電気自動車に何が起こったか?

2013年12月06日 ブレンダン・バレット ロイヤルメルボルン工科大学

今年の夏休み、イタリアのフィレンツェのサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂(ドゥオーモ)の近くで、私は脇道で車を止めている旧友に偶然出会った。友人の車はジラソーレ・エレットリカ(電気ヒマワリという意味)という小型の電気自動車で、Our World 2.0が2008年10月に記事に取り上げた車だった。私は写真を撮らずにはいられなかった。

2008年、私たちは日本人の元レーシングドライバーの高岡祥郎氏に関する記事を掲載した。当時、高岡氏は地元の鎌倉でジラソーレを販売しようとしており、記事では高岡氏とイタリアとの関係にも触れた。高岡氏はイタリアのStart Lab(スタート・ラブ)社から車体を輸入し、独自のバッテリーシステムを付け加えていた。この話題は2007年と2008年には大きなニュースだったが、それ以降、このすてきな小型自動車に関する情報はほとんど聞かれなくなった。最近では、私がフィレンツェで見かけたジラソーレのモデルは、1万2700ユーロ(1万7000USドル強)の販売価格がつけられている。

私たちは2008年の記事を次のような文章で締めくくった。「今後、ジラソーレのような電気自動車が、数多く出回ることが期待されている。国連大学では、今後もその様子を報告していきたい」

しかし、ジラソーレのような自動車が街に急増した様子はなく、特にOur World 2.0チームが拠点を置く日本では見られない。日産リーフは時々見かけるし、この自動車を利用するタクシー会社も数社、存在する。しかし全体として、バッテリー電気自動車は東京では珍しく、一方トヨタ・プリウスのようなハイブリッドカーはあちこちで見かける。

ヨーロッパ式のアプローチ

フィレンツェでの滞在中、共和国広場のすぐ近くで、私はまた別の電気自動車に遭遇してうれしくなった。小型電気自動車のBirò(ビロ)が、歩道に対して並列ではなく垂直に駐車していた。この車の長さが一般的な車の幅とほぼ同じ(174センチ)だからだ。メーカーのEstrima(エストリーマ)社が「パーソナル・コミューター」と表現する2人乗りの電気自動車は、最高速度は時速45キロで小型(車幅はわずか103センチ)であるため、イタリアの狭い道にはうってつけである。さらに、ほとんど場所を選ばずに駐車することが可能だ(駐車中の車と車の間にさえ入り込めるかもしれない)。

What Happened to the Electric Car?

Photo: Brendan Barrett

ビロは汚染源を排出せず、驚くほど静かに走行する。騒音を出さないという特徴は、私が夜間に車の騒音で寝付けなかったフィレンツェでは、まさに恵みに違いない。しかしビロの最もクールな特徴は、駐車後にバッテリーを取り出し、自宅で気軽に充電できるという点だ!
なぜフィレンツェの人々は電気自動車を買うのかと、読者の方たちは不思議に思うかもしれない。その一つの理由は、街の中心部は交通規制地域であり、「自転車、電気自動車、オートバイ、スクーター」しか進入できないからだ。つい昨年のこと、フィレンツェ市長は、市役所が所有していた3台の「ガソリンを食う」従来型の自動車を下取りに出し、1台の日産リーフ電気自動車を購入した(もう1台のハイブリッドカーも購入予定だ)。さらに、最近の調査によると、今後ハイブリッドカーあるいは電気自動車の購入を真剣に検討すると36パーセントのフィレンツェ市民は示唆している。フィレンツェのような密集した街では空気の汚染や騒音が大きな問題であるため、フィレンツェ市民の考え方は妥当だ。

試作車から市場の主流へ:本当に実現するのか?

こういった小型電気自動車をフィレンツェで見かけたことは、とても喜ばしい。上記の例以外にも、もっと多くの電気自動車を見たのだが、写真を取り損ねてしまった。そこで次のような疑問が浮かんだ。「私は電気自動車が主流となる時代を目撃するだろうか?」
2009年、Our World 2.0チームのショーン・ウッドとマーク・ノタラスは第41回東京モーターショーを訪れ、すべての展示を見て回った後、「電気の時代がやってきた」と題した記事を発表した。私たちは2008年にも東京モーターショーを訪れており、その際、多少のフラストレーションと共に、展示されていた電気自動車はいずれもまだ試作車の段階で、市場に出回るのは時期尚早だと記した。

2010年の東京モーターショーでは、非常に多くの電気自動車が展示されていたため、私たちはついに非常に大きな変化が始まるのだと考えた。しかし、ハイブリッド電気自動車の売り上げは非常に好調で、1997年の販売開始から世界で700万台近くが売れた一方で、バッテリー電気自動車には同様の成長は見られていない。2012年、バッテリー電気自動車の世界在庫台数は約18万台だった。その一方で、2012年の従来型自動車の総生産台数は8400万台だ

国際自動車工業連合会は、電気自動車が主流になるという発想には今でも否定的で、次のように述べている。電気自動車は「温室効果ガスの直接的な排出がないので、市街地での利用への活用は有益であるが、もしバッテリーを充電するエネルギーが化石燃料によって生産されたものであるなら、全体としての環境的恩恵は皆無である。さらに、現時点で最高のバッテリー技術を使ったとしても走行距離は限られており、この点が一般的利用の利便性を妨げる要因である」

What Happened to the Electric Car?

