誰が気候変動のコストを負担すべきか?

気候変動に起因する災害のコストは誰が支払うべきだろうか? ハリケーン・サンディの犠牲者に対する連邦政府の支援について米国内で現在行われている議論、また気候変動の犠牲者に対する国際支援についてドーハの気候変動会議で最近行われた議論を考え合わせると、その問題は人類にとってますます差し迫った問題になってきている。

自然災害の頻度とコストは急速に高まっている。1980年代以降、米国では10億ドル規模の自然災害の年間平均発生件数は2件から6件へと3倍になった。2011年に米国では10億ドル以上の天気事象が個別に14件発生し、損害総額は600億ドル以上にのぼった。2012年にはハリケーン・サンディだけでその総額を超えた。

個々人のマイホーム所有者たち、企業、コミュニティーに対して支払う保険金額が、保険会社の支払い能力を超えることもあったため、一部の州は州全体の共同出資によるリスク基金を創設してきた。たとえばフロリダ州は、1992年にハリケーン・アンドリューに見舞われた後、フロリダ・ハリケーン災害基金を立ち上げた。

1998年にスタフォード条例が成立してからは、連邦政府により災害救援が行われることが増えている。同条例により、連邦政府が宣言した災害については、最低75%のコストを政府が負担することになったからだ。予想通り、そのような宣言は劇的に増加してきた。ジョージ・H・W・ブッシュ政権下の1992年には53件だったものが、ビル・クリントン政権下の1999年には110件、ジョージ・W・ブッシュ政権下の2008年には143件に増加した。2011年、オバマ大統領は史上最多となる242件もの災害を宣言した。

しかし、ハリケーン・サンディの例からわかるように、自然災害の損害額は、連邦緊急事態管理庁が資金を拡張しても賄いきれず、議会が臨時に追加支出を行うことが必要になっている。こういったことから、国全体でリスクをプールする自然災害保険基金を創設しようという努力が盛んになっている。これは9.11直後、航空運輸安全制度安定化法の成立と共に創設されたテロ災害基金と同様のものだ。この基金により、これまで約70億ドルを7400人以上の犠牲者に支払うことができた。2002年、議会はテロリズムリスク保険法を制定した。プログラムが発動されるのは、損害が1億ドルを超え、個々の保険会社にかかるコストが支払われた保険料の20%を超える時である。プログラムが発動されると、個々の保険会社の免責額を超える損害額の85%を政府が負担し、15%を保険会社が負担する。プログラムの限度額は年間1000億ドルと定められている。

しかし、国による自然災害保険の創設は容易には進まなかった。2008年、マイホーム所有者保護法という自然災害基金の一形態について下院で議論が行われた時、アリゾナ州から大統領選に立候補していたマケイン上院議員は、対象とするような災害は主に米国南部あるいは南東部で発生しているので、リスクプールは全国ではなく地域で行うべきだと述べた。2009年のレポートでヘリテージ財団もこれに同意しているが、結果的には引き合いに出した例がその主張を意味のないものにしているかもしれない。「災害を引き起こすようなハリケーンがニューヨーク州やコネチカット州を襲うこともあるかもしれませんが、そうであっても、そのような事象はこれから何年も起こらないでしょう。ですから、こうした州に住む人々は、そのような可能性の低いリスクに自らがさらされているとは考えないでしょう」

国全体での災害基金を立ち上げる計画は遅々として進まず、共和党主導の議会はハリケーン・サンディの犠牲者に連邦から迅速に支援を提供するのを渋っているが、それでも「全員一緒」の原則は広く受け入れられているようだ。

グローバルレベルの問題

昨年11月、私はドーハで開催された気候変動会議に参加した。

悲しい事実は、気候変動により、地球上で真っ先にかつ最も深刻な被害を受けるのは最貧国だということだ。過去10年間、気候変動によるストームで最大の被害を受けたのは、ホンジュラス、ミャンマー、ニカラグア、バングラデシュ、タイといった貧しい国々だった。

1990年代、世界規模の気候会議は温室効果ガスの削減を中心に議論を行っていた。2010年、カンクンにおいて、各国政府は適応と緩和の対策分野に焦点を合わせ始め、2010年から2012年までに「短期」資金として300億ドル、2020年までには年間1000億ドルを拠出することを約束した(後者は、世界銀行が予測する2度温暖化した世界に適応するための年間コストである)。

ドーハでは195ヵ国の参加国がさらに一歩踏み込んだ。というのは、初めて「気候変動による損失および被害」という言葉が国際的な法律文書に登場したのである。

米国および英国の参加者は、「賠償」という言葉も、その他、法的責任に関するいかなる用語も、最終文書には用いられていないことを確認した。しかし、富裕国は初めて、問題に過分に関与していることをもとに、支援を提供する道徳的義務を認めたようである。

たしかに、ドーハで行われたのは原則の合意のみである。金額の取り決めはなされず、支援分配の仕組みが確立されたわけでもない。この問題は今年度のワルシャワの会議で再び議論されるだろう。

資金の出所はどこになるだろうか? 多くの人たちが不安に思っているのは、それが既存の海外援助予算から引き出されるのではないかということだ。実際にそれは、英国が緩和志向のインターナショナル・クライメート・ファンドを設立した時に起こった。資金は既存の援助資金から振り分けられることになっていたのだ。

