チップ不足:熾烈さを増すコンピュータチップの政治経済学

AI(人工知能)が最初に注目を集めたのは1950年、イギリスのコンピュータ科学者アラン・チューリングによる「計算する機械と知性」と題された論文を通じてであった。

ジョン・マッカーシーは1955年に「人工知能」という単語を造った。生成AIを含む現代の人工知能を形作る、パーセプトロン、逆伝搬、ディープラーニング(深層学習)といった大半のアルゴリズムは、1980年代にはすでに存在していた。

では、73年もの歴史があり、すべてのアルゴリズムがすでに存在していたのにもかかわらず、なぜAIは最近になってChatGPTによって話題に上るようになったのだろうか。

それは、私たちには大量のデータを扱い、大規模なアルゴリズムを実行するのに十分な計算能力がなかったためだ。つまり、半導体チップが不十分であったがゆえに、多くの人が一般的に想像するAIの誕生が遅れたのである。

一方、半導体の処理能力はほぼ2年ごとに倍増するというムーアの法則によって、私たちはその瞬間がやってくることを常に知っていた。しかし、今後もコンピュータ、または半導体チップの危機はなお続く!

最近、コンピュータチップをめぐる競争が過熱している。ニューヨーク・タイムズは、AIを動かすためのコンピュータチップを求めての厳しい競争について報じた。また、雑誌『クオーツ』も先週、エヌビディア製コンピュータチップが今や世界中で最も需要の高いコンピュータハードウェアであると伝えた。

AIが私たちを取り巻くあらゆるものを再定義しつつある時代において、コンピュータチップは不可欠であり、チップ獲得のための競争が世界中で生まれている。

例えば、フィナンシャル・タイムズによると、サウジアラビアとUAEがエヌビディア製コンピュータチップを入手しようと競い合っているという。エヌビディア製グラフィックスプロセッシングユニット(GPU)をめぐる競争が激化しているため、加速する生成AIへの投資を考慮すると、今年末までに同社が販売を計画している55万個のGPUチップで十分かどうか、疑問が広がっている。

GPUと並列処理

なぜGPUが重要なのだろうか。GPUの能力について把握するためには、中央演算処理装置(CPU)を理解することが不可欠だ。CPUは、プログラムによって与えられた命令を実行する役割を担う、コンピュータの頭脳である。CPUは、例えばマイクロソフトのエクセルやワードのファイルを実行するといった、さまざまなタスクを処理するよう設計されている。CPUは通常、半導体(コンピュータチップ)製造のプロセスによって作られる、マイクロプロセッサと呼ばれるシングルチップに格納される。

元々コンピュータゲームの描画用に作られたGPUは、並列処理のために改良されてきた。GPUは、画像の作成や一部の科学的シミュレーションにおける複雑な計算の実行といった、分割可能、かつ同時に処理を行う活動に最適である。

GPUはディープラーニング、大規模シミュレーションのほか、並列処理の恩恵を受けるその他のアプリケーションに利用され、ChatGPTのような大規模言語モデル(LLM)においても不可欠である。

CPUが幅広い計算とシステム活動を扱うのに対して、GPUは大量のデータを用いた並列処理を必要とする作業を得意とする。いずれにせよ、CPUもGPUも現在の電化製品が機能する上で極めて重要である。

現在、CPUとGPUのいずれのコンピュータチップも供給量が少ないため、これらのチップが不可欠な製品の価格が上昇している。例えば、チップ不足は自動車産業に特に甚大な打撃を与え、生産遅延や自動車不足をもたらしている。チップ不足は電子工業にも影響を及ぼし、スマートフォンやノートパソコンといった電子機器の価格上昇を招いている。

医療機器産業も影響を受けており、チップ不足によってペースメーカーやインスリンポンプなどの医療機器の生産に遅れが生じている。こうした影響は産業機器業界にも及び、ロボットや工作機械といった産業機器の生産に遅れが生じている。

チップ不足の世界的影響

このようなチップの品薄状態は、GPUに大きく依存する仮想通貨マイニングの急増など、さまざまな原因によって2018年以降に発生し、新型コロナウイルス感染症のパンデミック中にさらに深刻化した。

AIとLLMにも同様の問題が起きている。チップの製造は複雑な資本集約的プロセスであり、高まる需要を満たせるほど生産を急増させることは難しい。各国が特定の国に対する禁輸措置を取るなど、地政学的緊張もチップの供給に支障をきたしている。

