キーラン・クック氏は、ボランティアのジャーナリストたちで構成された独立系 Climate News Network チームの一員である。クック氏はアイルランドと東南アジアで、BBCおよびフィナンシャル・タイムズの通信員を務めた経歴を持つ。
2007年の初め、環境活動家で再生エネルギー起業家のジェレミー・レゲット氏は香港の超高層ビルの最上階で、BBCの化石燃料に関する討論番組に出演していた。共演者はシェル社の最高経営責任者やその他の企業の重役たちである。
レゲット氏は攻撃役として討論に参加していたのだが、やりとりは(少なくとも冒頭では)丁寧だった。シェル社を代表する男性は、化石燃料は今後何年も世界のエネルギーの大部分を担い続けるだろうと言った。レゲット氏は、もしそうだとしたら人類は非常に過酷な道のりをたどることになると語った。二酸化炭素(CO2)レベルは高まり、極氷は解け、海面は上昇する。世界経済は崩壊しかねない。
シェル社代表は、世界にはエネルギーが必要であり、それを提供するのが彼の会社を含む企業の役割だと語った。さらに結局のところ、エネルギー企業は事業であって、政府ではない。だから世界中で生産されるエネルギーの種類に関してシェル社は究極的には責任がない、と語った。「つまり、そういうことですよ」とレゲット氏は言った。「シェル社は世界でどんなエネルギーが使われていても、責任を負わないのです。麻薬の売人の言い分ですよ」
私たちのように、気候変動、化石燃料、温室効果ガス排出に関する記事を書く者の人生は楽ではない。そういったテーマは結局のところ、格別に魅力的だとは言えないのだ。悲観的にならざるを得ない。なかなかいいニュースは見つからない。このような言い方は不本意ではあるが、`こうしたテーマの記事は、時には陰気で退屈なものなのかもしれない。
レゲット氏は著書のテーマ(エネルギー部門と気候変動への影響)を優れた小説のように面白い読み物にする素晴らしい才能の持ち主だ。面白く読める理由の一つは、著書の構成である。ドットコム・バブル、金融引き締め、2009年にコペンハーゲンで開催された不運な気候変動会議、あるいは「ピークオイル」(著書の中核的テーマの一つ)に関する分厚い資料の間に、短い逸話が差し込まれている。
レゲット氏は著書のテーマ(エネルギー部門と気候変動への影響)を優れた小説のように面白い読み物にする素晴らしい才能の持ち主だ。
レゲット氏はソーラーセンチュリー社の創業者であり会長である。同社は13年にわたって急成長を遂げ続けるイギリスの再生可能エネルギー企業だ。再生可能エネルギー産業の優れた人々の集まりで、彼はチャールズ皇太子に紹介された。王位継承者はレゲット氏の太陽光パネル製品を気に入ったものの、製品の色はあまり好きではなかった。
本書には、投資家や多くの化石燃料企業の重役たちとの出会いが描かれている。CO2排出量の増加と気候変動への関心の欠如に、レゲット氏は一貫して失望と悲しみを示す。本書は数多くの陰謀、短期間で収益をあげようとする傾向や、専門性のない素人の視点などを取り上げている。
ダウニング街10番地で開かれたイギリス首相と財務大臣との会合では、レゲット氏の会社のような企業が銀行から資金を調達する上での困難が議論された。
「ナンバー・テン(首相官邸の別名)から出て行く時、私はキャメロン首相とオズボーン大臣の行動を見ることが、ある種の大学生のプロジェクトを再び目にしたようであったことに気づきました。私は教授時代にこうした状況を数多く目撃したものです。賢くて熱意にあふれた学生たちは、大抵パブリックスクール出身者で、話すのは得意なのですが、ほとんど準備をしてきていないのです」
エネルギー関連企業の重役たちの中には、世界が直面する気候変動に関連した問題の大きさを進んで認める人々もいる。しかし一方で、産業は軽率なまま、化石燃料を掘り出し、CO2を大気に流し続けている。
レゲット氏は、一連のバブルは、はじける寸前であり、壊滅的な結果につながると言う。その一つが石油資源バブルだ。化石燃料を推進するロビー活動は相変わらず、抽出されるのを待つ石油の量を大幅に誇張している。その一方、石油価格は高騰し続け、2000年には1バレル当たり約20ドルだったのが、今では約110ドルである。
化石燃料と採掘関連の企業は株式市場で大幅に過剰評価されている。なぜなら企業価値のほとんどは資源に基づいて算出されているからだ。しかし、気候変動に取り組むためには、その資源を地中に残したままにしなくてはならない。つまり、もう一つのバブル崩壊が近づいているのだ。
私たちは皆、自滅へと向かっているのかもしれない、とレゲット氏は語る。過去に社会が崩壊した原因は、社会が資源不足に適応できなかったか、認識できなかったからだ。
さらに、いわゆるフラッキング革命と第三のバブルがある。レゲット氏によると、アメリカでのフラッキング事業はすべて、フラッキング関連企業株で手っ取り早く儲けたがるウォール街の投資家たちが大げさにあおった結果だという。多くの掘削現場では、抽出可能なオイルやガスの量がすでに急落している。「サウジ・アメリカ」の夢は文字通り、夢だったのである。
「論理的思考がどこかで消え去ってしまったようです」とレゲット氏は語る。
物語は進んでいくが、その結末は恐ろしいものだ。レゲット氏は、石油資源は2015年あるいはその直後に崩壊し、その後、2008年の金融引き締めよりもずっと大規模な金融危機が起こると予測している。私たちは皆、自滅へと向かっているのかもしれない、とレゲット氏は語る。過去に社会が崩壊した原因は、社会が資源不足に適応できなかったか、認識できなかったからだ。
しかし、ひょっとしたら世界は、ついに目を覚ますかもしれない。永続的成長という発想が捨て去られるのだ。
「状況が改善する前に、これ以上悪くなることはないと偽るつもりはありません。暴動が起こるでしょうし、無料炊き出し所ができるでしょう。血も流れるでしょう。そういった状況は2008年の金融危機以降、すでに生じているのです。しかし、次の危機は、さらにひどいものになるでしょう」
レゲット氏は、再生可能エネルギーと電力供給の地域化という新しい時代の到来に希望を託している。しかしまず、私たちは毛布の下に潜り込み、大崩壊に備えた方がいい。
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本稿は Climate News Networkのご好意により掲載しています。
翻訳:髙﨑文子
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