積極的に支援しようという気持ちは、まだ表立って見えていない。ハリケーン・サンディが米国沿岸を襲った1ヶ月後、ボーファ台風(台風24号)がフィリピンを直撃した。これは、この4年間で4番目に大規模な自然災害で、経済に大打撃を与え、2000人もの命を奪った。現在の見積もりでは総コストは8億3900万ドルにのぼる。フィリピンは6500万ドルの緊急援助を要請したが、現在のところ、1200万ドルしか得られていない。米国国際開発庁(USAID)は10万ドルを提供した(USAIDは過去5年間にフィリピンに対して1,170万ドルを災害対策支援として提供していると主張している)。

米国の海外援助額は援助国の中では最下位に近い。米国の海外援助はGDPの0.19%にすぎない。スウェーデン、デンマーク、オランダ、ノルウェーなど世界でも最大の援助国はGDPの0.80%から1.2%を拠出している。その他の主なヨーロッパの国々は0.38%から0.50%を拠出している。そして、ほとんどの米国人は現状でも多すぎると考えている。USAトゥデイとギャラップが最近行った世論調査によると、米国では国民の59%が海外援助の削減を望んでいることがわかった。

さらに、米国の海外援助は、大部分が人道的な援助ではなく、地政学および軍事的な理由から行われている。実際、昨年の3月、米国下院議員で下院外交委員長のイリアナ・ロス=レイティネン氏(共和党所属、フロリダ州選出)は、米国の西半球に対する海外援助の優先順位について疑問を投げかけた。同氏は、気候変動に及ぼした影響を相殺するためではなく、麻薬取引撲滅や安全保障援助に資金を充てることを望んでいる。同氏は次のように主張する。「資本は限られているのですから、米国の国家の安全にとって最適な使い方かどうかを問わなければなりません」

今では、気候変動のリスクを国でプールすることは、米国の政策立案者には広く受け入れられている。ドーハでは、米国を含む195ヵ国が、世界でリスクをプールするという前提を受け入れた。このような世界規模のプールをまとめる原則は何だろうか? おそらく、聖書が指針を示してくれるであろう。飢饉が予測された時、聖書には次のように記されている。『そこで弟子たちは、それぞれの力に応じて、ユダヤに住んでいる兄弟に援助を送ることに決めた』(欽定訳聖書、使徒行伝11章29節)

ハリケーン・サンディは地球上で最も裕福な国の最も裕福な地域を襲った。コネチカット州は群を抜いて最も豊かな州だ。ニュージャージー州は3位、ニューヨーク州は4位につけている。コネチカット州では1人あたりの収入が5万6千ドルだ。フィリピンでは2000ドルである。この著しい格差を見ると、米国中部大西洋の州が他州に援助を求めながらも、フィリピンには寛大な援助をして然るべきだという議論もうなずける。

スタフォード法は、自然災害の対応を特別支出に頼らないようにすることが目的である。次回のワルシャワ会議では同じ考え方で、それに相応する国際的なメカニズムおよび機構の設立が決定されるかもしれない。

そのようなメカニズムの資金はどのように調達されるのだろうか? 温室効果ガスに課す税金である。そのような税金は公平で戦略的だ。発生した被害に等しいコストを課し、同時に将来の被害を減らすマーケットシグナルを示すことができる。

米国では、1トンの二酸化炭素に10ドルを課すと、年間600億ドルを徴収することができ、それは当面の適応や緩和による対応策および支援に十分な資金となる。富裕国がさらに1トンあたり10ドル支払うだけでも、国際的な規模で適応策と補償に充てる十分な資金が集まる。もっとも、すべての国は災害保険の掛け金としていくらかを支払うことが求められる。

各国レベルでも国際レベルでも、考えなければならないことはたくさんある。誰が資金を分配するのか? 資金の分配はどのような計算式で行われるべきか(すなわち、国内あるいは国際的な資金はコストのどの程度の割合をカバーすべきか)? どのように実際の被害を評価すべきか? 利用できる資金は気候変動によって引き起こされた自然災害のみを対象とするか、あるいは地震や噴火などの広範な自然災害を対象に含めるか?

議論はかまびすしく、激しいものになるだろう。しかし、ハリケーン・サンディは荒廃を引き起こし、カンクンおよびドーハでは、富裕国は気候変動の犠牲者に対する支援だけでなく、適応策と緩和策にも資金を提供すると合意した。こういったことが重なるなかで、米国、そして世界は問題の中心に向き合わざるを得なくなっている。誰が気候変動のコストを支払うのだろうか?

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本記事は On the Commonsのご厚意により掲載させていただいています。

翻訳:ユニカルインターナショナル

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誰が気候変動のコストを負担すべきか? by デビッド・モリス is licensed under a Creative Commons Attribution-NoDerivs 3.0 Unported License.
Based on a work at http://www.onthecommons.org/magazine/who-should-pay-costs-climate-change.

著者

デビッド・モリス氏は、ミネアポリスおよびワシントンDCを拠点とするInstitute for Local Self-Reliance (地域セルフレジリエンス研究所)を共同で設立、現在はヴァイスプレジデントを務め、同研究所のPublic Good Initiative(公共財イニシアチブ)を率いている。著書には「The New City-States and We Must Make Haste Slowly: The Process of Revolution in Chile(新たな都市国家と緩やかな変化の必要性:チリにおける革命のプロセス)」がある。