ヴラディミール・スマッティンは、国連大学水・環境・保健研究所(UNU-INWEH)所長。世界的・地域的な水不足と食料安全保障を中心に、幅広い水資源問題の研究者、管理者として30年の経験を有する。
気候変動が深刻化し世界各国で人口が増加する中、水不足が人類の発展、安全を脅かす最も大きな脅威の一つになっている。
地球上の4人に1人が、飲用や衛生、農業、経済発展に必要な水の不足に直面している。中東や北アフリカなどの地域では、全世界の人口の6パーセントが暮らしているにもかかわらず、世界中の淡水源の1パーセントしか存在しておらず、水不足がより深刻になると予測されている。
降雪や降雨、河川に頼った従来型の水源では、水不足地域の淡水需要をまかなうには十分ではない。
幸い地球上には、従来型以外の水源が存在する。帯水層や霧、氷山、数千隻もの船舶のバラストタンクには、数百万立方キロメートルもの真水があるのだ。
我々が著した「Unconventional Water Resources(非従来型水源)」では、最新の情報に基づき、大きく分けて8つのカテゴリーの非従来型水源に言及している。
クラウドシーディング(雲の種まき)とフォッグコレクター(霧採取装置)
大気中には、13,000立方キロメートルもの水蒸気が含まれると推定されている。今日、世界全体での淡水需要は、おおよそ4,600立方キロメートルである。
大気中の水蒸気の一部は、小さな粒子(一般的にはヨウ化銀が用いられる)を雲にまき雨や雪を降らせるクラウドシーディングと呼ばれる手法を用いて、あるいは、霧や靄(もや)から採取できる。
適切な条件下では、クラウドシーディングにより降雨量を最大で15パーセント増やせる。航空機やロケットを使って粒子を直接、雲にまく方法が最も効果が高い。
フォッグ・ハーベスティング(霧の採取)は、すでに一部の地域で行われている。チリやモロッコ、南アフリカの遠隔地域では、垂直に網を張って霧から水分を採取するやり方が、100年以上前から行われてきた。一般的にこの方法が適しているのは、標高がかなり高い野外で、風を遮るものが周囲にない立地である。
材料の品質向上や地元地域の知識によって、より効率的な水採取装置が設計されるようになってきた。霧が濃い日には、網1平方メートル当たり20リットル以上の水が採取できる場合もある。1リットル当たりのコストも、1米セント未満である。
海水淡水化
海水淡水化、すなわち海水中の塩分を取り除くことで、1日当たり1億立方メートル以上の水が得られている。これは、全世界の人口の5パーセントの需要を満たす量である。全世界の淡水化能力の約半分(48パーセント)が、中東と北アフリカ地域に存在する。
淡水化技術の新たな進歩により、海水淡水化は、世界中で最も安価な非従来型水源になる可能性が高い。革新的技術により、淡水化に必要なエネルギーが20パーセントから30パーセント、削減されつつある。
海水淡水化の副産物として多量のブライン(高濃度の塩水)が生じ、これによる汚染が懸念されている。しかしながら、ブラインから塩を取り出し商品化することで、今後10年の内に海水淡水化のコストが相殺される可能性がある。
水の再利用
高度な水処理システムを用いて、排水を飲用水に浄化できる。例えば、ナミビアの首都ウィントフックでは、飲用水の25パーセントが処理された排水でまかなわれている。
今日、高所得国では都市排水の70パーセントが処理されているが、低所得国では、その数字は8パーセントにとどまる。低所得国における未処理の都市排水量は、全世界で年間たった171立方キロメートルと推定されている。これは、都市セクターにおける一人当たりの水の使用量が少ないためである。一人当たりの年間排水量が最も少ないのはサブサハラ・アフリカ地域(46立方メートル)で、北アフリカはそのおおよそ5倍の排水を出している。
住民や政策立案者らが排水の再利用を受け入れるかどうかは、依然として課題である。
農業排水
灌漑によって生じる排水には2つの種類がある: 地表排水と地中に浸み込む排水である。地表で流れ出る水は回収して、食物を育てるのに再利用できる。排水は塩分濃度が高いが、耐塩性のある作物や新品種によって、この課題は克服できる。
沖合の地下汽水
世界中の大陸の沖合の帯水層には、大量の水(推定では300,000~500,000立方キロメートル)が存在している。これらの帯水層(地下水を蓄える透水性の岩石)は、海水位が今よりずっと低い数百万年前にできたもので、陸地から100キロメートル未満の浅瀬にある。
今日では最新の海洋電磁探査技術により、沖合淡水の詳細なイメージが得られるようになった。また水平掘削技術により、沖合淡水を陸地に汲み上げることが可能になった。
今はまだ、沖合淡水源の開発は行われていない。この技術はまだ新しく、水源の開発には多額のコストを要する。また、淡水化との連携も必要である。
内陸の地下汽水
内陸の地中深くの帯水層に存在する汽水や塩水は、数百万立方キロメートルにのぼると推定されている。イスラエルやスペインなど一部の国々では、すでにその利用に着手している。これには多額のコストを要するが、回収した塩の再利用など、コストを削減する手段が存在する。また、農家は、高価値作物に切り替えることで、淡水化技術の恩恵を受けられる。
マイクロ規模の雨水採取
乾燥した環境では、一般的に雨水の90パーセント以上が蒸発や地表での流出によって失われている。マイクロキャッチメント雨水ハーベスティングは、古くから行われているやり方で、比較的小さな採取エリア(通常、10~500平方メートル)から雨水を採取し集めるものである。その手法は、屋根や貯水タンクに雨水を集めるものから、等高線畝や堤、小規模な雨水貯留池や集水帯などの農場、地形システムまで多岐にわたる。
水不足地域への水の輸送
船舶は、世界中で取引される商品の約90パーセントを運搬し、毎年100億トン(10立方キロメートル)ほどのバラスト水を排出している。バラスト水とは、航行中の船体の安定性、操縦性のため船内に蓄えられる淡水または海水である。
国際条約に基づき、総トン数400トン以上の船舶は、バラスト水を淡水化するための処理設備を船内に設ける必要がある。これは、侵略的水生生物や有害化学物質をバラスト水から除去し、灌漑など、別の経済活動に利用できるようにするためである。
この水は、乾燥地域の港湾都市に売却できる。
水不足地域に輸送できるもう一つの水源は、氷である。北極や南極の氷山が、毎年、100,000以上も大洋に溶け出している。それらに含まれる淡水量は、世界全体の消費量よりも多い。
氷山を南アフリカのケープタウンまで曳航(えいこう)する場合の経済的実現可能性を分析したところ、氷山が十分に大きければ(少なくとも125,000,000トン以上)、経済的に魅力があることが示された。研究によれば、氷山をネットで覆い、その後、巨大な袋で包むことで、輸送中の崩壊や溶解をある程度防げることが分かっている。
水不足の深刻化は、紛争や社会不安、移民問題の主要な原因の一つである。水はまた、持続可能な開発を実現するための国際協力に向けた手段の一つでもある。あらゆる可能性を探ることが求められている。
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この記事は、クリエイティブ・コモンズのライセンスに基づき、The Conversationから発表されたものです。元の記事(英語)はこちらからご覧ください。