ジュネーブの国連事務所には、世界保健機関(WHO)、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、国際労働機関(ILO)、国際移住機関(ILO)など、さまざまな国連機関が置かれている。Photo: © UN Photo/Jean Marc Ferré
9月23日、国連総会がニューヨークで未来サミットのために招集された。同サミットは、国連の歴史における最も困難な時期の一つに開催された:ウクライナとガザでの戦争が大国を直接的な対立に巻き込み、多くの国連加盟国が、持続可能な開発、気候変動、より公平な金融システムといった約束を国連が果たせていないと見なしている。
大きな意見の相違にもかかわらず、そして交渉の最後の24時間には緊迫した場面もあったが、本サミットは3つの画期的な合意を生み出した。「未来のための協定」、「グローバル・デジタル・コンパクト」、そして「将来世代のための宣言」である。これらの文書のいずれか一つでも合意されたことは、ファシリテーターの並々ならぬ努力の証であり、おそらくは市民社会(サミット直前の数日間におよそ1万人の市民社会関係者が出席)の影響力を示すものであろう。
この協定はニューヨークで交渉され合意されたものだが、その実施には、民間団体、各国政府、市民社会、国連機関など、世界中の幅広いアクターによる積極的かつ持続的な関与が必要となる。ジュネーブにある諸機関は、協定の主要素のいくつかを実施する上で、重要な役割を果たす必要がある。そのため私たちは、ジュネーブで専門の「トラック」または「フォーラム」を開催し、核となる約束の実施を加速させることを提案する。この取り組みにおいて加盟国を支援するため、国連はジュネーブに2 つの新たな組織を設立すべきである。1 つは協定の実施を支援する組織、もう1 つは平和構築において成果を出すべく、ジュネーブにおけるエコシステムを調整していく組織である。
未来のための協定は、2030アジェンダの実施を加速させ、2030年以降にどのように前進すべきかに焦点を当てている。具体的には、持続可能な開発目標(SDGs)のための資金調達における大幅な変革を約束し、その約束を実現ために政府開発援助目標の達成、民間投資の拡大、国内資源の動員、一連の税制・貿易改革の導入などが盛り込まれている。これらと並行して掲げられている公約として、世界の気温の上昇を産業革命以前に比べて1.5℃以内に押さえること、化石燃料からの転換を進めること、生物多様性の損失を逆転させることがあげられる。協定の最も野心的な部分では、GDPの枠を超えて人間と地球のウェルビーイングを測る指標に基づき、循環経済への道を指し示している。これらの公約を総合すると、重要なメッセージが浮かび上がってくる:投資と改革を組み合わせることで、SDGsの実施を加速させながら、地球の重要なしきい値にとどまることができるのだ。
この課題に対処するには、貿易、知的財産、環境に関する多国間ガバナンス枠組みの大幅な改革を含む、システム全体の変革が必要である。また、気候変動や新たなテクノロジーなどによって著しく不安定な時代に、人々の生計をどのように確保するかという点でも、大きな転換が求められるだろう。そのためには、世界中のアクターのネットワークが必要であり、その多くはジュネーブに集中している。
地政学的な緊張が高まり、国際的な戦争が活発化している現在、未来のための協定における平和と安全保障に関する公約があまり野心的であると感じられない内容になったのは当然である。しかし、国際人道法、紛争の平和的解決、紛争下での民間人保護に対するコミットメントを再確認することは、近年見られたさまざまな後退を考えれば、想像以上に重要なことかもしれない。また、核軍縮のような一部の分野では、約束の再確認のように見えても、前進のための新たな空間を生み出す可能性もある。
ここで、協定の要素のうち、ジュネーブを拠点とする関係者による大幅な努力を必要とするものをいくつか取り上げて紹介したい:
こうした具体的な問題だけでなく、協定は経済的、政治的、社会的、文化的レベルでの「根本原因」を含む、多種多様な紛争の原因を認識している。組織的な差別、排除、人権侵害は、最もよく知られている紛争の原因であり、一方で、新興技術や天然資源をめぐる紛争が新たな戦争の引き金となるリスクも高まっている。ジュネーブ平和週間が毎年強調しているように、ジュネーブとニューヨークの結びつきを強めることは、こうしたリスクへの対応を改善する上で極めて重要な要素である。