Photo: Brendan Barrett

つまり、これで終わりか? 上記のような短所のせいで、電気自動車の普及はあまり望めないということか。国際エネルギー機関(IEA)が発表した『Global EV Outlook(世界電気自動車アウトルック)』は、電気自動車の普及状況に関する情報を提供し、2020年までの予測を立てている。例えば、今日までのバッテリー電気自動車の販売台数のうち、アメリカが38パーセントを、日本は24パーセントを占めている。ヨーロッパでは、電気自動車の販売台数が最も多かったのはフランスで、世界全体の販売台数の11パーセントを占めていた。驚くことに、世界の電気自動車の在庫台数のうち、イタリアはわずか0.9パーセントを占めるにすぎず、グリーンエネルギーに関する素晴らしい評判を誇るドイツは、わずか3.6パーセントだ。ドイツ人はアウディやメルセデス・ベンツやBMWやフォルクスワーゲンに乗ってアウトバーンを疾走するのが好きなようであり、恐らく彼らは好みをしばらくは変えないだろう。

近年、中国が世界の自動車生産の中心となった(2012年の生産台数は1900万台)。しかし2012年、中国のバッテリー電気自動車の在庫台数はわずか1万1573台である(とはいえ、世界の在庫総数の6.2パーセントを占めている)。
つまり、電気の時代はまだやってきていない。それどころか、電気の時代は程遠いのだ。しかし、完全に希望を捨てるのはまだ早い。世界の電気自動車販売台数は2011年から2012年に2倍以上に増え、IEAは2020年までに最高で2000万台の電気自動車が道路を走っていることを推測している。しかし、その数字は恐らく、20億台を超える可能性のあるすべての自動車在庫台数のうちの一部だ。まさに自動車の大海における一滴でしかない。

20億台の自動車に地球は耐えられない

ダニエル・スパーリング氏とデボラ・ゴードン氏は2009年に発表した共著『Two Billion Cars — Driving Toward Sustainability(20億台の車:持続可能性に向かって運転する)』で、私たちの地球は20億台の車を維持できないと論じた。今日の10億台の車は「すでに異常な量の温室効果ガスを大気に送り出しており、世界の在来型石油の供給量を垂れ流し、石油をめぐる政治的小競り合いを誘発し、今日の都市の道路を渋滞させている」と述べた。

さらに彼らは次のように訴える。「根本的な変化が求められている。自動車は変わらなければならず、同じように、自動車が組み込まれているエネルギーシステムや交通システムも変わらなければならない。最も保守的なシナリオでさえ、経済と気候の深刻な損害を避けるためには、数十年以内に石油利用と炭素排出を劇的に削減する必要があることを認めている」
特に都市部での運転に対して、電気自動車をさらに積極的に促進していくことは、必要な根本的改革の一部である。しかし、電気自動車の可能性を最大限に発揮するためには、政策、金融、技術、インフラストラクチャーにおける多くの欠点を克服しなければならない。
電気自動車が選択肢の一つとなったとして(そして、それは単純な問題ではない。なぜなら自動車メーカーはいまだに燃焼機関に執着しているようだからだ)、しかも電気自動車の価格が適正で、インフラストラクチャーが整備されれば、より多くの都市部の消費者たちは恐らく電気自動車に転向するだろう。
私たちはIEAの賢明な言葉をよく考えてみるべきなのかもしれない。「究極的に言えば、電化が成功するのか失敗するのかという二者択一的な判断は、当分の間は下すべきではない。そうではなく、市場が成長し続けていく中で、その発展を監督し、政策支援を評価し、教訓を生かすべきなのだ」別の言い方をするなら、急いで結論を下すのはやめようということだ。
とはいえ、私は3年前に妻と共に購入したトヨタ・プリウスを今でも運転している。しかし持続可能な未来を実現するためには、次に乗り換える車は絶対に電気自動車にすべきだと考えている。あるいは、むしろ車を持たない方がいいだろう。いずれにせよ、ビロに乗った人はクールだと思う。あなたはどう思うだろうか?

翻訳:髙﨑文子

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著者

ブレンダン・バレット

ロイヤルメルボルン工科大学

ブレンダン・バレットは、東京にある国連大学サステイナビリティ高等研究所の客員研究員であり、ロイヤルメルボルン工科大学 (RMIT) の特別研究員である。民間部門、大学・研究機関、国際機関での職歴がある。ウェブと情報テクノロジーを駆使し、環境と人間安全保障の問題に関する情報伝達や講義、また研究をおこなっている。RMITに加わる前は、国連機関である国連環境計画と国連大学で、約20年にわたり勤務した。