わせて行動を変えるようになった。

東電によると、電力供給力は3月11日の地震直後には約31ギガワットにまで落ち込んだ。即座に対策として提案されたのは、東日本全体で計画停電を行い、時間と地域をずらしながら電気の供給を止めることだった。誰もが驚いたのは、電力消費を減らすようにという要請に人々がきわめて積極的に応えたことだ。その結果、停電が必要とされたのは2週間程度ですんだ。

電力供給力は徐々に回復しており、夏が来る前には52ギガワットに増えると予想されている。その頃には、震災で停止している火力発電所も復旧し、新たなガスタービンが既存の発電所に設置され、揚水発電の活用が進められる予定だからだ。

しかしながら、東電が直面している1つの大きな問題は(その他にも、現在も不安定な状況が続く原発事故の処理に加え史上最大の 1兆2000億円に上る赤字という問題を抱えている)、観測史上最高の猛暑を記録した2010年の夏、東京の電力需要はピーク時で60ギガワットになったことだ。この夏も同じことが起これば、8ギガワット程度の電力不足が生じる恐れがある。

気温と相対湿度が急激に上昇(日中は30度、夜間は25度程度)する日本の夏、家庭や職場でエアコンを入れると、電力需要は著しく増加する。その結果として需要が供給を上回れば、電力網は機能しなくなり、突然、大規模な停電が起こって大混乱を招くことも考えられる。

1300万人が住む東京都(首都圏では3500万人)は、電力がいくらあっても足りない都市だ。鉄道網には地下鉄、郊外鉄道、都県間鉄道など、何十もの路線がぎっしり張りめぐらされ、新幹線も東京を中心として全国に伸びている。Our World 2.0ですでに取り上げたように、東京には何十万台もの自動販売機があり、何千ものパチンコ店があり、渋谷や新宿といった明るく照らされた都心では、何十もの巨大なデジタルスクリーンが無駄に電力を消費している。そして先進国ではお決まりの通り、すべての家庭、企業、公共のスペースには膨大な数の電化製品があふれている。このような状況から一転して、この夏、電力需要を大幅に抑えるという課題に向き合い、乗り越えるには、市民は自分たちが全体でどれほどの電力を消費しているか、各々の個人や会社がどれほど削減しなければならないかを、一人一人が認識することが必要になる。

だからこそ、電気予報は役に立つのだ。Yahoo!の電気予報のウェブサイトには、節電のヒントも掲載されている。もっとも、そこに書いてあるのは、使っていない電化製品のコンセントは抜きましょうとか、省エネ製品を買いましょうとか、洗濯機などの電化製品を使うのはピーク時以外にしましょうといった程度で、エネルギー問題への関心が高い人であれば、すでによく知っていることがほとんどだ。

最大の課題は、節電の負担をどのように公平に分け合うかである。議論を重ねた結果、日本政府は、すべての規模の企業と家庭に対して、2011年7月1日から9月22日まで、自主的に電力消費を15%抑えるように要請した。これは当初、大企業は25%、中小企業は20%の使用制限が課せられると想定されていたほどには厳しくない。

持続可能性の見地からすると、この自主的なアプローチが最初からうまく機能するかどうか、うまくいかなかった場合に、使用制限策を再検討するのに十分な時間が当局にあるのかどうかは興味深いところだ。そして、将来のエネルギー不足を踏まえた見地からすると、日本がこの夏、大規模な節電に成功するかどうか、またどのようにやり遂げるかをじっくり見ることにより、世界の人々は多くを学ぶことができる。

前向きな変化の兆し

東京の人々がこの夏、エネルギー問題に取り組もうとするなら、エネルギー消費の習慣も変わらざるを得ない。すでに変化が起こっていることを示す前向きな兆しが多数ある。

近所では、2つに1つの割合で街灯が外されている。以前より暗くはなったが、安全であることに変わりはない。すべての飲料の自動販売機や、地域のコンビニエンスストアの店頭の照明は消された。地元の電車の駅でも、点灯している照明の数が減り、鉄道会社が節電に努力していることを示すポスターが至るところに張られている。街中にある大型の広告スクリーンも、1日の間の特定の時間帯には消されているのかもしれない。

近所の電気店に足を運べば、この夏、エアコンの使用を控えようと考えている人たちが、最も消費電力の少ない扇風機を購入している。常に前面に押し出されているのは省エネ製品だ。

大規模なところでは、多くの企業(ソニーを含む)が、社員に朝早く(午前8時頃)出社して、夕方早く(午後5時頃)帰宅することを奨励している。電力需要ピーク時(午後6時から7時)を外すのが狙いだ。

冷房が必要なスペースを減らすために、建物の同じフロアに従業員を集めようとしている企業もある。他には、1日の特定の時間帯については、サーバなど大量の電力を消費するITインフラの一部を停止できないかと検討している企業もある。自動車や電化製品のメーカーは、電力消費が少ない週末に生産を移行させ、従業員にとっては、土曜日と日曜日ではなく、木曜日と金曜日が「週末」になった。

すでに紹介しているが、毎年、日本ではクールビズというキャンペーンが展開され、職場における電力消費を減らそうという努力がなされている。今年度、クールビズはスーパークールビズに格上げされ、エアコンの設定温度を28度に保つために、政府と企業は職員に、「6月からは、これまでのクールビズの基準であったノーネクタイ、ノージャケットよりもさらにカジュアルな服装、たとえばポロシャツ、Tシャツ、ジーンズ、スニーカーなども認める」ことにした。しかし、28度に設定されている部屋で仕事をしたことがある人ならわかるだろうが、それでも厳しい労働環境であることには変わりはない。

東京の人たちは、一致団結してこれらの節電対策をすべて実行するだろうか? 大規模な停電は避けられるのだろうか? 日本の人たちは、電力消費を抑えても、なお質の高いライフスタイルを維持できるのだろうか?

さまざまな環境資源の不足問題が世界中で少しずつ見えてきたことからすると、夏が終わった時、日本から多くの教訓を学び、共有できるのは間違いない。

翻訳:ユニカルインターナショナル

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著者

グレゴリー・バルディ氏は現在、東京でアジア・太平洋水フォーラムの国際水政策に携わっている。パリのソルボンヌ大学で持続可能な開発における修士号、モントリオール大学で地理学の学士号を取得した。これまでに、環境管理プロセスの実施、カナダ、フランス、日本の学校における環境教育、草の根プロジェクトの運営などの経験を持つ。環境問題への取り組みと意識の向上にとりわけ意欲を燃やす彼の信念は、一人一人が役割を果たすことで、私たちが生きることを認めてくれている地球に敬意を払い、その貴重な恩恵を守り続けられる、というものである。

ブレンダン・バレット

ロイヤルメルボルン工科大学

ブレンダン・バレットは、東京にある国連大学サステイナビリティ高等研究所の客員研究員であり、ロイヤルメルボルン工科大学 (RMIT) の特別研究員である。民間部門、大学・研究機関、国際機関での職歴がある。ウェブと情報テクノロジーを駆使し、環境と人間安全保障の問題に関する情報伝達や講義、また研究をおこなっている。RMITに加わる前は、国連機関である国連環境計画と国連大学で、約20年にわたり勤務した。