未来サミットで繰り返し取り上げられた最も重要なテーマのひとつは、科学技術であった。協定では、科学、技術、イノベーションにおける世界的な格差を縮小するための方策について合意され、そこには政策決定における科学の利用を増やし、SDGs関連の研究とイノベーションのためにより多くの資金を動員するための方策も含まれる。加盟国は特に、科学技術を活用するための国連内の能力を強化することを約束した。また、今回のサミットで最も注目された成果として、加盟国は、包摂的でオープン、持続可能、公正、安全かつセキュアなデジタルの未来を目指す幅広いコミットメントを盛り込んだ画期的な「グローバル・デジタル・コンパクト」に合意した。
協定における科学技術に関するコミットメントを前進させる上で、ジュネーブが重要なフォーラムとなり得ることを、ここで事細かに説明する必要はない。ジュネーブには、テクノロジーに関する国連の主要な組織が所在しているのみならず、より広範なエコシステムには世界を牽引する科学技術組織が数多く存在する。毎年開催される世界を良くするAIグローバルサミット(AI for Good Global Summit)やジュネーブ科学外交先見サミット(Geneva Science Diplomacy Anticipation Summit)は、こうした議論におけるジュネーブの重要性を明確に示している。
未来のための協定には、安全保障理事会から国際金融アーキテクチャーに至るまで、幅広い改革案が含まれている。多国間の改革努力には、ジュネーブを含むシステム全体の関与が必要であることは、国連をよく知る人なら直感的に理解できるはずだ。
例えば、協定は複雑なグローバル・ショックに対する国際的な対応を強化することを求めている。ここでは、世界の大部分を混乱させ、被害をもたらす可能性のあるようなグローバル・ショックには、より協調的で効果的な対応が必要であることが認識されている。次にどのようなショックが訪れるかは分からない。しかし、最近経験した新型コロナウイルスの世界的流行や、核兵器や生物兵器の迫り来るリスク、そして最も深刻なショックの一部が、貿易や供給のルート上で起こるという現実を考えると、議論の多くは、人権、保健、貿易、軍縮などに焦点を当てたジュネーブを拠点とする団体が主導することになるだろう。
いくつかの約束が含まれており、付属文書として「将来世代に関する宣言」が含まれている。一般論として、この宣言は加盟国に対し、長期的な視野に立ち、これから生まれてくる世代の福祉を考慮することを約束するものである。現実的な面では、各国政府や多国間機関は先見能力を高め、新たなフォーカル・ポイント(将来世代担当委員など)を設置する可能性を視野に入れ、最終的には長期的な影響を反映した政策や事業を行うことを意味する。先日のハンブルク持続可能性会議において、事務総長が「将来世代担当国連事務総長特使」を任命するとの発表があり、こうしたコミットメントに新たなエネルギーが加わった。
ジュネーブには、世界で最も未来志向の組織があり、その多くがグローバル・リスクに焦点を当てている。多国間システムがどんな未来にも対応できるようにするのであれば、ジュネーブはそのための最良のフォーラムのひとつである。
上記は、ジュネーブが「未来のための協定」の実施にどのように関与する必要があるかについての、非常に不完全な説明である。より深く複雑なプロセスになることは必然だが、上記ではその表面に触れたにすぎない。そして場合によっては、誰が特定の分野を主導するかという問題は、(AIや新興テクノロジーに関しては特に)デリケートで危ういものとなるだろう。これは、縄張りやリーダーシップ、誰が何をするかという議論ではない。
未来のための協定は、広範で時に混乱を生じる公約や提案の集合体と感じられるかもしれない。しかし、その混乱の中にこそ、協定の根底にある、より野心的なアイデアに勢いを生み出すチャンスがある。一致団結した集中的な努力によって、広範な公約を具体的な行動に移し、世界中の人々に信頼を築き、成果をもたらせる可能性がある。
加盟国によるこうした協調的な努力を強化するために、ジュネーブを拠点とする2つの新しいイニシアチブが求められる:
懐疑論者は、資源が乏しく、新しい事務所を建設しても、多国間システムが十分に機能できずにいる大きな地政学的理由を解決することはできない、と指摘するかもしれない。その通りかもしれない。しかし、この2つの小さな組織が専門的に取り組むのは、今あるシステムをさらに活用し、多国間システム内の最も重要な関係者や取り組みをネットワーク化して結びつける手助けをし、未来のための協定における約束を果たすために必要な野心的な変革を実現することである。