世界経済はチップ不足がもたらす現状に苦しんでいる。こうした不足の結果として、電子機器や、チップを用いたその他の品目の価格上昇と、さまざまなビジネスにおいて生産の中断が生じている。チップ不足は戦略上の影響も伴い、グローバルなサプライバリューチェーンの分断の可能性を告げている。

半導体市場は、半導体の2大生産国である米国と中国の激化する競争を反映している。両国は、世界のチップ市場の覇権を手に入れようとしのぎを削っており、この争いは今後さらに過熱すると見られている。

米国は中国がチップ市場で支配を強めていることに懸念を抱いており、米国政府はこのリスクに対処するためのいくつかの取り組みを進めてきた。例えば、半導体の研究開発と新たな国内チップ製造拠点の建設のために、新たに2,800億ドルの資金を提供するが可決された。

さらに、世界規模のチップサプライチェーンの安定性を保証しつつ、米国の外国のチップ供給業者への依存度を低めるための施策を講じるよう連邦政府に命じる、半導体サプライチェーンのレジリエンス(強靭性)に関する大統領令が出された。

中国政府もチップ生産に投資し、中国企業にも同様の投資を奨励している。また、外国のチップ供給業者への依存度を低めるための取り組みも行っており、半導体市場における米中の競争は今後も続くと予想される。

また、台湾積体電路製造(TSMC)および韓国のサムスン電子も世界の半導体製造における中心的な存在である。こうした半導体競争は広範囲に影響をもたらす複雑なテーマである。

半導体市場のバランスを取る

私たちが対処すべき一つの問題は、グローバル・サウス、特にアフリカにとってチップ不足は何を意味するのか、というものである。半導体チップに使われる鉱物の多くはアフリカ産であるため、アフリカはまさにグローバルなバリューチェーンの分断に組み込まれている。

アフリカ連合はこの分断に対する態度を明確にする必要があるだろうか。グローバルなバリューチェーンの分断は、アフリカ大陸にとって経済面で壊滅的なものになるだろう。ケニア南アフリカといった国でいくばくかの希望の光が見られるものの、アフリカは半導体テクノロジーにおいて大きく遅れているのだ。

半導体のガバナンスに関する国際的合意は現在存在しない。だが、いくつかの機関がそのような条約を制定しようと努めている。それらの機関には世界貿易機関(WTO)、国際貿易委員会(ITC)、国連貿易開発会議(UNCTAD)などがある。

第1に、この条約は世界の半導体市場の競争と公正性を保証しなければならない。第2に、半導体市場における反競争的な慣習を阻止しなければならない。第3に、条約は開発途上国における半導体産業の成長を促進しなければならない。第4に、相互運用性およびセキュリティ要件を保つための基準を持たなければならない。そして第5に、半導体製造業が倫理的で安全、かつ競争的であることを保証し、これらのデバイスが世界中に流通するようにしなければならない。

この条約を実現するために、商業、開発、政治面での配慮のバランスを取らなければならない。しかし、条約のための協議は困難で、先行きは不透明である。

半導体の生産は資源を大量に消費し、環境にダメージを与える可能性がある。各国はチップ生産による環境へのダメージを軽減する法律を制定し、施行する必要がある。

チップ不足は、強靭な供給システムの重要性を浮き彫りにした。最近、各国政府は国家の安全保障と経済の安定を守るために調達先を多様化し、方策を以前にも増して検討するようになっている。これは世界貿易にダメージを与え、世界経済を分断し、多くの人を貧困へと追いやるおそれがある。

コンピュータ用半導体のガバナンスには、経済政策、セキュリティへの考慮、環境上の制限と、長期的な産業の成長と保全性、レジリエンスを確保するための国際協調の間で慎重にバランスを取ることが求められる。

したがって、アフリカはこの新たな半導体の世界で後れを取るわけにはいかず、教育への投資と大学における半導体教育の導入を行わなければならない。

さらに、アフリカの大学は海外の大学と提携して半導体に焦点を当てたパートナーシップを推進しなければならない。このパートナーシップは、半導体に関心を持つ教職員と学生がアフリカの大学と海外の大学の間を移動できるようにするものでなければならない。

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この記事は最初にDaily Maverickに掲載されたものです。Daily Maverickウェブサイトに掲載された記事はこちらからご覧ください。

著者

チリツィ・マルワラ教授は国連大学の第7代学長であり、国連事務次長を務めている。人工知能(AI)の専門家であり、前職はヨハネスブルグ大学(南ア)の副学長である。マルワラ教授はケンブリッジ大学(英国)で博士号を、プレトリア大学(南アフリカ)で機械工学の修士号を、ケース・ウェスタン・リザーブ大学(米国)で機械工学の理学士号(優等位)を取得。